第22話 教会と依頼
「やりすぎると家が聖域にされそうね?」
義母上が苦笑しながら見ていた。
「初対面でのはったりは必要でしょう?」
「初対面ならまずはったりだって」
俺の言葉をそれっぽいニュアンスでエリスが翻訳する。
「ここの教会はそんなに強くはないからあんまり身構えなくてもいいと思うけどね?」
「まあその辺は怖がりですので」
「自分は怖がりだから準備するって」
エリスも苦笑いしながら翻訳していた、そんなに安全なんだろうか?
「あとは、耳元でこっそり喋るから出来るだけそのまま翻訳してくれ、言葉尻掴まれて何かされると怖い、」
そうこうしているうちに騒がしい雰囲気が来た、問題の教会が到着したらしい。
「この辺に聖者が降臨されたと聞いて来ました」
「あらあら、丁度良かった、お待ちですよ?」
義母上が対応する、家に招くのは客人の仕事ではないので、そこは任せた。
青い修道服を着ている、どうやら聖職者の服装は万国共通らしい、分かり易くていい。人のよさそうな爺様だが。
「こんにちわ、和尚とよばれております」
とりあえず挨拶しつつ手を出す
「こんにちは、この土地の教会を任されております、クルアと申します」
問題無く返事が返ってきた。こちらの手を握り返す、エリスと私のどっちを見ていいのかちょっと困り気味の様子だ。
「こちらから出向く予定でしたが、来てくれるということでお待ちしてました、」
「ええ、あれほど強力な浄化な力を見たら来ないわけにはいきませんから」
じい様が苦笑交じりに返してくる
「少々遠くから来たもので、言葉が通じないので私が翻訳をしてます」
「なるほど、異界は言葉が違いましたか」
言葉が違うことを説明され、納得した様子で頷く。
「問題無くお会いできて安心しています、私の地元ではほかの住民との出会いは争いの元ですから」
キリスト教と初期ローマの宗教戦争とか十字軍の遠征とかイースター島にインカ帝国、異端狩りやらペストのとばっちり魔女裁判等々、争いのネタには事欠かないが、どうやら今回来たのはこの人一人らしい、確かに警戒する必要は無かったかも知れない。大げさに聖騎士隊とか引き連れて来るかと思っていた。
「託宣がありまして、異界より救世主が派遣されるので失礼のないようになさいと」
救世主扱いか、生臭似非坊主の俺が仏陀とかキリスト扱いされるのは過大評価にもほどがある。
「それはまた、準備して待っていたのはお互い様ですか」
苦笑いしつつ返す。
「ええ、この託宣はしっかりと全世界に文が伝わっているはずです」
包囲網敷かれてる?現地で反発有ったらどうする気だ・・
「ここに私がいることは?」
「現状私だけの秘密です、誤報であっては困りますから」
「それは良かった、正直こちらの世界の右も左もわかりません、出来ればこちらの準備が出来てからお願いします」
こちら側がそちら側を信用しきるまでは下手に動けない、坊主としては権力者に取り入る仕事なんて江戸時代までで終わっているのだ、最近の例としてのカルト教団達からは目をそらす。家は小乗仏教ではなく大乗仏教の世代なのだ。
「はい、では準備が出来たら?」
「ええ、その時はお願いします」
じい様は無事帰った、
「お疲れ様」
「お疲れ様です、でもなんであんなに緊張してたんです?」
エリスが不思議な様子で聞いてきた。
「うちの故郷では宗教が少しでも違うって言うとその意見のすり合わせが殺し合いだったんだ」
「また極端な、平和だったんじゃないですか・・・?」
「殺し合いしすぎて、殺しまくってた側が優位になったから気が済んだって言って終わりになったんだ」
「エルサレムとパレスチナですね?」
灯が実例を挙げる、
「正解、ちょっと遠い国なんだが、聖地がどっちの物かで未だに揉めて居る。」
「火種残ってるような?」
エリスがピンと来ない様子で突っ込みを入れる。
「だから何時でも殺し合いになる準備はしてて、お互い何時でも殺せる状態で睨み合ってるから関係のない所は平和になってるんだ。いまだに現地は戦闘中」
「言うほど平和じゃないんですね?」
納得したらしい。
「そゆこと、だからそっちのイメージで何があるかわからんから緊張してた」
「あの人は穏健派と言うか中央の派閥争いとか無縁ですから多分大丈夫ですよ?」
「そうだったらいいんだけどね」
中央の覇権争いとか怖い、出来れば近づきたくない。
「さて、それじゃあギルド行こうか、案内はエリス任せた」
「はい、任されました」
「ついてきます」
「灯は逸れるなよ?」
森の中での脅威のモンスター遭遇率は人里でも発揮するのか分からないが、そもそも言葉が通じないので逸れたら困る。
「手でもつなぎますか?」
「エリスと灯が繋いでてくれ、しんがりするから」
「百合もいけるんです?」
「百合が嫌いな男は居ません」
「はいはい」
灯とエリスが手をつなぐ、現状この二人の仲は悪くないようなので安心だ。
「じゃあ行きましょ?」
「はい」
「それじゃあ出かけてきます」
「はいはい、夜までには帰ってきてね?」
「はーい」
ギルドに入るとやっぱり静まり返った、明らかに観られている、今の所直接何されるというわけではないので放っておいても問題は無いが、此処で絡まれたら面白いのだろうか?
「とりあえずそっちの壁にクエストボードありますので、そっちでクエスト確認します」
「結局俺らは文字よめんから頼んだ」
「はいはい、今からでも間に合う簡単なの受けますよ」
エリスは手慣れた様子で一枚の紙を手に取った、
「薬草採取で良いですよね?初心者のお約束です」
「ああ、問題無い」
「大丈夫です」
エリスはその紙を持って受付に持っていく、
「この依頼行きますのでお願いします」
「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」
紙を出され、エリスが手慣れた様子でその紙に記入していく。
「受付完了です、それじゃあ外行きますよ?」
「はいよ、何書いてたんだ?」
「PT名と受けた日にち、おおよその帰還予定日ですね、外に出るときは必ず出します、何かあったとき行方不明だったりした時のトラブル防止とか、極端に遅れた場合は捜索隊組まれたりします。」
「結構念入りなんだな」
「送り出してほったらかしじゃ誰も居なくなっちゃいますから」
「ごもっとも」
「完全初心者PTだと死亡率が酷いのでフリーのベテラン付けてもらうこともありますが、このクエストならそれも要らないのでダイジョブです」
「そもそも初心者扱いなのか?」
「私自身片手で数える程度しか外に行ってないです、村の中で畑耕す仕事も有りますし」
「なるほど、何でもいいのか」
「仕事の依頼は基本ギルドに一元管理されてますので、お金が無くなったらここに来れば仕事は有ります」
「安心だね」
現状エリス居ないと何もできないのはお約束なので今更言わない。
「じゃあ行くか」
そう言ってドアを押すと丁度反対側にも居たらしい、窓無し両開き押戸なので反対側が見えなかった、こっちは押して相手も押して、無意識にそのまま押し切ったので相手が何とも言えない様子で固まっていた、そのまま外に出て戸を固定、腕の下を潜ってエリスと灯が外に出る、
「あ、すいません、どうぞ?」
自分が退くと、きょとんとした様子で固まっていた相手は素直に中に入っていった、喧嘩とかにはならなくてよかった。
「前回は森側から入りましたけど、草の採取は反対側の草原側から出ます」
「出口何か所もあるのか?」
「山側と沼側もありますよ?」
「なるほど、便利な土地か?」
「辺鄙なだけです」
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