第3話 迷い込んだヒロイン

「ん?」

 がさがさバキバキと音が聞こえる、

「下手くそ?」

 足元の落ち葉や枝を踏み砕いている、山では下手にそう言った音の出る部分はあまり踏まないのがルールである、そんなことを考えながら音の出所を見つめる、どうやら近づいてくるようだ、出るか隠れるか?まあ出なけりゃ進まないだろう。

「こんにちは?」

 よく相手の確認もせずに声をかける、出てきたのは、若い、女子高生のようだった、何故こんな所に女子高生?。


 俺の顔を確認すると膝から崩れ落ちた、なんだろ?服の様子を見る限り同じ時代のようだが、挨拶も無いし変な倒れ方でもないので放っておく、無理やり口を開けて流し込む必要もなさそうだ、暫くするとのろのろと起きだしてふらふらと焚火の後を見て悲しそうな顔を浮かべた、

「すいません、ごはん・・」

 見ての通り終わっているが。

「先ずは挨拶」

 促す、ぽかんという表情を浮かべて。

「こんにちは?」

 やっと帰ってきた。

「はいこんにちは、んで、どうしました?」

 一先ず挨拶を返し促す。

「気が付いたら此処に居て出られません、おなかすいたのでご飯ください。」

 一気にまくしたてられた、意外と強い。

「のみかけでよければー」

 そう言ってペットボトルに残っていた水とチョコを出す、

「要る?」

 確認する、返されても困る、手を出してくるので居るのだろう。そのまま手を伸ばして渡す。

「ありがとうございます。いただきます。」

 素直に受け取って口に詰め込み始めた。

「減ってはいるけど口はつけてないのでご安心を。」

 要らん補足を加える。

「今出るのはそんなもん。」

 空っぽにして一息ついたが足りないという様子でこちらを見ている。

「ごちそうさまです。」

「はい、おそまつさまでした。」

 挨拶は大事である。

「これで水は品切れ、お話でもしようか?」

 状況のすり合わせをしよう。

「昨日からこの森で迷っていて力尽きて匂いがしたからこっちに来たと」

「はい」

 素晴らしい、何も役に立たない情報だ、まあこっちも大して変わらないが。

「まあこっちも似たようなもんだ、昨日から此処で彷徨ってる、匂いはウサギだな、こんな角突きのウサギが出たからご飯になった、残念ながら間に合わなくてもうないぞ」

 角を見せて持たせてみる、興味は無い様で少し触ったら返してきた。

「んじゃ、食休めも済んだし移動するか、来る?」

 置いて行かれると思ったのか、慌てた様子で立ち上がった。

「慌てなくても良いぞ」

 そう言って手を出す、手を握って立ち上がった。

「高橋尚(しょう)だよろしく」

「木村灯(あかり)です、よろしくお願いします」

 握ったまま握手をした。


彼女の視点

 いつから彷徨っているのかわからない、バックの中身なんて使えるものはもう無くなった、水場を見つければどうにかなるなんて嘘っぱちだ、小説には書いてあったけど少なくとも自分では何をすればいいのかわからない、生水を飲んでいけないなんて誰が言ったのか。

 さらに昨日から始まってしまった、空気読め私の体。

 このまま動物のえさにでもなるのだろうか、そんな暗いことを考えながら座り込んで、目を閉じた。

「?」

 何か焼けるいい匂いがした気がする、目を開けて匂いの方向を探す、

「こっち?」

 ふらふらと起き上がった、匂いに誘われるように足が勝手に動く、段々と匂いが強くなっている気がする、段々足が速くなった


「こんにちは?」

 それを聞いて目で人を確認できたときに安心して力が抜けた、足が止まってへなへなと倒れこんだ、

「・・・・」

 助け起こしには来てくれなかった、少しむくれつつ、立ち上がり、口を開いた。

「すいません、ごはん・・・」

 口をついて出たのは食料の催促だった、これではたかりだ。

「先ずは挨拶」

 窘められた、確かに先に挨拶されていたことを思い出す。

「こんにちは」

 挨拶を返す、

「はいこんにちは、んで、どうしました?」

 挨拶が返ってくる

「気が付いたら此処に居て出られません、おなかすいたのでご飯ください」

 思わず一気にまくしたてた

「のみかけでよければー」

 そう言ってペットボトルに残っていた水とチョコが出てきた、もらっていいのだろうか?

 ここでは貴重ではないのか?

