第124話 役人とギルマス ギルマス視点

「連絡と確認事項が有りまして、お忙しいようですが、お邪魔しますよ?」

「私側に拒否権有りませんよね?」

 ゴブリン騒ぎの後始末で書類に埋まって居た所、その人物は断りも無く入った来た、この声の主は昔にも合った事が有る顔馴染みだ、自分にはこの人物に対する拒否権は無い、中央の役人と言うのは貴族相手にも王の言葉を伝える役と言う事で、一種の越権行為が許されている。極論、書状を持って居た場合は王と同格である。王の言葉を伝えるのが平民では格好が付かないのだ。

「当然です、書状付きですので。ああ、席は建たなくて良いですよ、半分は世間話です、私は適当に話すだけ、最後の本題で礼を尽くしてくれれば良いです。」

 そう言うと、執務室の仕事用では無い来客用の椅子に座った、長くなるので座らせろと言う事らしい。

 書状付き、つまり、死亡宣告と同じである、自分に拒否権は無い。

「先ずは、先走って書状握りしめてこの村に乗り込んだフラワーが死んだと言う未確認情報が有りますが、その確認を。」

 思った通りの確認事項だ、クマの奴から報告は聞いて居る、疲れた体に加えて、この心労で内心胃が痛いが、そんな事を言っても、この役人は待ってはくれない。

「先日ゴブリンの大発生が有りまして、この村が最前線と成りました、その折りにこの村を訪れたフラワー男爵を名乗る男が、勇敢にもゴブリンの群れに立ち向かい、無残にもお亡くなりに成って居ます。」

「亡くなりましたか、惜しい人を亡くしました。あの方の親元、ブレイン家は新興ですがそこそこの有力筋でしたが、しょうがありませんね。」

 内心何を言われるかと思いながら報告をする、役人の言葉だけで反応は冷めた物だが、此処から何が出るか分かった物では無い。

「所で、そのフラワー男爵を名乗る男は王の封蝋の付いた書状を持って居たはずですが、届いていますか?」

「はい、此方に届いています、ゴブリンに立ち向かう際にコレを冒険者達に高々と広げて掲げ、この村の次期領主であると名乗って居たそうです。」

 今は封蝋も剥げ、人とゴブリンの血に汚れた羊皮紙を机の引き出しから取り出し、役人に見える様に掲げて見せる。

「届いて居ましたか、中身は見ましたか?」

「はい、失礼ながら。」

 最初から封蝋は剥がれていたので、自分が見ても見なくても悪魔の証明と言う物だ、見て居ても見て居なくても証明は出来ない、間違えても封蝋をもう一度貼り付けようなどとは思ってはいけない、その場合は公文書偽造と言う別の罪で、王の言葉を偽ったと言う事に成る、下手な罪よりよっぽど重くなるのだ。

 その書状の内容としては確かに、この領地に何かあった場合の次期領主として引き継ぐと書いてあった。

「前置きとして先日、この地でのゴブリンキングではなくその上の上位種、ゴブリンクイーンの発見報告と、魔の森外、各地でゴブリンの群れの発見報告が相次ぎました、時系列としては。貴方の前任者が大量発生の時に逃した眉唾の噂話であったゴブリンクイーンが勝手に増えたと言う事で処理されています。」

 其処は自分のせいでは無いと言う事できちんと処理されて居たのかと安堵して、内心ため息を付く。産婆からもそんな動きが有ったと聞いてはいたので、それほど驚きは無いが、未確認な噂話だ、正式に言われるのとは意味が違う。

「まあ、此処からは中央で余った跡が継げない貴族モドキと其れを援護する親馬鹿の見苦しい争いです。平民の冒険者上がりである貴方は信用できない、今直ぐ解任して私の所の優秀な跡取りに成れない可哀想な次男三男にその席を寄越せと大合唱が起きまして。」

 権力争いの後始末に使われたと言う流れだろうか?

「貴方の想像通りです、余りにも五月蠅いので、王が耐え切れずに形だけでもと書状を作りました、貴方の収める領地でゴブリン等の魔物に防衛線を抜かれた場合の後任としての任命書です。」

 ん?つまりは今解任されると言う事では無いと?

「今回の大量発生のゴブリンの量は前回より大規模でした、貴方はこの開拓村の防衛線を無事維持した、私達としても貴方を領主から解任する必要は有りません、むしろ、あの馬鹿では防衛線も維持できずに崩れた事でしょう、正直その場合の後始末の方が面倒です。正規軍を遠征で駆り出した時に予算配分で苦労するのは私たち役人です、そんな出番な無い方が良いのです。」

 役人が貴族を馬鹿と断じている、余り見られる物では無いが、正直心臓に悪い、混ざって笑っても何を言われるか判らないので、此方としては曖昧な表情を浮かべるのみだ。

「あの馬鹿、男爵と名乗りましたが、正式に領地を持って貴族として任命された訳ではありません、表向きの階級としては平民のままです、騎士団入りして手柄を立てて騎士の位を持って居る訳でも無いので、貴方の所に居る上級冒険者の方が位は上です。」_

 暗にクマの奴の存在を示され、内心冷や汗をかくが、此方は全部把握していると言う釘刺しだろう。

「つまり、あの馬鹿は未だ書状が効果を発揮する前に勘違いして先走った挙句に勝手に死んだだけです、冒険者に煽れようと、戦場で正しい判断が出来ないような者はこう言った魔の森近接領の領主としては問題外です、貴方の責任問題にするつもりもありませんからご安心下さい。」

 つまり、今回の懸案事項は全て無事終わったと言う事か、取り越し苦労と言う事なら何よりだ。

「所で、これからが本題でして、息子さんが無事生まれたそうですね?おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

「所で、今回の騒ぎを無事乗り切った優秀な領主であるのなら、次期領主の任命権が下りる予定ですが、何方を次期領主にするおつもりです?」

「何方とは?」

「貴方の愛娘、エリスさんの旦那さん、和尚さんと言いましたっけ?貴方の義理とはいえ息子と言う事に成りますが、最近中々活躍しているようですが、何者です?」

 こちらで色々準備する前に先回りされている、内心で跡継ぎ候補には上げていたが、中央にかっさらわれる事を恐れて報告書には上げていない、遅かれ早かれバレるだろうし、隠し通せるとは思っていなかったが、この状態で先に出されると不味い。

 ピシリと、机の上に置いて有った木製の像に独りでに罅が入った。

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