第98話 出番

 うおおおおおお

 地響きと地面が揺れる様な叫び声で目を覚ました。

「起きろ!和尚!出番だ!」

 思わず目を開けると同時にクマさんの出番だと言う叫び声が響いた。


 一先ず出番が無いと言う事で、般若心経の浄化と薬師如来の真言を使い、ゴブリンの毒矢で負傷した傷を浄化して回った、防衛戦が薄い所が無いかと回ったが、暗いので余り判らなかった、一段落した所で、義父上をギルドまで護衛し終えたエリスが合流、出番までは休憩と言う事で、クマさんの指示が聞こえる位置に3人で座って仮眠を取って居た。二人は当然の様に俺と手を重ね、肩を預けて寝息を立てていたが、俺が動いたので一緒に目を覚ましたようだ。


「出番ですか?」

「ああ、いよいよ本命だ、あの地響きと叫び声がこっちに来るぞ。突撃分を結界で止めてくれ。」

「了解。」

 此方の陣地の真ん中で居住まいを正す。

「お前ら!休憩組も起きろ!初心者組は場所代われ!これから本番だ!」

「「「「応!!!」」」」

 物陰から交代要員が返事をしながら出て来る。こんなに居たのか。


 交代したメンバーが前方に松明を投げて弓の距離を調整している。射程距離の目印確保らしい。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

 切紙九字で、一文字ずつ印を組んで発動させる。

 灯とエリスが離れて位置取りを調整して。同じように一文字ずつ印を組んで切紙九字切りを発動させる。

「嬢ちゃん達も使えたのか・・」

 クマさんが驚いた様子で呟く。

「「伊達や酔狂でPT組んでません。」から。」

 灯とエリスが得意顔で答える。語尾以外かぶっている。

「格子の範囲は安全地帯だ、有効に活用しろ!」

 気を取り直したクマさんの指示が飛ぶ。


「来たぞ火薬玉!投げろ!」

 地響き立てながら本隊の群れが来る、最初に居たのは本当に様子見だったと嫌でも判る規模の群れだ。この密集具合なら何を投げても当たるだろう。

 篝火で着火した導火線が火花を散らし、投石のスリングから放物線を描きながら群れに吸い込まれた。

 同時に、最初の突撃隊が九字切り結界にぶつかり、後方の群れに潰され。

 導火線から火薬玉の内部に火が移り、爆発した。

 どぉぉぉん

 二つ目の群れ、先頭が盛大に吹き飛ばされた。


「けが人居ないだろうなあ?!」

 クマさんが叫ぶ。煙が酷いので爆心地が見えない。

「まだ大丈夫だ!」

 誰かが叫ぶ。

「なら良い!未だ来るぞ!次投げろ!」


「その結界、どれぐらい持たせられる?」

「自分で解除するまでは大丈夫だ、このまま張っておくか?」

「ああ、出来る限り頼む。」

「はいよ。」


 空が段々と明るくなってきた、次々と火薬玉が投げ込まれ、ゴブリンの数を順調に減らしていく。足元も見える明るさだ、そろそろ、下に降りて走り回っても良い時期だろう。

「居た!」

 群れの向こうに頭一つ大きい個体を見つけた。キングかクイーンか?

 だが、流石に遠いので有効射程距離とは思えない。

「すまん、アレを仕留めに行ってくる、いざと言う時は結界消えるから後は頼む。」

「おう、任せた。頼んだぜ。」

 流石に疲労がたまって来たか、目の下にクマが有るクマさんに見送られ、決壊担当としての持ち場を離れた。


「やっと出番ですか。」

 灯が当然の様に横に着く。エリスも当然と言う様子で付いて来る。

「待っててくれても。」

「何が有っても付いていきます。」

「同じくです。」

 灯に続いてエリスもか、ああ、良い嫁を持ったなあ・・

「だから、脳内でもそういう死亡フラグ立てないで下さい!」

 当然のように読むな、今更過ぎて突っ込まんが。

 塀の上を走り、群れの少ない場所目がけて移動、そのまま飛び込み、邪魔なゴブリンを蹴散らしつつ、先ほど見つけたキングを目指して移動する。

 実質的に初陣な二人は、通常のゴブリンを紙か何かを斬る様に処理して行く。

 一撃一殺処か、振り抜いた範囲の物は纏めて潰れ、拉げ、二つに切り裂かれて行く。

「このままだと俺の存在感が無いな。」

 思わず苦笑しながら敵の目玉や首元を突き刺しながら呟く。

「気にしてもない癖に!」

 灯が突っ込みを入れて来る。苦笑を浮かべる余裕も有るようだ。

 突くより薙ぐ方が楽だな、多分刃が付いて居る必要性も、小物相手には意味があまり無い。

「活躍に感謝して可愛がってくれても!」

 エリスもまだ喋る余裕が有るようだ。

「ほぼ毎日可愛がってるだろう!」

 語尾が強いのは武器を振り回している関係上、どうしても力むからである。そもそも、周りが騒がしいので、叫ばないと聞こえない。

「ずーっと、可愛がってください!」

「もう一生可愛がってやるから!足りない分は好きなだけ抱き着いてろ!」

「だから!変なフラグ立てないで下さい!」

 この状態で惚気るバカップルである。意外と余裕だろうか?

「って!?」

 違和感を感じて反射的に腿から小刀を引き抜き、違和感の先に投げる、アーチャーでもいたか?尤も、着弾地点を確認するほどの余裕は無いが、多分当たって居る。違和感は消えたので、改めて群れの薄い方に抜け、一息付く。

 時々援護射撃が飛んできて、気持ち敵を減らしてくれている。

 更に後方では未だ火薬玉の爆発音が響いている、あっちは順調らしい。さて、こちらも仕事をこなすとしよう。

 

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