第125話 既得利権と余所者の関係

「ほう、貴方が噂の和尚さんですか、貴方の足取りが追いかけきれなかったので、こうして職員に呼んでもらいました、成程、此方では少し珍しい目と肌の色ですね?」

 日本人なので、其れを言われるのはお約束である、100%の黄色人種でモンゴロイドだ、こちらの人はコーカソイドっぽい見た目をしているので俺と灯は服装を除いても割と目立つ、漆黒の髪と言うのも珍しかったらしい。更にヒカリとイリスに蒙古斑が発現したので、義父上と義母上、ついでにエリスに変な顔をされたのはある意味お約束だ、尻が真っ青である。

 序に言うと、義父上の顔が青い、色々爆弾落とされたのだろうか?自分を此処で投下した時点で余計に破裂するだけであるような気もするが。まあ、呼ぶ余裕が有る様子では無かったので役人の仕込みなのだろう。

「少々遠い所から来ましたので、最初は言葉も通じないので苦労しました。」

 当たり障りなく会話を開始する。出だしは様子見だ。

「ほう、遠方の出身ですか、出来れば国の名前と方角と交通手段を教えてもらえますか?」

 役人の目が光ったような気がする。

「魔の森を抜けて遥か遠く日の元の国から、漆黒の空の海を抜けてきました。」

 雑に大げさに説明する、山奥で死んだら御仏の加護で飛ばされましたでは雰囲気が出ない。

「魔の森ですか、大変ではなかったですか?」

 どうやらこの役人は此方の情報を引き出したいらしいが、あまり出してもしょうがない、宗教関係は出さなくても話は出来るので、そこは誤魔化そう。

「こう見えても強いので。」

「貴方方だけでゴブリンの群れを蹴散らして移動していたのは知って居ます、この質問は愚問ですね。」

「どうやらこちらが説明する必要は無い程度に私たちの事をご存じのようですね?本題は何をお聞きしたいので?」

 まだろっこしいので其のまま突っ込んでみる。役人が目を細めてキツネの様な笑みを浮かべる、若干殺気が混じって居る、気圧されたのかポーズなのか灯とエリスが俺の陰に隠れる仕草をする、この殺気の感じだと其処等の冒険者より強そうだ。

 此方は気圧される訳にも行かないので、苦笑を浮かべて内心で殺気を乗せて睨み返す。

「此方に来た目的は?」

「この嫁たちといちゃつくため。」

 後ろの二人が噴き出した。役人がポカンと言った様子で口を開けて固まった、同時にこの場に充満していた殺気が霧散する。

「この期に及んで何言ってんですか?!」

 灯が突っ込みを入れて来た、うん、これぐらいのグダグダ感の方がやりやすい。

 先刻まで青い顔していたギルマスがクククと含み笑いを浮かべて肩をぴくぴくさせている、緊張しすぎで笑いの沸点がずれたらしい、これだけ笑いが取れれば満足だ。

「私達は最終的にこの村でいちゃ付いて居れば用は済みますよ?」

 本気だと言う事で続けて駄目押しして見る。人の繋がりと影響を考えれば完全な無茶では無い、世の中は縁因果報で回るのだ。

「其れで如何なる予定です?」

 役人が吹き飛んでしまった緊張感を必死にかき集めて話を続ける。

「この世界で人類の生存率が若干上がる予定ですよ?この場で見逃しても損はしない筈です。」

 にっこりと笑みを浮かべて返答をする。

「其れはまた、大きな事を・・・」

「大言壮語か如何かは後々の数字でも見て下さい、40年後位に。」

 人生70年ほどの計算で有る。同時に遥かに気の長い話だ。

「また長いですねえ・・・」

 すっかり此方のペースだ。

「大きな影響なんてものはのんびり出す物です。」

 直ちに影響はございません。現状村一つが消えるか消えないかの狭間を実質この3人の影響だけで跳ね返した事には成るが、全体を見れば大した影響では無いだろう。

「まあ、その言葉が本気なら大勢には影響無しと言った所でしょうか。」

 役人は呆れ半分だが、何処か納得した様子だ。

「分かりました、この村に居る限りは見逃します、ですが、この村の外に出て民衆を乱すような事が有れば只では置きません。」

 要約すると、中央の王都で目立ち過ぎると役人と暗殺隊でも飛んで来ると言いたいのだろうか?

「其処まで派手な事はしない予定ですのでご安心ください。」

 にっこりと笑って返す。この村の中では既に散々目立って居るので、村に引き籠る限り問題無いと言う事だろうか。

「いっその事、このまま現領主のこの人から後を継いで其のままこの土地に引き籠って戴きたいですね。」

 其れが既得利権大盛りの役人から見た予定外に動く余所者の評価と言う物だろう。

 下手に動かれると色々既得利権が吹き飛ぶ、有名所では真珠養殖と天然真珠の相場の歴史とかを調べてもらうと良く分かる。経済状態だけで下手すると国が吹き飛ぶのだ、役人が神経質になるのも頷ける。

「其れで最初の跡継ぎネタですか。」

「ご納得戴けたようで。」

 義父上に聞く必要が無くなってしまったが、結果は同じなので問題無い。

 役人が大体お話は終わりと言った所か、握手の形に手を出して来る、素直に手を出して握る、意外と書類仕事のペンだこ以外に剣だこが出ている、殺気の時にも感じたが、大分強いらしい。戦闘技能が有る物同士の握手は手の内を見せると言う意味も有る、タコや手の皮の厚みの違い、筋肉の付き具合で武器と練度、凄腕同士なら流派もバレるのだ、相手にもバレて居る事だろう。

「所で、中央の教会で貴方を探しています、上層部は既得利権保護の為に抹殺方向で。下の方の野心派が貴方を旗印にして色々やらかすつもりのようですが?」

 ニヤリと笑ってそんな事を言って来る、そっち迄知って居るらしい、怖い怖い。

「そんな面倒な事ごめんです。それを聞いて余計にかかわる気が失せました。」

「貴方ならそう言うでしょうね。厄介事は勝手に飛んで来る物ですので、ご注意を、場合によっては私達も敵に回りますので。」

 役人が釘を刺して来る、そんな事を言う場合の返しはお約束だ。

「敵に成るだけなら如何でも良いですが、此方の身内に手を出したら何であろうと潰しますので覚悟はして下さいね?」

 ニヤリと笑みを浮かべて返す、此方の釘刺しとして握ったままだった相手の手を潰れる直前まで握りしめる。

 ミシミシを骨が悲鳴を上げる感触が有る。役人の顔が若干苦痛に歪んだ。

「お互い様です。」

 相手も其のまま握り潰されるつもりでは無いらしく、力を入れて来るが、先にぎりぎりまで握り潰しているので、今更状況は動かない。諦めて降参と言った様子で役人が手を引いた。逃げるのを追撃するつもりは無いのでそのまま手を放す。

 役人は目立たない様に潰されかけた手を振って感触を確かめていた。

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