第158話 お風呂(クリス視点)
例の如く、前回の視点変更振り返りです、話的には進行しません。セリフが若干違いますが、人の言語野にはバグがあるので、その様に受け取って居ると言う事でお願いします。
私が灯さんに欲しい物は無いかと言われた時にあかちゃんが欲しいと言った所、灯さんに和尚さんと一緒にお風呂に入って来いと送り出してくれた。灯さんは和尚さんに対して一切の気後れや遠慮が無い、そんな事を言っても良いのだろうかと思う様な事もズバズバと言うのだが、それに対して和尚さんは、特に気にした様子も無く、只涼しい顔で受け流し、言い返し、従っている、初めて見た時には驚いたのだが、この二人の関係は之が最上なのだろうと思うが、流石に珍しいと思う。
真似は・・・出来ない・・・割り込む事も出来ない、私は只、この二人が手を差し伸べてくれるのを待って居るだけだ。
そして、脱衣所でお互い服を脱ぎ始めた所で、不意に私の身体が動かなくなった、何故だかは判らない、一瞬、あの時、崖から落とされた時の事や、ゴブリンに捕まった事、ゴブリンに色々された事を思い出してしまったのだ。
こんな優しい人をゴブリンと被せた?男の人の裸が意外とゴブリンと似て居た?昔居た館で同僚に酷いことをするあの馬鹿貴族の事が?
和尚さんとは何の関係も無い事が次々と浮かんで来る。
折角灯さんが御膳立てしてくれたと言うのに、こんな嫌な事を思い出しただけで・・・
「大丈夫?」
「大丈夫・・・・大丈夫です・・・・・」
和尚さんが、心配した様子で此方の様子を窺って来る、もう服を脱ぎ終えて、私が動きを止めて居る事に気が付いたのだろう、平気だ、この人は怖く無い、筈なのに・・・
「無理しなくても・・・」
そう言って頭を少し撫でてくれる、そんな優しい手の感触が有っても固まって震え出した身体は言う事を聞いてくれず、私はもう泣きたい気持ちで服の裾を握りしめる、ボタンはもう外したのだ、この裾をめくれば其れで良いだけなのに、手が言う事を聞かない。
泣きたい所か、もう私は泣いて居たのかもしれない、涙を見せないように俯く、視界が滲む、何でこんな・・・
私はもう、自分が何を呟いて居るのかも判らなかった。
不意に、抱き締められた。
え?
其れは、この人に出会ってから何度も感じた、優しい体温だった、男の人で裸だと言うのに、只々安心する、性的と言うか、そう言った事を感じさせ無い、只々優しい抱擁、私からは何も返す物は無いと言うのに、この人は只優しかった、最初から、助けられた時から、目を覚ました時から、今までも、そして、恐らくこれからも。
その考えに至り、身体の力が抜けて行く、動かす事も出来ずに、握り締めていた手が脱力し、だらんと下がった。
「じゃあ、脱がせるよ?」
「はい・・」
その言葉に、あまり手を煩わせるのもどうかと思うが、もう和尚さんは、私を脱がせる作業に入って居る、下手に動いたら下手に動いてしまっては其れこそ迷惑だろうと、先程とは別の意味で動けなくなる。
私を脱がせる其の手は、壊れ物を扱うように、一枚一枚丁寧に脱がせられ、一糸纏わぬ私の裸をさらす、裸を見せるのは初めてでは無い、この人に裸は何度も見せて居ると言うのに、謎の恥かしさが込み上げて来る。あの時と何が違うのか、今となっては混乱し切って居て、何をして良いのか判らない、そんな感じにあわあわして居る内に、お風呂に誘導され、丁寧にお湯をかけられ、石鹸の泡で、全身を洗われた、何気に、この人に胸や秘所を触られると言うのは初めてだったのだと思い至る、あれ程私が無防備に裸身をさらしていたと言うのに、其処まで気を使われて居たのかと、やっと分かった、其れだけ気を遣われ、優しく扱われて居たからこその私の安心しきって居た無防備で、今のこの状態だったのだと一緒にお湯につかって気が付いた。まったく私も鈍い。
