第102話 名無しの新人弓士視点

 夜中に半鐘のガンガンと言う音で目を覚ました、何かあったのだろうか?

 先ずは寝台から起き上がり、泊って居る部屋の窓を開けて状況を確認する。

 先輩冒険者や門番のギルド職員たちが忙しく駆け回って居た。

「何かあったんですか?!」

 窓から大声で聞いて見る。

「ゴブリンが群れで出ました!緊急依頼出しますので、強制参加で来てください!」

「はい!」

 緊急依頼で強制参加と。これは断れない流れか、しょうがない。

 装備品を整えて外に出ると、他の冒険者と言うか、PTメンバーと他の冒険者の誘導で巻き込まれ、魔の森側の防衛線、防壁の上に配置された、篝火の下に蠢くゴブリンの群れが見える。

「うええ?!」

 思わず叫び声を上げた。

「何でこんなにゴブリンが?!」

「謎ですが、何十年かに一度ぐらいで大発生します、今年はギルマスの指示で防壁と空堀強化して置いて助かりました・・・」

 門番さんがほっとした様子で説明する。

 と言うか、その穴掘りの人足は俺達だった、何をやらされているのかと思いながら作業していたが、こうして役に立って居たのか、掘った甲斐は有ったな・・・

「おう!お前ら集まってるか?!」

 わが村のギルドの実質最強枠、深紅の翼のPTリーダー、ヒゲクマさんが声を上げる。

「応!」

 この挨拶は何時ものお約束だ。

「状況は分ったな?見ての通りゴブリンの群れだ!先ずは夜明けまで弓隊と、この火薬玉、投石、熱湯で凌ぐ、遠距離攻撃出来るなら何でも良い!近距離組はまだ出番じゃない、一旦休め!」

「呼ばれていきなり休めと言われても・・・」

 思わず呟きが漏れる、帰っても良いのだろうか?

「だからって帰るんじゃねえぞ!いつ出番が有るか判らねえからの待機休憩だ!体力余ってるなら、この石と投石器やるから投げてろ!」

 心の中をのぞかれたような台詞で釘も刺されたが、後半は投げやりだ。

 クマさんが指さす先には投石器(スリング)と、石の山。

「初心者弓師は良い機会だ!的と弓は腐るほどある!好きなだけ使え!」

 同じく指す先には弓と矢が山と積まれていた。

 自分も弓士なので先ずは一番手で働くことにしよう。


「暗くて見えない・・・」

 外壁の上で弓を構えるが、壁の上からでは真下しか見えない、思わずのぞき込んで真下に向けて構える。

「あぶねえ!」

 いきなり首の後ろの襟を引っ張られ、引きずり倒された。

「何するんですか!?」

 叫んだところで、先ほど自分のいた場所に矢が通り過ぎた。

 1本だけではなく2本3本と通り過ぎる。

「解ったか?」

 思わずこくこくと頷く。

「ほらひよっこ、こういう時は如何言うんだ?」

「ありがとうございます。」

「こう暗い所で篝火を背にして暗い所を狙うと、こっちからより向こうから丸見えだ、物陰から狙え、ゴブリンの矢は精度が甘いが、毒も塗ってあるからな、傷口腐るぞ?」

 その一言にぶるりと震える。

「一体何の毒です?」

 先輩冒険者者は近くに落ちた矢を拾い、軽く臭いを嗅いで顔をしかめた、同じように嗅いで見ろと突き出してくる、取り合えず同じように嗅いで見て、酷い臭いに顔をしかめた、糞?

「ゴブリンの毒矢はゴブリンの糞が塗ってある、多分、他の何かも交じってるが、真面目に調べた奴は居ないからな、当たるとヤバいってのだけは覚えとけ、教会の浄化でも直せないからな、ギルマスの足もそれだ。」

 ギルマスの足が悪いのは有名だが、それだったのか。

「こういう時はギルドの補助で無料治療してもらえるが、治しきれないのも有るからな、注意しとけ。」

「はい・・」


「ぎゃあああ。」

 遠くで叫び声が聞こえる、そんな事を言っている矢先に毒矢が刺さったらしい。

 壁に張り付いて居た物に熱湯をかける担当で、盾持ちが護衛していたが、流石に狙われるらしく、護衛しきれなかった様だ。

「言ってる矢先にアレだ、お前は注意しろよ?」

 ため息交じりに先輩が呟く、がくがくと頷くしか出来ない、先輩は怪我人の手当ての為に走っていった。


 此方は自分の出来る事をするだけかと、気を取り直して物陰に隠れて弓を構えた。

「だけど、どうやって狙えば・・・」

 暗くて見えないのは変わらないのだ。

「なんだ、未だ見えないのか?」

 先輩が戻ってきた。

「ほら、こうするんだ。」

 先輩が松明を一本投げる、地面に落ちた松明の周囲にゴブリンが浮かび上がる。

「あれを目標にしろ、松明拾った奴を最優先で狙え、下手するとこっちが燃やされるからな?」

「成程・・・」

 之なら狙える。改めて構え直した。

「それじゃあ任せた、見ての通り他も見なけりゃならんからな。」

「はい、任されました。」

 返事をして、一矢を放つ。風切り音を立て、矢は真っ直ぐ飛び、松明に近づいたゴブリンに突き刺さった。

「何だ、良い腕してるじゃねえか。その調子で頼むぞ。」

 やっと褒められた、こういう時でも嬉しい物だ、さあ、張り切って仕留めるとしよう。

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