第146話 少女と冒険者 (少女視点)

 人の気配と、美味しそうな匂いを感じて目を覚ました、御飯だろうか?

 私と同じ位の少女が二人、私の顔を覗き込んでいた。

「起きました?ご飯在りますけど、食べられます?」

 その言葉にパチリと目を開けた、我ながら現金な物だ。

 体を起こそうとするが、上手く力が入らない、強引に寝返りを打って、両手をつっかえ棒にして、起き上がれば・・・

 そう考えて寝返りを打って腕を下にした所で、其のまま支えきれずに潰れてしまった。

「灯さん、支えてあげて下さい。」

「はいはい。」

 小さい方の少女の指示で、大きい方の少女に補助をしてもらい、上半身が起き

 た状態で枕を挟んで固定してくれた。

「ありがとうございます。」

「これぐらい軽いです、と言うか実際問題軽いです、いっぱい食べて下さい。」

 本当に軽々と補助された。スープの器を受け取ろうとして、改めて自分の手と腕を見た、ゾッとする位に痩せて居た、少女は困ったと言うか、不安げな顔色を浮かべ、少し迷った様子で、スープの器を引っ込めてパンを出して来た。大した違いは無い、そのまま受け取ろうと掴んだ所で指先に力が入らず、落としてしまった。

「今はこっちですね、あーんしてください。」

 少女は落としてしまったパンを苦も無く空中で回収、其のまま千切ってスープに投入、スプーンで掬って此方に差しだしてくれた。素直に口を開けて食事を受け取る。

 久しぶりに食べた人の食べ物は、泣きたいほど美味しくて、嬉しかった。

 久しぶりの御飯を無事食べ終えた所で、不意に質問が飛んで来た。

「所で、今は男の人が怖いとかありますか?」

 不思議な事を聞いて来る、今怖い物はゴブリンだけだ・・・

「いいえ?」

 普通の人であるならば、あんな扱いは無いだろう、崖から突き落としてくれた犯人であるあの貴族は怖いが、あの人物以外は怖くない、性善説と言う物では無いが、男の人は怖くない、ハズだ。

「じゃあ、怖くなったら言って下さい。」

「和尚さん、出て来て良いです、出番ですよ?」

 少女二人に呼ばれて、その人物が部屋に入って来た、二人より更に背が高い、そして、第一印象は、優しそう、だった。柔らかい笑みを浮かべて頭の毛はツルツルに剃り上げられた見事な剃髪、日に焼けて黒っぽい肌、筋肉質な腕、何となく平たい顔立ち、一目見たら忘れない様な不思議と存在感のある人だった。

「改めて自己紹介しますね、私達がチームガンダーラ、貴方を助けた冒険者のPTです、この人が和尚さん、チームリーダーやってます。」

 和尚と呼ばれたその男の人は、ペコリとお辞儀をした、此方も併せてお辞儀を返した、深く下げてしまうと元の位置に戻れるか不安だったので、頭を少し下げただけだったが・・・

「私がエリス、この人が灯さんです。」

 金髪の小さい少女がエリスさん、黒髪の大きい少女が灯さんと。

「私は・・・」

 此処で名乗って良いのだろうか?そんな無駄な葛藤が生まれた、犯人であるアレの耳に入るともしかしたら、後から考えると、私の様な平民の顔と名前など覚えている筈も無いのだが、怖くなってしまった。

「もしかして、名前忘れた?」

 言い淀んでいると、和尚さんの方から助け船が飛んで来た、この際だ、乗ってしまおう。

「はい。」

 咄嗟にその助け船を肯定する。

「じゃあどうしましょうか、名前無いのも不便ですよね?」

「誰か名前を・・・」

「はい。」

「はい、灯さん。」

「クリスさんで。」

「リスさん多いな、まあ、母音かぶらないから大丈夫か。」

 エリスさんと名前かぶってしまうと言う事らしいが、あまり気にしないのだろうか?

「じゃあ、今日からクリスさんです、よろしくお願いしますね?」

 自分で悩む必要も何も無く、和やかに私の次の名前が決まった。

「はい、宜しくお願いします。」

 何も聞かずにいてくれるのが有難かった。

「所で、クリスさんの今後なのですけど、如何します?このまま教会に入ります?それとも私達で身請けします?あなたの好きに選んで良いですよ?」

 何て事は無いと言う様子だが、この状態では何も分からない、でも、実際問題、私の選択権は余り強くない、今の状態、体が動かないのでは、足手まとい処か、只のお荷物だ。

「出来ればお世話になりたいところですが、今はこの通り、身体が言う事を聞かないので・・・」

 自分自身の体が言う事を聞いてくれない、何方にしてもお荷物だと捨てられるか、口減らしに娼館や奴隷商に売られるオチも見える。いや、ご飯が食べられるのならゴブリンよりはましだ。

「しばらくまともに動かして居なかったので、筋肉と関節、神経系が萎えてるだけだと思います、一寸触りますよ?」

 そう言うと、和尚と呼ばれた人は、私の手を取ってくれた、力強く、皮が厚くてごつごつしているが、優しい手だった、私に触れてくれる人肌の優しい暖かさ、只それだけで、泣きたくなるほど嬉しかった。

「もしかして?嫌でした?」

 少し不安気に此方の顔を見て来る。嫌過ぎて泣いて居るのかと思われたのかもしれないが、嬉しすぎて泣いて居るのだ、手を放さないで欲しい。思わず握りしめようとするが、やはり思った通りに指に力が入らない。今度は別の意味で泣きたくなる。

「いいえ、大丈夫です。」

「それじゃあ、握ってみて下さい。」

 力を込めて握って見る、指先が少し動いただけだ。

「あの時の枷があの形状で、長時間縛られていて、となると・・・」

 少し困った顔をしている。酷いのだろうか?

「治療だからな?」

 そんな一言が出て来た。

「今更何言ってるんですか、私達は文句言いませんよ?」

「脱がせます?」

 どうやら私が脱がないと治療が出来ないと言う意味で、テレが有っただけらしい。

 いかつい見た目よりも、中身は意外と可愛らしい。私の実質の生殺与奪権はこの人達にあるのだ、私が文句を言う事は無い、この言う事を聞かない手足が動くように成るのなら、裸を見られる位は何の問題にも成らない、恐らく助け出された時はもっとひどい状態だったのだ、今更恥かしがる事も無い。

「お願いします。」

 そう言って、大丈夫な証拠に自分で脱ごうとしたが、そもそも身体が言う事を聞かないのだと言う事を思い出した、自力では脱げなかった。

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