第145話 倒れている神父と、ゴリ押しのこじ付け
教会に到着、大扉を開けて礼拝堂に入ると、目の前で神父さんが大の字で俯せに倒れていた。
一瞬何かあったのかと周囲を見るが、特に何もない、横に居るエリスが驚く様子も無いので、通常の風景なのだろう。
「お祈り中ですね、急ぎでは無いので、少し待ちましょう。」
エリスが説明する、やっぱりお祈りなのか。
「あの体勢が祈りなんですか?」
灯が驚いた様子で呟く、五体投地はメジャーじゃないしな。
「五体投地、この身を大地に投げだします、だっけ?」
一応元の世界にも無い事も無い範囲の祈り方だ。まるっきり倒れるのは珍しいが・・・
仏教では土下座しながらにじり寄るのが五体投地と呼ばれるのだ。
「この世界の神様は、破壊と再生を司る、大いなる大地神です、其の大地に其の身を投げ出して大地と一体になり、大地の声を聴き、祈りの声を届けるんです。」
「成程・・・」
灯も納得した様子だ。
「もっとしっかりした正式な祈りは、こうした教会の床、祭壇前の石畳では無く、自然の地面や砂、石や岩の上でやるものですがね。」
神父さんが祈りを終えたのか、起き上がってエリスの言葉を補足する。
「中央の偉い方々は、其れで服が汚れるのを嫌がって、特注で専用の豪華な台座と敷物を作って、念入りに掃除させていたりしますので、神の声は遠そうです。」
何気に愚痴る神父さん、中央のお偉いさん方に思う事は有るらしい。中央の権力持ちが腐るのはお約束なのだろうか?
前回鬼子母神の木仏を贈ったが、大地として横に成って居るのなら、シヴァ神関係の仏でも贈ろうか?
息子のガネーシャの首を斬られ、キレて暴れる嫁のパールヴァディに踏まれて大地を守るシヴァ神のイメージと被ってしまったのだ。
因みに、仏教的に純粋な大地の仏は、地天(ちてん)もしくは堅牢地天(けんろうちてん)が有るのだが、やはりマイナーである・・・
仏教的にシヴァ神は破壊と再生を司る大自在天(だいじざいてん)。何故か仏教の仏だが、仏敵と言う反逆属性が付いて居たりする。敵であっても取り込む辺り仏教は強い、因みに天部の仏は結構仏敵付きが居たりするので、中々複雑である。
他の有名所では七福神の大黒天、シヴァと大国主が融合して出来上がった仏である、土地の豊饒と富を象徴する仏だ。
自分達には戦闘神として馴染み深い不動明王もシヴァ神の戦闘モードなので、意外と身近である。
もっとも、大自在天を取り込む際に大日如来の指示で不動明王にシヴァ神が殴られたと言う小ネタが有ったりもするのだが、其処等辺は各宗教のガバガバ設定のたまものである。
大日如来の戦闘モードが不動明王なのにシヴァの戦闘モードも不動明王だったりする謎矛盾は置いて置く。
流石に大自在天は無いので、先ずは不動明王を贈ろう、いっその事混ぜよう。
「これも納めさせてください、私の世界での大地の神の化身です。」
不動明王の木仏を取り出す。
「貴方の世界でも、私達の世界の神が居るのですか?」
少々納得がいかない様子だが、補足しよう。
「神や仏と言う物は、全知全能で変幻自在、人とは理が違うので、姿形はその時に合わせて変わります、其のまま大地の姿では動き難いので、人に近いこの姿を取るのです、これを変化と言います、姿形は飾りなのです。」
因みに、現地の神の同一化は日本神道でも太陽神、天照大神(あまてらすおおかみ)と大日如来(だいにちにょらい)が混ざり、密教系では大日如来が最高位なのは其のせいである。
此方で勝手に混ぜた事によって、此方の神の権能が増えたりしたら、それはそれで大笑いなのだが、どうなる事やら。
因みにこの宗教侵略システム、仏教等の多神教が優れている点は、神を神のまま取り込める点にある、権能が同一だったり性質が被った場合、此方の神が同一なので、御仲間ですと言い張れるのだ。
一神教ではその神は偽物だ、うちの神こそ本物、異教徒は死ねと言う展開に成るので、争いの元である。
改変禁止だった場合は怖いが、中央に反発しているのであれば多少擦れているのであろう。
「では、有難く頂きましょう。」
神父さんが恭しく不動明王の木仏を受け取ってくれた。宗教侵略第二段階、神と仏の同一化がこうして完了した。
因みに、前回の鬼子母神(きしもじん)の木仏は教会の端っこだが、しっかりと祭壇付きで納められている、納めて安心である。
「所で、あの娘の目が覚めたそうですが。」
やっと本題である、忘れて居た訳では無い。
「はい、先程目を覚まされました、喋れるので、意識もはっきりしているようです。食欲もあるようですので、今子供たちにお願いして、食事の準備をしてもらって居ます、私はその間に、こうして大地の神に感謝の祈りを捧げて居たのです。」
「おじいちゃ・・・神父様、食事の準備が出来ました。」
子供達が食事の準備が出来たと呼びに来てくれた、来客が有ったので言い直したようだ。そうか、おじいちゃんなのか。
「はい、有り難うございます、では、私達も食事にしましょう。」
そう言って、食事、野菜のスープとパンがお盆に乗せて渡された。
「これを届けてあげて下さい、一番奥の部屋です、私や子供達が届けるより、貴方たちが届けてあげた方が喜ぶと思いますので、お願いします。」
色々気を使ってくれているらしい。
「はい、任されました。」
さてと、どんなリアクションを取られるかな?
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