「要る?」

 確認してくる、もらえるのだろう

「ありがとうございます。いただきます。」

 素直に受け取って口に詰め込み始める

 泣きたいほど甘い

「減ってはいるけど口はつけてないのでご安心」

 気にしている余裕はなかった

「今出るのはそんなもん」

 もらった分をすべて平らげた、量は足りなかったけど贅沢は言えないし、助かったのだ

「ごちそうさまです」

「はい、おそまつさまでした」

 すぐに言葉は帰ってきた、

「これで水は品切れ、お話でもしようか?」

 現状確認のための話し合いが提案された。


主人公視点

「ほら、この赤い実は食べられる・・・・多分」

 そう言って渡してみる

「多分ってなんですか・・・?」

 渡された灯が半目で睨んでくる。

 例のでかいイチイの実だった、今のところ実が成っているのはこのイチイもどきだけである、

「日本で知ってる似てるものだったら赤い外側は食べられる、種は毒だから注意な」

 そう言って自分でももぎ取って目の前で食べて見せる、毒見は大事だ。

「昨日も食べたから毒物だったら俺が死んでる」

 ぬるぬるする果汁が糸を引く、

「一応甘いから安心するんだ。」

「一応ってなんですか・・・」

 灯が突っ込みを入れながら齧った、思ったよりは甘かったらしい、目を丸くする。

「大丈夫だろ?」

 はい、という様子で頷く、ぬるぬるする果汁が糸を引いている、それはそれで怪しい図だなと、要らんことを考えていた。


「んで、芋っぽいな。」

 そう言って蔦に着いたハート形の葉っぱを指さす、山芋のようだ

「掘る道具が欲しい探してきて。」

 指示を出しつつ落ち葉をかきわける、道具は無いかと考えたら山菜堀のナイフが出てきた、あったなこれ。

 骨もとっとけば良かったと後悔しつつ掘る。

「これでどうです?」

 平べったい石を持ってきた、上等である。

「其れで良い、反対側掘ってみて。」

 そう言って二人で掘り出した、30センチほど掘り進んで取り出した、髭の着き方を目視確認、二つに割ってて糸が引くか確認、舐めてみて苦みの確認、手の甲に塗り付けてかぶれ確認・・・

「何してるんです?」

 怪訝な様子で聞いてくる。

「毒見、有毒確認。」

 そう返しつつ葉っぱ側のむかご確認、いや、時期が違うから付いてないな、あれついてたら美味しいのだが、小さすぎて食べれられない。

「どうです?」

 不安そうに聞いてくる。

「今のところ大丈夫、苦くないし。」

「味の問題ですか?」

 えーという様子で聞いてくる。

「毒物は大体苦い、味覚を信じろ、さっきの赤い奴の種もかなり苦い奴だ。」

 だから、れっつトライと切り口を目の前に出す。

「試してみ?」

 えーと言う恐る恐るというように少し舐めた。

「苦くはないだろ?」

 もごもごと舌の上で転がしている。

「苦かったら吐き出す、だから少しずつ試すんだ。」

 どっかでみたなこの構図とか要らんことを考えながら説明していた

「違和感なかったら飲み込んでもいいぞ、吐き出してもいいけど。」

 飲み込んだところで。

「物によっては腫れたりするし痺れたりするから注意な。」

 睨まれた。


「ところで、水のあるとこ知らないか?」

 移動ルート違うのだからとだめもとで聞いてみる、今更である

「聞いてみるもんだ」

 小川があった、川の水をそのまま飲むわけには行かないが、そこそこ綺麗なようだ、石をひっくり返して川虫の確認をする、ヤバいLVの汚染はないようだ、岩魚的な陸上を歩いてる魚とかサンショウウオとかザリガニ的な捕まえやすい甲殻類が居たら美味しいのだが

「ここでいったん休憩して飯にするか?」

 さっきの山芋もある、一食分には足りないかもしれないが

 疲れているというか、栄養不足も追加でこの子のペースが下がっている

「はい・・」

 意識もぼんやりしているようだし肩で息をしている。休憩は必須か、

 水の確保どうしようかなと知識の手札を確認する。

「そのまま寝てるか座ってろ、余裕が出来たら薪集めてても良いぞ。」

 このまま上流目指して水源を確保できれば楽なのだが、そこまではこの子が持たなそうだ、

 ペットボトルに小川の水をくむ、変な濁りは無しと、リュックのカラビナにぶら下がっている金属製のマグに水を入れる、親父が低い山でもキャンプ道具一式持ち込んでたのを思い出した、何を大げさなと思っていたが、こういう時には納得するしかない。

