第170話 閑話 食物連鎖 菌類

 道端に前回繁殖の為に大移動して居た蟹が折り重なるように積み上がって居た、力尽きたらしい。

「結局、この力尽きたのは程よく潰して畑の肥料ですけど・・・?」

 何故かエリスが言葉を濁して首を傾げた。

「何かとげとげしてません?」

 灯も何か違和感を感じたらしい。

 前回見た物より関節が黄色くもこもこしている上に、死体らしいのだが、微妙に動いて居るような気もする。

「割って見て下さい。」

「はいよっと」

 腰に下げて居た刀で蟹の死体を割って見る。

 割れた部分から、黄色い液体?が流れて出て来た。

 ?を付けたのは、何処と無くゲル状で、脈打っていたので違和感を感じたのだ。

 液体と言うには怪しい。

「インセクトイーター、虫食いですね、之も来ましたか・・・」

「粘菌?」

「前回のスライム以上に何とも言えない物体だな・・・」

 粒の小さい群体なので、まるっきり液体だ。

「多分、近くに大きい群れが有りますね、人間には影響無いですけど、近場の昆虫類と、こういう陸蟹の類が全滅しますけど、私達から何かする事も無いので、ギルドで報告するだけですね」

「なるほど・・・」

 ボーベリア菌やら冬虫夏草の類かな?

「色々居るもんですねえ・・・・」


「はい、此方でも確認してます、上がってる報告総合すると、やっぱり魔の森の方ですね、実害は無い筈なんで、ほったらかしで良いです」

 ギルドでもそんな事を言われた、基本的に放置で良い物らしい。

「これから秋冬でどうせ虫は居なくなる時期ですし、不思議と全滅はしないと言うか、春夏には虫も勝手にわいてきますから」

 エリスが補足説明を入れる、特に気にする物では無いらしい。

「そういうもんか」

「見に言って見ます?」

 エリスの手には、魔の森での簡単な採取依頼の紙が握られていた。

「是非」

「珍しいなら見て置きたいですよね」

 灯も乗り気の様だ。

「面白い物でも無いんですけどね」

 依頼の受領をしていると、アカデさんが近くに来ていた。

「虫食い出てるんですね、行くんならついて行っても?」

「はい、どうぞ」

 こうして、軽いノリで見物と言う流れに成った。


「・・・本当に大丈夫なのか?」

 森に入って本当に簡単な採取を終え。

「胞子の飛んで来る方向は風上なので、季節考えると此方ですかね?」

 そんなエリスの案内で発生源だと思われる方向に向かい。

 地面に転がっている虫の類の死体が増え、其れを辿って行ったところ。

 結果として思ったより簡単に粘菌と遭遇した。

 森の中の地面一帯、見渡す限りに粘菌が広がっている。

 何時もは枯葉や幹、枯れ枝で茶色い筈の風景が、黄色い粘菌が広がっているので、黄色く染まっている。

「想像以上に規模がデカいな・・・・」

 思わず呟く。

「そしてキモイです・・・」

 灯も呟く、一面に広がった粘菌が脈打つように動いて居るので、慣れない者が見ると、ぞわぞわと鳥肌が立ちそうな光景である。

「いやあ、立派な群体ですねえ」

 アカデさんが目を輝かせて群れの至近距離でスケッチ用の紙を広げて観察を始めた。

「近づいても大丈夫な生き物なのか?」

 確認の為に質問する、アカデさんがあの調子で至近距離で観察して居るので安全では有りそうだが、好奇心優先して、危なくともあえて至近距離で観察している可能性もありそうだったので少し気に成った。

「今の所、虫の類以外には影響無いらしいので、安全だって言われてます」

 エリスが質問に答える。

「前回の跳ねるスライムより動き鈍いですよね?」

 灯も納得する。

 アカデさんは我関せずと言う様子でスライドガラスに少量採取して顕微鏡で観察を始めて、納得した様子でスケッチを終え、瓶に採取して居る。

 堂に入った動きで流れる様に観察作業をしている、ここら辺は根っからの研究者だと納得する。

 足元の粘菌の境界線を見ると、蝸牛(かたつむり)と蛞蝓(なめくじ)が粘菌を舐め捕っていた、其処等辺もちゃんと食物連鎖は続くらしい、変な生き物は居るが、ちゃんと生態系は出来ているんだなと変な所で感心していた。

「このインセクトイーターの毒が効くのが虫の類ってだけで、人間でも何でも食べちゃいますから、其処まで安全じゃ無いですけど、動き遅いんでよっぽどじゃないと怪我人なんて出ませんからね?」

 アカデさんが何気に酷い補足説明を入れて居たので、灯の顔が引きつっていた。


 後日

「こんなの出来ましたけど、味見して見ます?」

 アカデさんが黄色い謎のスープを作って来た。カップよそわれたスープが湯気を立てて居る。

「予想できますけど、材料は?」

 苦笑交じりに聞いて見る。

「前回のインセクトイーターです、毒見して見ましたけど毒は無さそうなので多分大丈夫です」

「毒見の海老は大丈夫だったんですか?」

 ツッコミを入れて見る。

「不思議な事にあの海老生き残ったんですよねえ・・・水の中だと毒性違うんでしょうか?」

 其れは不思議・・・

「と言うか、冬虫夏草だとすると毒に成る胞子の発芽条件が違うとかの落ちなのでは?」

「ほうほう」

 粘菌類、変形菌を冬虫夏草とするのも不思議だが、まあ、菌類として拡大解釈すれば不自然では無いだろう。

「あくまで純粋な毒では無く、寄生発芽されると死ぬと言う仮説の素人意見ですけどね」

 予防線は張って置く。

「良いんです、先ずは仮説でも何でも、論文書ける材料が増えるので助かってます」

「其れは何よりです」

 全て論文の材料らしい、どこぞの作家と変わらない性質である。

「そんな訳で、どうぞ」

 改めてスープを勧めて来る、材料に突っ込み所満載では有るが、見た目としては卵スープの様になって美味しそうだ。

「それじゃあ、頂きます」

 スープを少しだけ口に含む。

 口と鼻の中に茸の良い匂いや味では無く、腐葉土のような匂いと味が広がる。

「どうです?」

「味付けの塩は兎も角、ほぼ腐葉土ですね・・・」

 正直に感想を言う。ほぼ森の土をお湯に溶いて食べて居る様な感じだ。土の匂いは嫌いでは無いが、食べ物とは違うだろうと言う味がする。

 食べられる土の様な謎の生き物、テングノムギメシよりはマシだろうか?

 アレ、味も何も無いし。生息図が特殊過ぎて天然記念物の絶滅危惧種らしいが、食べたのは保護区外である、念の為。

「そう成りますよねえ、毒は無いけど美味しくないから食料としては不適格です」

 特に気分を害した様子も無く、答えは予想していた通りと言う感じのリアクションが帰って来る、自覚はあったらしい。

「まあ、味は兎も角・・・」

 勿体無い精神で、手元のカップに有る分を飲み干す。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」

 アカデさんが苦笑交じりに飲み干したカップを受け取った。

「次は美味しいの作りますからお楽しみに」

「はい、楽しみにしときます」

 お互い苦笑交じりに次の約束をした、次は何が出るのやら。


 因みに、飲み干したのは俺だけで、他のメンバーは揃って微妙な表情で固まっていた。

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