第217話 消耗坊主

(流石に辛いな・・・・・・)

 EXに諸々の製薬開発を丸投げし、人間チームは看病の諸々に駆け回る事と成って数日が経過した。

 どうやらこの世界、怪我が魔法で治るにしても、病気に対する手段はあまり発展して居ない様子で、対処療法的に進めていくしか無いようだ。

 まあ、自分達の故郷でも病気の薬としての抗生物質はサルファ剤やペニシリン等が開発されてから100年程度しか経っていない、前回に続いて技術の種をまく形に成るので、これから発展して行く分野なのだろう。

 そんな専門的な事を内心でボヤきつつ、諸々の仕事を終えて、飯や風呂を終え、自分達の部屋で灯とエリスを労うと言うか、にぎにぎと触れて体温を確かめる。確かに生きていると実感させてくれる感触と体温が有難い。

「何時になくしみじみしてますね」

 灯が苦笑を浮かべて握った手を握り返して来る。

 EXの誘導で帰って来た猫達も部屋に居るのだが、まだあまり懐いて居ないので余りモフらせてくれないのだと灯が文句を言って居た、猫達は現在部屋の隅で団子と成って眠って居る。

「流石に暗くなるわ」

 治療としては薬師如来や般若心経で治療や浄化、偽薬のプラセボと強引な栄養補給である程度進行は遅らせて居られるようだが、其れと自己免疫だけで如何にか成る物でも無いので、手遅れの患者と言う者は当然出て来る。

 昨日の今日で寝台に寝ている面々が入れ替わるのに何も感じない程まで感情磨り減っていない。

 感情移入する程の付き合いがある訳も無いのだが、小僧時代の坊主仕事は死んだ後にお経を上げるだけで、あまり生と死がここまで地つづきに成っていない。

 前回のゴブリン騒ぎの時にも結構な数が死んで居るが、当時其れ所では無かったため、死を感じるのは今回の方が強い。

 諸々、自分の修業不足もある訳だが、こだわりと言うか諸々のしがらみや葛藤を捨てきれていない、まだまだ未熟者だ。

 まあ、日本仏教のチート枠である空海も、弟が死んだ際に取り乱して「悲しいかな悲しいかな」と叫んだらしいので、無理も無い事だと自分で言い訳する。

「私達は裏方で良かった感じですね?」

 灯が割と大丈夫そうに言う。

「そんなに気にする事じゃないのです、私達に直接影響の有る事じゃありませんし」

 エリスも割と平気そうだ。

 初対面の時にも感じたが、大分図太い性格をしている。

 二人共裏方担当と言う事で、洗濯と掃除、食事の準備などを手伝って居る。この土地で顔を知られて居ないと言う事が都合よく作用したようで、買い出しもしている。元からこの土地に居た3人は顔を覚えられてしまっている為、病の穢れを運ぶ者だと後ろ指を指される事も有るので、下手に外に出られなかったらしい。そうか、この世界にも穢れと恐れの概念有るのか・・・

 要らん事を考えつつ、拒絶されないのを良い事に二人を抱きしめて気絶するように眠りに落ちた。



 灯視点

「眠っちゃいましたね?」

 思わず呟き、苦笑を浮かべつつ、軽く和尚さんの頭を撫でる、目尻に涙も見えるし。目の下にはクマが浮かんでいる、前回は肉体的なハードワークで力尽きていたが、今度は精神的に力尽きたらしい。

「こうしてみると結構子供っぽいですよね?」

 エリスちゃんにも言われている、技術や知識は敵わないが、肉体的精神的には私達の方が強いのかもしれない。

「毎回こういう時はやせ我慢で頑張ってますもんね、私達は追い打ちかけないようにしてこうして止まり木させてあげれば、結構素直に復活してくれるんで、今日は之で十分ですかね?」

 そう言って抱き締めるてみる、こうしていちゃつくだけで頑張ってくれるのだから私達としては楽だったりする。

「ハードル低いですよね」

 エリスちゃんも苦笑を浮かべるが、この抱き締められている状態は、求められている感も有るので満更でも無さそうだ。


「さてと、EX? 現状どれぐらい進んでる?」

 現在手元に居る蛇の様な形をしたEXの親機に声をかける。

「ある程度元の菌の選定は出来た、現在変異株を固定化する為に培養中」

 自然種とは違ったらしい。

「材料は足りてる?」

「正直培地用の砂糖が幾らあっても足りないな」

「其処に有るの使って置いて」

 昼間の内に買い出しで資材は大量に補給して置いた、他にも藁やら灰やら使って居る様だが、其れはそこら中で採れる為、足りないと言う事は無いらしい。

 しかし、この世界砂糖が結構高くて困惑する、この時代の砂糖はまだ高級品なのだなあと変な所で納得する、最初の。

「明日の朝には雛型の試験薬を作れると言う段階だな」

「結構進んだね? 急かすのも無意味だと思うけど・・・」

「既に最高速度」

「ですよねぇ」

 思った通りの答えで内心ため息を付いた。


 次の日の朝

「例の薬だ、後は任せた」

「出来ましたか?」

 言葉に灯が嬉しそうに反応する。

 EXが薬品のプロトタイプを持って来た。

「どんな効果や副作用、副反応が出ても私は知らないからな?」

 薬品を処方する際にお約束の一言を添えて来た、ロボ三原則的にあくまで此方の指示だと逃げ道を付けて欲しい様だ。

「今回はこっちが指示を出しただけだから、トリガー引いたのは俺だ、裁判で銃を訴える阿呆は居ないだろう」

「其れを確認したかった」

 お約束の責任問答をしている、今回のパターンなら緊急避難と言う事で元の世界でも無罪を取れるはずだが、時代が面倒な方向に進んでいたのだろうか?

「では、有難く使わせてもらう、次の培養も頼んだ」

「了解した」

 薬の確保完了、さあ、反撃開始だ?



追伸

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。

お待たせしました坊主更新です、序に新作書き始めました。

「戦国ロスタイム 侍傭兵 inヨーロッパ」 https://kakuyomu.jp/works/1177354055489809642

一部史実を基にした野武士話です、良かったら読んでやってください。

でもって☆レビューとか応援とかお願いします。

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