第208話 意思確認と、EXと言う金食い虫

 その後、媒介する蚤(ノミ)に刺されないように、全身防護用の防護服、単純に皮膚が露出しない上下ツナギ状の服と、飛沫感染を防ぐマスクと手袋を交換用の物も含めて大量に調達して、虫除けとして放線菌の培養と薬品としての精製の為に後方支援要因として後からアカデさんも参加する事に成って居た、本気で失敗したら一家離散じゃすまないというか、実質全滅だなと気を引き締める。

 ペスト医師と言うと鳥の嘴みたいなマスクと、羊革の全身マントだが、効果としてはかなり微妙な上、羊革のマントでは結局蚤が張り付いてしまうので悪化するらしいと言うのは、知識の蔵(アカシックレコード)からの入れ知恵だ。

 時間が出来る毎に知識の蔵から色々と情報は仕入れるのだが、順番通りに項目が並んで居る訳では無いので、油断すると情報に飲まれて意識が帰って来れないと言うか、無駄に疲れるので意外と使い勝手は宜しく無い。


「命懸けって言うのは本気か?」

 出発前に義父上が深刻そうな顔で確認して来た。

「本気です、故郷だと、例の病気が最初に流行った時は致死率が良くて6割、悪くて9割、1億人死んだそうです」

 愉快な桁数の数が出て来て義父上の目が遠くに成る。

「お前等じゃ無いと対処出来ないと言うのは?」

「何だかんだで故郷では古い病気ですから、対処法自体は知ってます」

「お前らが現場に行く必要性は?」

「薬を作る為に、サンプルの病原体が欲しいんです」

 具体的には病原体を寒天的な培地で培養した上、どの放線菌の培養株で死滅するのか等の確認をしなくてはならない。

 ぶっちゃけてしまうとEXだけでどうにかできる可能性は有るが、現地に行かずに解決では色々怪しいにも程が有るし、確実に諸々筋が通らない。

「期間は?」

「少なく見積もって何ヶ月単位かと」

新規感染者を減らすための初期対応だけなら短く済むが、薬が欲しいと言って居るのだから、菌類培養と薬品精製と成ると色々大変だ。

「・・・・エリスと灯だけでも置いて行くのは? ・・・・いや、和尚、お前が死んでもかまわないと言う意味じゃないぞ?」

 一瞬言葉を選ぶように、言葉を詰まらせながら言って来る。

「悪くない選択肢だと思いますが・・・」

 両隣の灯とエリスが困り顔で此方の両腕にしがみ付き、言外に離れないぞとアピールする。

「あの時も言ったじゃ無いですか、地獄の果てまでって」

 エリスが懐かしい事を言う、そう言えば昔そんな事を言って居たのを思い出す。地獄の概念は仏教ネタを話す時に使って居るのと、この世界にも死後の概念が有るようで特に違和感の有る表現では無い。

「エリスちゃんに同じくです」

 灯もエリスの意見を肯定する。エリスは真面目顔、灯は幾分力が抜けて居るが、離れる気は無い様だ。

「そんな訳です・・・」

 この状態に成っては自分の発言力は多数決で無視される流れである。

「お前らなあ・・・」

 義父上が困り顔で此方の顔を見る、お互い笑う要素は一切無い、只真っ直ぐ目を合わせる。

「・・・・・・・」

 お互いしばし無言のお見合いタイムだ。

「勝手に死ぬなよ?」

 結局折れた義父上がため息交じりに一言漏らした。

「はい、行って来ます」



「此処から先は別の領地です、私の方から領主には釘を指しておきますが、あまり派手な事はしないで下さいね?」

 役人の馬車と手引きで関所フリーパスで越えた所で、役人が改めて釘を指して来た。

「気には留めておきます」

 実際問題、目立つだけで救えるのなら目立つだけ目立つ所存でも有るが、必要に駆られない限りはあまり派手な事をする積りは無い。

「では、先に偵察行って来るとしよう」

 畑や草原の地帯を抜け、人里に差し掛かった辺りでEXが小さい虫や蛇の形態で分身体(子機)を出して、周囲を調べると言って散って行った、因みに、違和感が無く、何なのか分かり易い様にと指令機、親機である結晶コンピュータ入りの本体は赤くて角突き、取り巻きの子機は緑色である。何でその色合いなんだと突っ込んだ所、何でも兄弟機が隊長機はトリコロールにカラフルで角ばって羽を生やして格好良くあるべきだと力説していたが、カラフルである必要は無いが分かり易い色は欲しいなと言う事でこうなったらしい。灯が「機動戦士・・・」とツッコミを入れたのはお約束だ。恐らくその兄弟機の方が話は盛り上がった事だろう。

「お前らも頼んだ」

 一声かけると、散って行くEXを追いかけて猫達が居無くなった。野良の害獣扱いされないように目印の首輪は付けて居るので猫の安全自体は確保できるだろう。

 しかし、不思議と言う事聞いてくれるな?

