助けた少女

第79話 崖の鳥(時系列が追い付いたので、移動します)

時系列がやっと追いつきました、長々と放置してすいません。


「あ、鳥拾いの時期です。」

「「はい?」」

 依頼の張り紙を前にエリスが妙な事を言い出した。俺と灯が思わず聞き返す

 何時ものようにギルドで依頼を物色していると、珍しい依頼があったらしく、エリスが不思議な事を言い出した訳だ。

「美味しいらしいから受けましょう。」

 説明する前にエリスが依頼の紙を手に取って受付に持っていく。

「はい、受付終わりです。」

「珍しいな、こっちに確認しないなんて。」

「急ぎなんですか?」

 手早く手続きを終わらせたエリスに質問する。

「ロック鳥って言う岩場の崖に巣を作る鳥が居るんですけど。繁殖期が丁度今なんです。」

「繁殖期の鳥捕まえると個体が減るんじゃないか?」

 元の世界のノリだと資源保護が気に成る。植物系はこっちでも保護しているようだし。

「資源保護とかあんまり気にしなくて良い獲り方何で大丈夫です。」

「まあ、こっちの風習に従うが。」

「行ってみましょう?」


「崖にしても高いな・・・」

「何百mと言うか、キロありそうですね・・・」

 二人で崖の上を見上げ、規模の大きさにため息を付く。

「ロック鳥はこの上に居るんです。」

「いや、この崖登るのか?」

「待ってれば良いそうです。危ないんで崖からは離れて。」


 良く分からないが待っていると、雛鳥を引き連れた巨大な鳥が歩いていた。

「あれ?」

「でっかいですね・・」

 遠巻きに観察する。

「アレですけど、アレでは無いです、あの鳥襲ったら普通の冒険者は返り討ちです。」

「この森の時点で生存圏外なんだから先ず返り討ちなのでは?」

 灯が珍しく突っ込んだ。現在地は魔の森、山側の崖である。ちなみに親鳥が体高で目測3m近い、雛鳥が1m位あるのだが・・・

 これならゴブリンも何もあった物ではない、恐らくキングより強い。

 ゴツンゴツンと何かぶつかる音を立てながら崖から何かが落ちてきた。

 べしゃりと地面に落着する。

 はい?

 さっきからいる親鳥が落ちた物に駆け寄って確認している。

 暫く確認した後、残念そうに声を上げ、その場を去った。

「アレです。」

 エリスが狙ったものが来たと言う。

「あれか・・」

「アレなんですか?」


 落下した物を確認すると、落下の衝撃で潰れているが、先ほどの雛だった。

「なるほど、鳥拾い・・」

「そういう事です。急いで回収して離れますよ。」

 エリスが指示を出す、雛鳥はもう死んでいたらしく、素直に虚空の蔵に収納された。

 収納が済んだので急いで崖から離れる。

「何で落ちてくるんです?」

「実際見るのは初めてだけど、そういう選別方法。」

「説明しなくても大丈夫ですか?」

「いや、説明頼む。」

 自分の世界とは違うかもしれないし。

「産卵と巣は崖の上なんですけど、雛鳥が生まれると、暫く世話してから、親鳥が育児放棄して、こっちに降りてくるんです。」

「育児放棄・・」

 灯も複雑な顔をしている、俺もこの生態を聞いた時は何とも言えない気分になった。

「雛は親鳥を追いかけてこの崖を落下してきます、そして、落下して無事生き残った雛だけ育てるそうです。」

 元の世界にも同じ生態のカオジロガンと言う鳥が居る。

 そんな事を言っていると、もう一匹落ちてきた、親鳥が走る、今度は無事生きていたらしい、ボロボロにも見えるが立って歩いて親鳥を追いかける。

「実際生き残る物居るんだな・・・」

「あれだけの高さから落ちてきて、生存率半分あるそうですよ?」

「高いのか低いのか微妙だな・・」

「生きてた分は全部育てるそうです。」

 複数産んで最初の一匹以外捨てるペンギンよりはましだろうか?

 鳥の親子を観察していると、雛を狙ってかちょっかいを出そうとしたゴブリンが親鳥に返り討ちにされ、餌になっていた、弱肉強食・・・

「ゴブリンの肉って毒あるんじゃないのか?」

「毒は弱いけど純粋に不味いです、あの鳥が何でも食べるだけで・・」

「なるほど・・」

 小型種は丸のみの範囲らしい、頭を咥えて地面に叩き付け、ぐったりしたところを丸呑みにしている。

 3匹いたが、一匹は目玉をつつかれ、足の下に、二匹目はさっきの丸呑み、最後の一匹は逃げ出したので生存している。

 足の下に居る物を親鳥が手足を引きちぎって連れている雛に与えている。

「逃げたゴブリン追いかけますよ。」

 エリスが焦った様子で指示を出す。

「巣をつぶすのか?」

「最優先殲滅対象です!」

「エリスちゃんも強くなりましたねえ・・・」

 灯がしみじみと呟く、それは確かに。

「りょーかい。」

 3人そろってゴブリンを追いかけて走り出した。


 30匹ほどの群れだった。

 火を放ち、印を組んだ九字切結界で進行方向を塞ぎ、混乱したところを切り込む、何だかんだでエリスも灯も九字切や不動明王の真言を使えるようになったので、囲まれた時にも其処まで苦労する事は無くなった。

