第67話 各所の反応 ヒゲクマ視点

 しばらく前から目を付けていた、和尚と言う冒険者を臨時でスカウトした、最初に来た頃はやたらと目立っていて、一挙手一投足が噂に成るほどだったが、最近あまり話題に上がらなくなった、目立たなくなったと言うより、純粋にギルドに来ていない様だ、だから、酒盛りして居る時に食堂に現れたのは、本当に珍しかったので、思わず話しかけた。


 ちなみに、和尚と一緒に居るエリス嬢はギルドマスターの娘という事で、元から有名人である。


 前回はうちのサイクが世話になった、腕を折られた事では無い、むしろ、あれ以降、手のひらから紐を引き抜かれてから、酒の席での癇癪がほぼ無くなったので、感謝しているぐらいだ。


 どうやら話を聞くと、PTメンバーの二人共命中してしまったので、生まれるまでは一緒に出られないという事で、クエストを受けていないらしい、其れは勿体無い、折角の良い腕の冒険者が稼げるときに稼がないでどうする、そうこうしてスカウトすると、どうやら嫁さんのエリス嬢が納得してくれたので、臨時メンバーとして迎える事が出来た、まだ若いと言うのに、しっかりした嫁だ、良い母親になるだろう。


 和尚に明日のクエストに来てくれるように念を押して置く、ゴブリンの殲滅任務は人数勝負だ、恐らく活躍してくれるはずだ。




 次の日、ギルドで待って居ると、ギルド側から、和尚についてあまり詮索はしない事、目立つ行動をしてもあまり騒ぎ立てない様にと注意された。エリス嬢が昨日の書類を出しておいてくれたらしいが、其処まで口止めが必要な人物なのだろうか?


 和尚とは問題無く合流できた、今回のクエストの内容と作戦を話すと、最初の計画とは違う視点の意見が出た、ああ、そうか、その手もあるんだなと感心する、下手に囲むよりは遥かに効率が言い、和尚は駆け出しの冒険者だと聞いているが、自分で意見を出し、作戦提案が出来る人材は貴重だ、下手な中級や上級より役に立つかもしれない。


 だが、その作戦を実行するには装備が足りないな、ちょっと松明用の油を補充してこい。




 見張りと食事当番どっちが良いかと聞いた所、夕食を作った、とっさのあり合わせで手際よく料理している、こうした男所帯で料理ができる人材と言うだけでも結構貴重である、何時もは保存食の干し肉と果物位しか口にしていないと言う冒険者も多い、一食だけでもうまい飯があると士気が違うので、助かった。




 現地に先行、地図と地形を見比べて、放火地点を指定する、理由を聞くと、何でもない事のようにすらすらと語る、冒険者になる前に何をやっていたのかと聞きたくなるが、ギルドで詮索しない様にと釘を刺されていた事を思い出し、自重する。




 作戦は順調、俺たちは遊撃として炎の中を駆け回った、和尚は通常の小型ゴブリン等、何でも無い事の様にサクサクと蹴散らして行く。


「キングが出たぞ!囲め!」


 悲鳴じみた声が聞こえた、この規模だからキングが居るのは当然だが、現在の最大戦力は俺たち深紅の翼だ、キングの相手は俺たち以外では荷が重いだろうと、急いで合流しようと駆けだした。




 和尚より先に囲みに参加して、キングの攻撃に飛ばされた冒険者のカバーに入る、ただ飛ばされただけなら大した怪我では無い筈、治療を急いで、復帰してくれ。


 囲んで少しずつ攻撃して、敵の体力を削って行く、無理して突出すると、攻撃のターゲットになってしまい、自分でも死にかねない。そんな事を考えながら囲んでいると、唐突に飛来した槍が、ゴブリンキングの頭に深々と突き刺さった。これは、和尚の持っていた槍か?




 槍の出所を追うと、少し高い所で和尚が投擲の体制で立って居た、その後ろにもう一体のキングが居る、思わず叫んで、急いで助けに入らなくてはと、駆け出した所で、和尚も殺気に気づいたのか、咄嗟に跳んでキングの攻撃を避けた、先ほどのゴブリンキングより一回り大きい、巨大な体に丸太を持って振り回している、こんな攻撃をまともに食らってしまっては、いくら治療術があっても、まともに戦線に復帰できない処が、即死しかねない、和尚は無事返すと約束しているのだ、エリス嬢処か、ギルマスに怒られる。




 ・・・・結果として、この焦りはほぼ無意味だった、攻撃が遅いから当たらないとでも言いかねない様子で、和尚はキングの攻撃を避ける、避ける、予定調和の様に足元を切りつけながら正面から後ろに抜け、後ろから膝の関節を斬り付け、体勢が崩れたところで、位置が下がった頭を斬り飛ばした。




