第157話 卑下するクリスの喜ばせ方

 軽く振り向かせ、此方が覗き込む体勢でキスをする。

 唇が触れた瞬間、クリスがびくりと全身を震わせたが、反応は其れだけで、拒否や拒絶の様子は無く、只顔を真っ赤にして、呼吸を止めて居た。

 因みに、唇を軽く当てて居るだけの軽いキスだ、初回から舌を入れるほど鬼畜では無い。

 内心、長く呼吸が止まるなあと感心しながら、ゆっくりと唇を離した。

 ゼイゼイと、クリスが呼吸を再開する。

「だから其処まで卑下しなくて良いし、かしこまる必要も無い、格式張らずにもうちょい力抜いて。」

「はい・・・」

 クリスは真っ赤に成って居る、顔が赤いのは果たして酸欠の分か、のぼせて居るのか、興奮して居るのか、胸のときめきなのか、意外と判別が付かない。多分当人も、こちらからも見分けが付かない。この最後の判断は、当人が如何感じるかだけである。嬉しいと感じて居てくれればよいのだが。

「何時もの抱き締めるのとあんまり変わらんから、先ずは慣れる事からな?」

「はい、でも、私の方が貰ってばかりで・・・これ以上は・・・・」

「現状、助けた以外、衣食住ぐらいしか提供してないぞ?十分働いてくれてるし。」

 極論、タダ働きに近い。家賃と食費その他と考え、無理矢理現金化したとすると、月あたりの生活費として金貨1枚分と、助けた時に教会に喜捨した分の金貨1枚だろうか?冒険者で稼ぎ過ぎたせいもあってか、金銭感覚が崩壊気味なので相場が判らない。純粋に命を救った恩だけでこれほどにも成らないだろう。

「私の価値としては釣り合って居ません・・・」

 何気に、この自分自身に価値が見出せずに、此方から与えた分が過剰だと感じている場合、更に卑屈になると言う流れが有るので、これを矯正するのは意外と面倒と言うか、大変である、しかし、この現状衣食住の保証だけで過分か・・・

「それじゃあ、此方がクリスにかけた恩を返す意味でも、一生この家の家事育児を任せる。」

「はい、喜んで。」

「それと、子供、産んでくれる?」

 かなり無茶なレートで吹っ掛けた気がする、クリスがびくりと身体を震わせ、此方の言葉の意味を吟味し始める、少し考え、キョトンと此方の顔を見つめて振り返り、嘘では無いんですよね?本気にして良いんですよね?と言う感じの目で、暫く固まった後で、今まで見た中で、これ以上無い様な笑顔を浮かべた。

「はい!一生お世話しますので!お願いします!」

 そう勢い良くお辞儀をして、浴槽のお湯に勢い其のまま、バチャンとお湯に顔を叩き付けた。


 何時までも顔が上がって来ないので引っ張り上げると、全身を真っ赤にしてのぼせて居た、浴槽から抱き上げて、タオルで顔を拭き、顔に張り付いて居た髪の毛を上げると、意識ははっきりして居ないが、えへへ、と言う様な笑顔が浮かんでいた。

 タオルでクリスの全身を拭き、そのまま脱衣所の床に寝かせて置く。のぼせて上がり過ぎた体温が下がるまでは冷やすのが先だ。


 ふう、と、ため息を付き。

「これで良いか?」

 誰とは言わないが、聞こえる様にな声で言って見る。

「OKです、やればできるじゃ無いですか?」

 返事が帰って来た、今更だが、覗かれて居る事はバレバレである、超反応出来る戦闘中の殺気とは違うが、視線は意外と判る物だ。


 脱衣所から出て、声の方向の戸を開けると、義父上以外全員居た・・・

 思わず呆れ気味に、片手で頭を抱えて、ため息を付く。

「揃って何やってるんです?」

 いや、分かって居るのだが。

「初夜覗きって奴です、一種の伝統芸ですよ?」

 灯に悪びれた様子は無い。

「身内の特権よ?」

 義母上も笑っている。

「気に成りまして・・・」

 エリスは若干気まずそうに。

「口説かれる様子を見るのも乙なもんですね。」

 アカデさんは興味深そうに。

 娯楽の一種か・・・


「しかしアレですね?クリス、あの様子だと、指輪より首輪の方が喜びそうな感じがしますけど・・・」

 灯がそんな事を言う、良いのか?その流れで?

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