そして今は、湯船の中でゆらゆらと揺れながら後ろから抱きしめられている、私の力ではビクともしなそうな、立派な腕、でも、その腕は実際にはとても優しく、私が少しでも身じろぎして拒否の意思を伝えようものなら、直ぐに離れて行ってしまう物なのだと分かっている、そして私が万一逃げた場合、恐らく、追いかけて来てくれはしない、新たな旅立ちを祝福しようとか行ってらっしゃいとか寂しそうに言われるかもしれないが、私自体の必要性は恐らくあまり高くない、いっその事、首輪でも着けて、俺の物だと主張して欲しい、絶対に逃げるなと言って欲しい、必要だと言って欲しい。
だけど、そんな事をしない人だからこそ好きなのだと言う矛盾に突き当たる。
そんな思考の堂々巡りで、気が付いたら口をついて出たのは。
「恩を受けすぎて返せない。」
と言う様な愚痴だった、正直、大事に扱われ過ぎだ、何をしろと言われる訳でも無く、ただ好きなように家事育児をして、好きにご飯を作り、好きなだけ食べて、雨漏りその他の不安や、貴族の方々の癇癪、八つ当たりに怯える事も無い、たとえお金をもらって居ないと言われようと、今のこの生活を知ったら、真っ先に飛びつきたい、そんな生活だ。
「恩はしっかり返してもらってる。」
と、何でもない事の様に返事が帰って来る、この人や、あの人達には何でも無い事なのだろうが、私にはとても眩しかったりする、皆常識がズレて居るからとアカデさんが最初に説明をしてくれた意味も良く分かる、緊張して居るのか高揚しているのか安心しきって居るのか、変な愚痴が口をついて出て来る。
不意に、軽く振り向かされ、唇を奪われた。
え?
余りの事に混乱する、唇が触れたと認識した瞬間、思わずびくりと身体が震えたが、此処で私が振りほどこうとしたら、この人はきっと手を放して、もう手を出してくれない、そう考えると、良く分からない緊張感が駆け巡り、結局息も付けずに、がちがちに固まるだけとなった。
唇を重なるのは初めてなのに、雑念が多すぎる。
私の中ではそんな混乱が駆け巡り、頭の中がぐちゃぐちゃだ、一旦仕切り直させて欲しい。
そんな事を考えた所で、唇が離れた、少し寂しい、でもその前に空気を・・・
そんな感じにゼイゼイと、息を整える。
「卑下されても困る。」
息を整えている間にそんな事を言われた。
でも、私の中では既に、貴方方に対する恩が借金の利子の様に、転がる雪玉の様に膨れ上がって返しきれませんと、そんな事をぼやき始める、我ながら何が言いたいのか判らない・・・
「じゃあ、その恩は、一生。この家の家事育児任せるって事で?」
「はい、喜んで!」
むしろその対価は、私に対してはご褒美と言って良い。一生此処に居て良いと言われたのだ。
「それと、子供、産んでくれる?」
ん?と、思わずぐるっと回って向き直る、私を妻其の4として迎えてくれる?貴方との絆をくれる?私をからかって居る訳では無く?
と、本気で言ってくれているのかと、表情をじっと見る。
そんな私の視線を、この人は涼しい顔で受け流す、何時も通りの、優しく、とぼけた、不思議と安心する顏。
先ず嘘と言う線は無い、嘘を言って居るのを見た事が無い。
からかわれて居る線、これも無い。
馬鹿にされて居る線、これも無い。
本気にして、良いんですよね?
そう結論付けると、自然と顏がにやけて来る。
「はい!お願いします!」
勢いよく、そう返事を返した所で、意識が途切れた。
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