第13話 嫁ができました

「今日はこの辺だな、ここをキャンプ地とする」


「はーい」


「はい」


 食料は灯が少しはぐれると何故かすぐに襲われそうになるため困ることは無かった、俺と合流する前どうして生き残ってたんだろ?


 食料と火おこしは任せて河原に穴を掘る、前回はろくな装備が無かったのでそれなりの重労働だったが今は装備のあるおかげで楽に掘れる、あっという間に二人ぐらいは入れる水たまりが出来た、食料の方もできたらしい、鍋が手に入ったので料理も問題無い、現地民も仲間にできたのでよくわからな植物群も食料にできるようになったのでビタミン類も大丈夫だ、これで生存条件は整った、かな?


 そろって頂きますをして食べ始める、仏教系だろうが異世界で祈れば通じるのなら念入りにやって損はしないだろう。塩も何もない煮込んだだけの食事だが不味くは無いので問題は無い、どうやら味覚はそう違わない様だ。この二人がメシマズで無くてよかった。疲れていたこともあって有ってあっという間に無くなった。ごちそうさまと飯を終える。




「しかし、この辺の動物はやたらと攻撃的だな?」


「この辺は魔物の森って言われてて既に人類の生存圏からは外れてます。」


「人生ハードモード、良く生きてたな灯?」


「感謝してますよ・・」


「魔物は他の生き物を食べると強くなると言われています、本能的に少しでも弱いとか弱ってると感じると襲ってきます。」


「弱ってたな、まだ弱ってる?」


「ベース弱いんですよ、貴方みたいなゴリラと一緒にしないでください。」


「目指せ握力500キロ。」


 腕まくりをして力こぶを作って見せる。


「キレテル、デカイでしたっけ?」


「あってるがそこまでじゃない。」


 プロテイン入れながら鍛えても大して増えもしないのだ。それでもある程度は付いている。


「鍛えてたんですか?」


「ある程度な、そっちの好みとしては?」


「この状態で折れそうな細いのが好きとか居たら指差して笑いますよ。」


「筋肉キモイじゃなくて何よりだ。」


「言われたんですね・・・」


「向こうではモテた例はないぞ。」


「モテキャラではないですね、需要はあるって言いますけど。」


「見たこと無いな、そもそも活動領域かぶらんし。」


 最近まで童貞の山男である、何処に女が居るのか・・・世の中の彼女のいる山男は何処から女を調達しているのか、町に出て攫ってくればいいのか?


「先生、彼女が欲しいです・・・むしろ嫁が欲しいです。」


 崩れ落ちてみる。


「私は違ったんですか?」


 ぐるんと顔をあげる。


「良いの?」


「今更何を言ってるんです?責任取ってくださいね?」


 養ってください的にも聞こえるが。


「はい、責任取らせていただきます、結婚してください。」


 冗談半分だが実際問題嫁にもらっても問題ない程度だと思っている、実働がほぼ俺になるが、嫁になってくれるなら既に誰でもいい状態なのだ。


「結婚してなかったんですか?」


 エリスが混ざってきた、大分放置気味に自分の世界のネタで置いてきぼりにしてしまった。


「うん」


「私も申し込んでも良いですか?」


「「はい?」」


 俺と灯二人で固まった。


「二番で良いですよ?」


 ちょっと待ってと言う前に畳みかけてくる。


「むしろもらってください。」


「ちょっと落ちつけ、状況を整理させてくれ。」


「はい。」


 灯がどうどうとエリスの肩を押して前のめりを直させる。


「成人してるか?」


「こう見えても15です、立派な大人です。」


 灯の一つ下か、未開の地では成人早いのはお約束か。


「この世界では重婚有か?」


「お互い甲斐性があれば問題無いです。」


「俺は魅力的か?」


「ゴブリンに捕まった時点で死んでます、助けてくれた人に感謝しなくてどうするんですか。恩返ししようにも方法わかりませんし。」


「部族の掟か何かある?」


「ゴブリンに攫われた時点で既に死んだ物として扱われるのでばれたら村八分どころじゃありません、最悪改めて殺されたり追い出されたりします。貴方が貰ってくれなかったら知らないところで野垂れ死にます。」


「どっかの宗教のノリか。」


 レイプされた方が悪いと、これだから未開の地は。


「わかったわかった、第一夫人からも何か意見有るか?」


 灯に話題を投げる。


「顔にやけてますよ?」


 睨まれた。


「貴方が嬉しいならそれで良いです、此処で私が反対したら人でなしみたいじゃないですか、それに私たちはこっちの世界のルールなんてわからないんだから案内人は欲しいんでしょう?」