 二人は鬼子母神の加護のおかげか、母になって強くなった、概念や精神的な物では無く、物理的に、鬼子母神は悟りを開いた母鬼で、いわゆる子供の守護神だ。ゴブリンの通常種やホブゴブリンぐらいは任せられる、流石に技術的な物は教え切れていないので、力押しなので、技術的な物を使うゴブリンキングは流石につらいようだが。今ではその二人が背中を守ってくれるので、不意打ちも怖くはない。

 油断するのは問題だが、装備が整った以上、最初にナイフ一本、鉈一本で一人で立ち向かった時ほどの怖さは無い。

「ナウマクサンマンダ・バサラダンカン!」

 不動明王の真言と共に叩き付けた鉄の棒が相手の防御を弾き飛ばし、ゴブリンキングの頭を割る。

 最近はゴブリンを殴るのならば刃物は欠けるから勿体無くなった。

 鈍器は便利である。刃物は剥ぎ取り専門だ。


 人数が足りないので完全殲滅とはいかないが、見たところでは襲って来れる物は居なくなった。

 念の為、宿主母体の人や残党、幼生が居ないか見て回る。


 手足を枷に縛られて、ぼろぼろの少女が其処に居た。


「良かった、無事?」

 縛られていた手足を開放して、エリスが手を差し伸べる。

 少女は、どうしたらよいのか判らないと言う様子で、手を取れずに、あわあわとしていた。

 こういう時に男は邪魔である。

「大丈夫だから・・・」

 そう言って、エリスが少女を抱きしめると、戸惑った様子の少女が泣き出した。


「エリスと会った時を思い出すな・・・」

 あの時は、よくもまあ、あんな装備で助け出せたものだ・・

「どれぐらい前なんでしょうね?」

 俺と灯は一歩下がって周囲の警戒である、残党や不意討ちは流石に怖い。

「正直覚えてない・・・」

 既に年単位だ、あまり暦に縛られない冒険者稼業は季節位しか見ていない。

 不意に居た残党ゴブリンを灯と俺が無造作に潰す。

「記念日なんだからおぼえてても良いのでは?」

 灯は少し呆れ気味にため息交じりで呟く。

「初めての出会いがこれじゃあロマンも何もあったもんじゃないと思うぞ。」

「いわゆる運命の恋と言っても言っても罰は当たりませんよ。」


 落ち着いたらしい少女の傷を、薬師如来の真言を使い手当をして、服を着せ、ゴブリンの集落を般若心経で浄化して回る。

 地図を取り出し、位置関係を確認して、帰路に就いた。少女は足腰が萎えていたので、背負って移動だ。

「和尚さんテンション的にはどうです?」

「普通。」

「可愛い子背負うと楽しくなるのでは?」

「大分前の事引っ張り出すな。今更嫁増やさんから大丈夫だ。」

 第一に、この娘の状態はエリスより酷いので、興奮できる状態ではない。というか、エリスの時より軽いので不安になる。

「それはそれで問題になりそうですよ?」

 この娘を身受けしろと言いたいらしい。

 拠点の家では既にエリスと灯の子供と、年の離れた弟が居る。義母上は孫と子供に囲まれて嬉しそうで忙しそうだが、これ以上増やしても困るだろう。

 ・・・お手伝いは欲しいか?


「さてと、急いで帰るぞ。」

 ここから先はスピード勝負だ、中に居る場合、出る前、他の組織を食い始める前に潰さなければならない。

 どうやらゴブリンはアカデさんの理論で体の代謝に一種の毒が必要らしく、その毒を浄化すれば未熟な幼生体を殺せると言う事は実証された、即ち、お経が効くので、中に居る分も殺せるのだが、多少中で暴れるので、麻酔なしでやるのは痛いのだ。出来れば医者、教会に連れていきたい。麻酔薬を持ち歩けば良いと言われるかもしれないが、大抵麻酔というものは劇薬である。素人が手を出していいものではない。

「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ」

 韋駄天の真言で皆の速度を上げて走り抜ける。荷物は全て虚空の蔵、速度を遮るのは背中の少女以外何もない。

 ちなみに、この韋駄天の真言は無理矢理身体の速度を倍程度に上げる物なのだが、長時間維持すると、加護があっても次の日の筋肉痛がひどいのだ。

 戦闘中に使うと色々な感覚がずれるので、下手に使えない、こうして急いで走る時などに使う位だ。

「明日が怖いです。」

 灯とエリスが苦笑しながら速度を上げる。


 あっという間に村まで着いた。

 流石に息が上がっている。

 門番の人に帰還報告をして、今度は普通の速度で走って、教会に飛び込んだ。


 上がった息で神父さんに状態を説明する。

「わかりました、薬が効くまで、少し休んでいてください。」

 ちなみに、この世界での痛み止めはアヘンと大麻だった、元の世界でも良く使われていた有史以来の薬草で。精製段階がもう一段階上がるとモルヒネになる。麻薬に指定されるので、こういう時以外はこの世界でもご禁制だ。


「お待たせしました、薬が効いて眠っています、今のうちにお願いします。」

「はい・・・」

 改めて居住まいを正し、合掌、右手を腹に当て、何時ものように般若心経を唱え始めた。

「摩訶般若波羅蜜多心経・観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪、即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経」

 どろりと中から液体が流れ出す、小さいゴブリンの胎児が確かに中に居た。立場と場合によっては祝福されていたかもしれない命だ。

「南無阿弥陀仏」

 思わず、一言余計に唱えた。


 これで一段落だ。

 思わずため息をついて座り込んだ。


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