第268話 生態系の疑問(時系列、黒皮病騒ぎの後)

「しかし、何でこの星の生き物は地球と近いのだろうか?」

 exがボヤく、それは確かに、色々ツッコミを入れたい生態系が出来上がっている。

「収斂進化(しゅうれんしんか)?」

 おやつの時間、領主の館の執務室で茶を飲みつつ応えてみる、生き物は進化の過程で、最適化していく、最終的に違う道を辿ろうと、最後の結果は似通って行く物だと言う概念だ。

「其れを含めたとしてもだな?」

「外来種の俺達と現地民のエリス達でF1雑種出来てるからなあ……?」

 言外にイリス達を示す、遺伝子的に1%も違わないと言うことである。

 有名な比較対象、交雑できない人間とチンパンジーの遺伝子的な差異は1.2%だ、見た目としては小さな数字だが一代雑種すら無理と言うのは、かなりの違いだ。

 余計な補足を入れると、犬なら巨大種グレートピレネーズと小型種のチワワでも雑種自体は可能、虎とライオンでも一代雑種のライガーなら可能と言う程度の違いだ、尚、流石に繁殖は不可、子供は出来ないと言う困った状態となる。

 このF1雑種は繁殖能力が無いと言う形質は意外と多いらしく、同じく猫科ヒョウとライオンのレオポンや、サケ科の岩魚と山女魚によるサバトラ雑種のカワサバ等、其れなりに居る。

 変なことを言うと、牛と人間でも受精卵自体は出来る、流石に染色体異常で初期分裂の途中でエラーを起こして死んでしまうわけだが。

 ヒカリやイリスを筆頭に子供達が結構な勢いで増えているが、あの子供達に生殖能力が有るかどうかは謎で、結果は最低でも十数年後である。

  アカデ

「いや、貴殿達も多少は地球のモンゴロイドとも違うようだぞ?」

 EXが妙なことを言う。

「まあ、送る際に多少はテコ入れ操作されてるんだろうな?」

 対して驚かんと言う調子で返す、寧ろされていない方が問題だと思う位だ、完全な向こう産だった場合、其れこそ風邪みたいな風土病であっさり逝きかねないし、自分達の常在菌で現地民のエリス達が絶滅しかねない、黒死病と天然痘を引き連れて新大陸の人類をほぼ絶滅させたコロンブス達を笑えないのだ。

 同じように靴の足裏に付いた土に居た蚯蚓(みみず)や線虫の卵、草の種であらゆる生態系が崩壊しかねない、恐らく手荷物として持ち込んだ物品も、恐らく一手間かかっている。面倒だからと初手全裸じゃなかっただけ有りがたい。

「驚かんのだな?」

「予想済みではあるさ」

 仏教徒に驚愕を求めるだけ無駄だ、坊主は悟りの概念的に、其れはそんなモノだと受け入れる下地は出来上がっている。

 例え世界が箱庭のアクアテラリウムで神的な上位存在がごちゃごちゃいじって居ようと、逆に何も無かろうと、神が居ても居なくても、それはそれで、自分達はその中で好き勝手に精一杯やらかすだけなのだから。

 容量限界に成れば驚くかもしれないが。

「どの程度違うもん?」

「0.01%程度だな?」

「まあ誤差か、遺伝子サンプル的にも元が近そうだな?」

 分岐は1億年前程度だろうか? 材料のアミノ酸から収斂進化でそっくりになったにしては近すぎる、それこそ何者かが運んでいった類いだろう、仏が居たのだから今更驚けん。

「ペスト菌も居たからな、麦角菌も、蟹と言うか海老族も居る、分類学で如何するかは私の権限ではないが、地球型惑星だから同じ進化をするにしても無理がある」

「そりゃごもっとも」

 収斂進化で、多脚な水生甲殻類は蟹か海老に成るという愉快な論文が有ったことを思いだした、今回のぼやきには余り意味は無いが。

「所で、これから如何するんだ?」

 EXがこれからの方向性を確認する。

「どうするも何も、いつの間にやら領主になってるからなあ……」

 裸一貫の後ろ盾無しから異世界入りして、冒険者になり、いつの間にやら貴族入り、そのまま気がついたら領主である、成り上がったもんだ。

「領主のお仕事と言えば?」

 灯が呟く。

「領地運営」

 エリスが返す。

「結局ソレだな?」

 エリスと出会った頃は距離感が微妙だった義理の親子だったが、何だかんだ義父上(ちちうえ)の背中はちゃんと見ていた様子だ。

「できる限り豊かな領地にしてやりましょう?」

 灯が若干疑問形で呟く、これで良いのか? と言う迷いだろう。

「結局生存率ろくなもんじゃ無かったしな……」

 ため息交じりに返した。

 領主になる前の黒皮病騒ぎで医療崩壊起こして領地の人口が半分になる程度の医療水準なのだし、治療してもどうしようもなかった、魔法的な物はある程度あっても、外傷系以外はどうしようもないらしい。今回作った放線菌の抗生物質でどの程度死亡者が減るか勝負だ、この領地ではピークアウトした上で、あの役人に薬品レシピは渡してある、培養が上手く行くことを祈るだけだが、この手でどうにかなる範囲は有限だし、そんな遠くまで責任は取れない、気にしないのが大事だ。



「あれ・・・・・・何言ってんです?」

 新しく領主になった和尚と、そのペット、喋る蜘蛛EXと嫁達、灯とエリスと言ったかの会話に聞き耳を立てつつ、近くでお茶を飲んでいた義理の姉、アカデに確認する、教育水準が高すぎると言うか、思考の視点が平民のモノでは無い。そこら辺の貴族の視点とも違う、寧ろ王族の類いか? いや、研究者? 

「凄いでしょ? アレが素よ?」

 何故か義姉(あね)が得意気だ。この偏屈な義姉が気に入るわけだ、異様に頭の回転が速い。

「気に入ったのはその辺?」

 思わず確認する。

「ちょっと違うわね? 私から見ると純粋に人柄というか……?」

 少し首をかしげる、この人は何だかんだ美人で、ちょっとした仕草も絵になる人だから、学生時代も好意を向けている人は多かった、当人にそんな気が無かった為、浮いた話もなかったが、まさかこんな所で第三夫人に収まっているとは思わなかった。

「どっちから?」

 思わず確認する。

「惚れたのは私からね? のぞき込んだら良い感じに抱きしめられちゃって」

 ほんのり赤くなりつつ、得意気に惚気られた。

「幸せそうで何よりです、それで、評価は?」

「傑物よ?」

 かなり得意気に断言された、まあ、これから見ていくことになるんだし、暫くは観察してみよう。

「義姉さんの評価通りで有ることを願います……」

 男性経験は薄そうな義姉の目が曇ってないことを祈ろう。

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