 反対されなかった、それに灯の言う通りで案内人は欲しかったのだ、なら問題は無い。


「わかった、嫁になってください。」


 よかったぁと力が抜けた様子で脱力する、勢いに任せてグイグイ来たがそれなりに緊張していたらしい。


「そうなると二人とも初夜なんだが」


 焚火の中から石を取り出してさっき掘った水たまりに焼けた石を放り込む、じゅわじゅわと音を立てながらお湯が沸く、軽くかき混ぜながら温度を確認する。


「一緒に入るか?」


 二人とも顔を見合わせてくすりと笑った。




「狭いです、次はもうちょっと広くしてください、」


 灯が文句を言う。


「二人一人で別々の予定だったからな、次回はもうちょい大きくするさ」


 狭いからこその役得があるが、限度があるわな、こっちが若干膨らんだおかげでスペースがさらに狭くなってる、逃げるスペースが無いので二人とも俺の足の上に座る体勢になっている、足に伝わる柔らかい感触が嬉しい。


「真ん中のあれが戦闘態勢です?」


「この状態でそうならないやつが居たらその方が問題だ」


 灯がお湯の中でこっそりとつんつんしている。そんなことしてると襲うぞ?




「外でお湯を沸かすなんて凄いことするんですね?」


「まあ、面倒だから普通はやらんわな」


「私たちの故郷では毎日お風呂入るのが礼儀みたいな物でしたから」


「こっちでは昨日みたいなお湯で拭ければ御の字です」


「文化が違うというよりは余裕の違いだわな、町とか村にはあるのか?」


「よっぽどのお金持ちじゃないとお風呂なんてありません」


「臭そう・・・」


「日本人の感覚ではそうなるわな」


「そういえば、石鹸って出来上がってます?」


「安定するまではあれだが使えないこともないか?」


 荷物の中から前回石鹸を調合した灰と油の混合物を取り出す、ある程度固まっては居る、少量手に取ってお湯をつけて泡立ててみる、どうにか泡立つようだ、油っぽくないので成功しているらしい、


「安定化前だから髪とか顔洗うと多分負けるから注意だな。良くすすげよ。」


 そう言って灯に渡す。石鹸の調合と安定化は混ぜてから一か月はかかる、それまではアルカリ性の刺激物だ。リンスやコンディショナーは酸性と油だ、椿の実でも手に入れないと髪の毛が爆発する。


「無いよりは良いです」


 ニコニコと笑いながら泡を立てる、


「先ずはエリスちゃんを綺麗にしましょう」


 このメンバーは暫く石鹸で洗っていなかったからよく落ちそうだ、


「良く洗ってもらえ。」


 そう言って湯舟から持ち上げて灯に任せる、あっという間に泡まみれになった、くすぐったいのか身をよじっているが本気で逃げてはいないのでされるがままだ、仲がいいのは何よりだなーと雑なことを考えながら焚火の維持をしつつ石を放り込んで温度管理をしていた、


「はいざばーっと」


 泡を落としたエリスが戻ってくる、大分綺麗になった気もする。


「ちゃんと褒めてください」


 灯に怒られる


「すまん見とれた、綺麗だぞエリス」


「雑だけど良しとしましょう」


「あ、ありがとうございます」


 エリスが赤くなりながら膝の上に収まる、丁度いいのでそのまま抱きしめる、


「大丈夫か?」


 こくりと頷いた、じゃあ手を出そうかと、胸に手をやったところで。


「私も終わりです」


「早いな」


「褒めてください」


「キノキクヨメヲモラッテシアワセデス」


 半分棒読みだ


「棒読みじゃないですか、もっとまじめに褒めてください」


「こんな可愛い嫁がいきなり増えて困るが頑張って養うのでお願いします」


「ちょっと要求したのとは違いますが良しとしときます」


 そう言って笑いながら俺の横に収まった、


「おしょうさんもちゃんと洗ってきてください」


「はいよ」


 こうしてみると外風呂でこの流れは結構忙しいなと思いつつ急いで体を洗う、どうにか石鹸は形になっているようだ、暫く洗っていなかったせいもあってか、泡が黒くなりそうな勢いで汚れが落ちる、そもそも石鹸自体が灰色だから元の色の可能性もあるが意外と綺麗になるもんだと感心しながら洗い終える。洗い終えて戻るとエリスがのぼせていた、風呂に入ることに慣れていないせいかのぼせるのが速いのだろう、


「残念ですけどエリスちゃん今日はここまでですね。」


「残念だ・・」


「明日もあるから安心してください」


「そだね」


「代わりに私の方襲います?」


「灯の調子良いなら良いけど、大丈夫?」


「そう言う二重チェックしてるから童貞だったんですよ?」


「やかましいわ」


 売り言葉に買い言葉で襲い掛かった。

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