 満足気に猫を抱えていた灯とエリスが少し残念そうな表情を浮かべる。

 野良な野生の猫を抱えると蚤(のみ)や虱(しらみ)にやられそうでは有るが、この世界の除虫菊の様な植物、ムシヨケソウからピレスロイド(節足動物用神経毒)系の虫除け成分を精製して、毛の中の蟲絶対殺す薬を作って置いたので、其処等辺はある程度安心である。

 因みに、この薬の使い方は、空間制圧用に熱で煙にして燻すか、単体用に毛皮に垂らすと毛細管現象で勝手に毛皮全体に行きわたるので、一滴垂らすだけで蚤やら虱、壁蝨(ダニ)等が勝手に居なくなる、最終的に半死半生な蟲達が足元に落ちるので、大掃除必須になるのは諦める方向で・・・

「あれって何です?」

 役人が不思議な困り顔で聞いて来る。

「一応同郷の生き物(?)です、余り突っ込まんでください」

 この世界に魔導生物やロボ、ゴーレム的な物が有ると聞いた事は無いので、蟲的な何かだと言った方が説明は楽である。

「ええ、もう突っ込むのにも飽きました」

 ある意味予想通りな此方の答えに諦め交じりに、呆れた様子の返事が返って来た。

「夜までにはこっちに帰るように誘導してくれよ?」

 猫達を先導するEXの親機に向かって釘を指す、隊長機は此方の手元に居残りだ。

 因みに、EXは診察の補助要員かつ、顕微鏡等の観察要因でもある、観察用のレンズは鉛クリスタルガラスを材料として渡した所、自力でレンズを研磨して色々作っていた、鳥に食われている間に諸々の加工用に金剛石(ダイヤ)の原石を確保して居たようで、レンズの材料渡すだけで実質勝手に倍率数百倍以上の可変倍率顕微鏡と言うか、望遠鏡を含めた光学電子音波の自動観察機が出来上がるのだからオーパーツにも程が有る。

  尚、EXに食われた材料は、金、銀、銅、自分のスマホ、モバイルバッテリー、屑鉄を山ほど、重さにして既にキロではなくトン単位、恐らく価格にして既に金貨で数十枚単位で食われて居ると思われるが、現状此奴じゃ無いと出来ない事も有るのでしょうがないと諦める事にしている。

 因みに、一定以上質量が増える毎に子機を作って観測機としてあっちこっちに行ってしまうので、本体重量は言う程増えない、物量と言うか質量が必要な時は何処からともなく金属製の節足動物やら何やらが寄って来るので、こいつの縄張りと言うか、移動制圧範囲は広そうである。

 当然だが、軽いと言っても本体重量も其れなりに増えて居る為、手元に置いて運ぶ場合、加護持ちで力自慢な灯とエリス以外は余り長時間持てないと言うのが正直な所。重い貴金属の謎圧縮構造で愉快な重さと成って居る。因みに、虚空の蔵にEX本体及び子機は収まらなかった事から察するに、恐らく生物と言うか、魂とか有る扱いにされて居る様だ。九十九神だろうか?

「誘導はするが帰って来るかはあいつら次第」

 因みに、EXはこの世界は電波的にはとてもクリアで山等の障害物以外の電磁波ノイズは余り無いので、子機との通信も其れなりに出来るらしい。

 GPSは流石に衛星も無いので位置情報はアバウトに成るらしいが、子機同士である程度はP2P(ピアツ-ピア)の同期通信で情報を補強出来る為、言うほど困らない様子だ。

 先程のEXと猫の仕事は鼠の駆除と、病原菌等のサンプル確保で、夜には戻るようにと言ったのは、純粋な安全確保だ。

 因みにEXは夜休む必要性は無いが、念の為である。

「あいつ等野生だしなあ・・・」

 半分諦めモードで呟いた。





 追伸

 仔猫達が和尚の言う事聞いてくれるのは、虎の威を借ると言うか、ぬーさんの威を借りて居る為です、前回猫会議の時に一緒に居て、匂いも移って居るので、半ばボス扱いされて居ます。


 良い加減別作品だと言い張るにも無理が有るので、本編のこっちに移しました。

 と言うかこのノベル界、読者が作者では無く作品に付いて居るので、新作だと読者集めがとっても大変ですねと、実感しました。

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