「一回沸かせばどうにか。」

 乾いていそうな落ち葉と流木を拾い集めて焚火の準備をする、石も組んで竈にする

 灯は力尽きたのか横になったまま動いていない。

 葉の上にマグネシウムを削って溜め、本体を擦って着火、特に問題もなく火が付く、山芋を川で洗い、火にかけて髭を燃やす、水の入ったマグを竈にのっけて沸かす、芋が燃えないように注意しつつ火を通す、残していた頭蓋骨を小川に浸して置いたらエビ類が集まっていた、エビ類はゆっくり手を伸ばせば逃げないのでつかみ取りできる、ボトルでトラップでもいいのだが、今回はボトル一個しかないのでもったいない、一匹5センチ程度だが十分だ、大漁とはいかないがおやつにはなるだろう、火が消えているが焼けた石に乗っければ余熱で火が通って赤くなる、これで出来上がりでいいだろう。

「ご飯できたぞ、ほら。」

 そういうとぐったりと身を起こした、程よく冷めたマグカップにはお湯が入っている

「熱いから気をつけてな。」

「すいません、ありがとうございます。」

「塩分はこれだな。」

 そう言ってポテチを数枚入れる

「薄いけどありがたく食べるがいい。」

「まだあったんですか。」

 すこし不満気だ

「文句言われる筋合いはないぞ。」

 これで終わりだし、そう言ってからの袋に焼けたエビを放り込んでシャカシャカと振り回す、これで味付けも完了。

「おいしいです。」

 あったかいものは有難いものだ、顔のけんも取れたようだ、

「これは丸かじりな。」

 芋とエビを渡す、それ空になったら返してとマグを受け取る、ボトルから水を入れてもう一度沸かす、効率悪い・・・

 自分の分も食べ終えて一息ついて灯を観察する、さっきの倒れそうな気配は無くなったが、どうだろ?まあ川の近くで食料確保できるなら暫く戦えるが、装備品少なかったのが痛い、山で若い子が居るのはよくあることだが、異世界で遭難するのは初めてである、純粋なお荷物着きでは更に辛いが、見捨てるような気も無いので、まあ、どうにかするとしよう。

「何か荷物とか道具ある?」

 ちなみにこの子、通学鞄にブレザー制服である、縛りプレイにもほどがある、靴も通学用のスニーカーのようである、皮の通学靴だと更に酷いが、それだけはまともであった。

「中身見せてもらっていい?」

「・・・どうぞ。」

 開けて誤魔化す元気もないようだ、空のペットボトルと筆記具、カッター、電池切れのスマホ、財布、コンビニのビニール袋、教科書とノート、タオルと、ポーチに生理用品、ナプキンに痛み止め、これでは確かに生き残れない。というか、時期的にあれだったのか。

 だがボトルが増えたならやることがある

「カッターとボトルとタオル借りるぞ」

 返事も待たずに加工を始める、上部分をぐるっと切り離して逆さにして穴をあけて固定する、中にはさっきの頭蓋骨を放り込んで、トラップ完成である、これでほっといてもエビが取れる、浅瀬に沈めて岩で固定する。

 タオルは素直に水につけて絞って灯の頭に乗っける、

「顔でも吹いとけ、少しはすっきりするだろ。」

「・・はい。」

「痛み止め飲んだのか?」

「・・はい。」

「何日目?」

 聞くのはどうかと思ったが聞いておかないと

「・・・・・2日目です、3日ぐらいで収まります。」

「全部重いの?」

「ずーっと重いです。」

 大分調子が悪いようだ、今日はこの辺で休憩だな、上流確認したいが、又後でだろう。

 増水を考えて河原の砂利地帯から草の生えたあたりまで下がってツエルトの拠点を作る。

「こっちで寝とけ。」

 そう言ってそのまま抱き上げて移動する、

「・・・襲わないですか?」

 床部分に下して背を向けたあたりでそんなことを言われた、

「せめてまともな状態にになってから言え、ぐったりしてるの襲う趣味はない、赤いし」

「でも私何もできませんし・・・」

 寄生状態だと置いて行かれると言いたいらしい

「置き去りにする趣味もないから安心しろ。」

 我ながら童貞臭い、そんなこと思いつつ、顔を近づける口に軽い、付けるだけのキスをした。

「手付はこれで良い、童貞だから刺激が強いんだよ。」

 なんですかそれという風に少し笑ったようだった、そのまま目を閉じて静かになる。


「さてと、童貞卒業のためにがんばりますか。」

 性欲無いわけじゃないんだけど、元気にしないと気分的に立たないし。我ながらヘタレである。

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