第156話 トラウマの潰し方

「たまには一緒に入ってあげて下さい。」

 灯にクリスを此方に押し付けて来た、物理的にである。灯がクリスの背中を押して此方の目の前に来るようにしているのだ。

 其れを見ている4人は、生温かい目つきをしている、どうやら、いよいよ妻其の4として迎えろと言う事らしい。

「えーと、俺で良いの?」

「むしろ貴方以外嫌です・・・」

 クリスは真っ赤に成って居た。

 クリスには治療の時には直接素肌に触れて居るし。余りにもぼんやりして居る時や、パニックフリーズした時等は良く抱きしめて居るのだが、実は性的に触れていると言うのは無かったりする。

 意外と切り離せるものだ・・

 抱き締めると直ぐ力が抜けるので、此方に対してのガードが緩いのは知っているのだが、改めて性的に手を出すには葛藤が有ったりするし、ちゃんとそちら側に成らないように気を使って居たりもしたのだ、まあ、無駄な気遣いだと笑われそうだと言うか、実際そう言われているのだが。

「最初は様子見で良いので、大丈夫だったらご褒美的に馴らしてあげて下さい。」

 灯がやたらと具体的に指示を出す。

「其処まで指示出さんでも・・・」

「惚れられたのだから、ちゃんと責任果たしてください、今までクリスに手を出さなかった時点で説得力無いんです。」

 一刀両断である、正直な所、毎日の様に3人がかりで搾り取られて居るので、新しくクリスに手を出す程の性欲が溜まらないと言うのが正直な所だったりするのだが・・

 しかし、灯の言う惚れられ責任を果たしていくと、やたらと嫁が増えそうである・・・


 まあ、細かい脱線は置いて置いて。

「大丈夫?」

 脱衣場に入り、いざ一緒にお風呂と言う段階に成った所で、何時もとは違う緊張感が先に出たのか、服を脱ぐクリスの手が停まって居た。

「大丈夫・・・・大丈夫です・・・・・」

 クリスが俯き気味に小さく呟いて居る、思ったより覚悟が辛いらしい、気負い過ぎたのか、嫌な記憶がフラッシュバックしてしまったのか、泣きそうな顔で身体を震わせている。

「まだ無理しなくて良いって。」

 ポンポンと頭を撫でて、落ち着かせようとしてみる。

「大丈夫なんです・・・本当なんです・・・・・」

 自分自身の心と身体が上手く繋がらなくなってしまったのだろう。クリスには最初から、トラウマ等、あまりそう言った物は表面化して居なかったのだが、内面で燻ぶって居たらしい、いくら安全だと認識して居ても、身体が覚えている恐怖はまだ残っていた様だ。

 クリスは俯いて、いよいよ泣きそうになっている、此処迄勇気を出されてしまった以上は、手を出さないのも失礼と言うか、灯に昔言われた様な、新しい心の傷が増えてしまいそうなので、此方から手を出そう。

 まさか、「無理ならまた今度、何時まででも待ってるから、ゆっくり行こう。」と言う、一見良い人なのだが、全く人の気を考えて居ない朴念仁では無いのだ。

 なお、其処から手を出さずに待つだけ待った挙句に、相手の気持ちが冷えてフラれるのは良くある事だ、・・・・誰の経験とは言わない・・・

 何時もの様にクリスを抱きしめる、何時も以上にガチガチで固まって、小刻みに震えていた。


 何時も以上に力が抜ける迄時間がかかった。

 其れでも段々と力が抜けて行く、脱ごうとした服の端を、白くなるほどに握りしめていた手からも力が抜け、だらんと下がった。

「じゃあ、脱がせるけど、大丈夫?」

「はい、お願いします・・・」

 俯いたまま、こくんと頷き、脱力してされるがままになった、一枚一枚、丁寧に脱がせていく、少し久しぶりに見たクリスの裸は、最初に見た時の、不安に成る様な、骨と皮だけの痩せ過ぎた姿では無く、年相応に少女らしく、健康的に肉が付いた、奇麗な裸だった。

「あの・・・どうでしょうか?」

 身体中に細かい傷が古傷として残っているが、そんな物はあまり気にする物では無い。

「大丈夫、奇麗だから安心して。」

 先程とは、違った様子でこちらを見て来る、泣きそうに成って居る顏では無く、今度は不安気だ。改めて抱き締めて安心させる。


 余計な力が抜けたは良いが、人同士での行為は全くなクリスは、例によってほぼ動けず、抵抗せずにされるがままと成り、お湯をかけられ、全身を石鹸で洗われ、湯船の中で腕と足の間に収まった。

 クリスを後ろから抱きしめる体勢で安定する。

 最初に触れた時とは違う、柔らかい感触に性欲とは違う意味での安心も沸いて来る。

 当然、生理的な性欲も沸いて来て、臨戦態勢を取り始めるが、未だ押し留める。

 多分、此処で襲う流れとは少し違うのだ。そういう空気とは違うのは良く分かる。

 もうワンクッション欲しいのだ、恐らく現状、クリスの準備が整っていない。

「此処迄優しくされて、良いのでしょうか?」

 クリスがぽつりとつぶやいた。

「だからあんまり気にしなくて良い。毎日家事育児してくれている分で、十分返してもらってるから大丈夫。」

「私平民ですし・・・」

 大分選民思想と言うか、コンプレックスが強いらしい。

 口で言っても多分無駄だろうと言う事で、自分の口で、クリスの口を塞いだ。

 何気に、クリスとは之がファーストキスだ、口が触れた瞬間、びくりと反応したが、反応は其れだけで、拒否や拒絶も無く、顔を真っ赤にして、呼吸を止めて居た。

 因みに、唇を軽く当てて居るだけの軽いキスである。

 内心、結構長く呼吸が止まって居るなと感心しつつ、ゆっくりと唇を離す。

 ゼイゼイと、クリスが呼吸を再開した。

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