 アレだけ俺たちが苦労したゴブリンキングの討伐を、和尚は一人で2匹を、あっという間に済ませてしまった。詮索しない様に騒がない様にとギルドで釘を刺された事を思い出す。確かにこれは隠さないと拙い。




 和尚はキングがちゃんと死んでいるか確認して、周囲の安全を確認しているようだった、剣に着いた血糊を飛ばし、刃こぼれを確認している、その刃は遠目に見てもボロボロだった、しょうがないかと言う様子でため息を付いて鞘に納めていた。


「後頼みました。」


 ああ、頭のキングさえ居なければ後は俺たちだけで如何にか出来る。


 和尚は高台から飛び降り、最初の槍を回収に向かったようだ。




 あの後もゴブリンアーチャーを潰して回っていたらしい。アーチャー対策は難しかったので、有難い。




 山火事の消火を始めた所、丁度都合よく雨が降って来てくれた、最後の重労働が無くなって助かった。


 他の参加メンバーを先に帰した所で、和尚が無限収納にゴブリンキングを収める、道具として持って居るものは其処まで珍しくないが、あのサイズを収納できるものをスキルとして使っている者は珍しい、多分、それも含めてギルド側は和尚を目立たせたくないのだろう。あの戦闘も初めて見たが、多分に目立つ、新婚生活を邪魔しないようにと言う気遣いだろう。




 最後の見回りの後は流石に和尚も疲れ果てた様子だ、ゴブリンの幼生の処理で精神的にやられたらしい、こう言う所は確かに初心者か、今日はもう使い物になりそうにないので無理やりにでも寝るように指示を出す、夜明けまで眠らせれば回復するだろう。




 何匹か様子見に帰ってきているゴブリンを見つけて仕留める、外に出ているのは通常の小型ゴブリンだ、和尚を起こさなくても俺たちだけで楽に狩れる、隠す必要はない、今更ゴブリンの死体が多少増えていても気が付くことは無いだろう。




 夜が明けると、和尚が起きて来た、しっかり眠ったらしく、昨日のようなふらふらした感は無い。見張りをしなかった事を気にしているようだが、和尚の仕事ぶりは作戦立案とキング2匹刈った上にアーチャー潰しをしてくれた分で十分だ、PTメンバーも納得済みなので何の問題も無い。




 帰ると言うと、急いで食料を口に入れ、テントを片付け始めた、そのテントは便利そうなので見せてもらった、生地が薄くて軽くて骨無しで畳める、骨が無くて自立しないので木に縛り付ける必要はあるが、俺たちの骨が嵩張って持ち歩く時に苦労するテントとは違う、ペラペラだが密度があって風を通さない生地と言うのは難しいかもしれないが、構造を調べて形だけでも同じものが出来れば、遠出する時の荷物がかなり小さくなりそうだ、複製させてくれないかと言ったら、バラバラにしないのなら良いと言われた、構造的には難しくないのだ、腕の良い仕立て屋に預けてみれば出来るはずなので、後で仕立て屋に案内してみよう。




 ギルドでゴブリンキングを証明として納品し、ギルマスに報告を上げる、和尚がキング相手に立ちまわるときの話は、何とも信じきれないと言う微妙な表情をしていたが、実際見ていた俺たちも信じ切るのは無理だったので気持ちは分かる。


 報酬は一人金貨1枚、キングの分が金貨10枚だったが、あれだけ見事に和尚一人で立ちまわった物を今更俺たちの活躍もあったのだと主張するのは見苦しい、もしも和尚が不在で、キング相手に囲んでいた状態でもう一匹飛び出してきたなんてことになって居たら、先ず全滅だ、他の奴らにも文句は言わせない。


 和尚が受け取りを拒みたそうな顔をしていたので、酒を奢ってくれれば良いと言って、討伐隊の奴らを呼び出して酒盛りにした、いつの間にやらギルド内に居た他の冒険者も混ざっていたが、まあ、何時もの事だ。


 全部で金貨3枚も飲んでいたので、分配金としても十分だ、和尚の財布から出したとアピールしておいたので、和尚に悪い噂も立たないだろう。


 討伐の様子を聞いたり、のろけ話を聞いたりしたが、夜まで飲み明かす前に和尚はさっさと抜けてしまった、待たせている嫁に会いたいのだろう。俺の嫁も待って居いるが、今更早く帰っても歓待はしてくれないので、いつも通りに飲むだけだ。

やたらと強い期待の新人に乾杯。

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