第68話 洗濯物を回そう
「流石にあの服の匂いが凄いので、さっそく洗濯しますよ?」
「テントの方の匂いは大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫?」
荷物からツエルトを取り出して匂いを確認する、んー
「ぎりぎり?」
「本当ですか?」
灯がツエルトの匂いを確認する、
「アウトです、石鹸洗いで大丈夫ですか?」
灯が匂いを確認して顔をしかめる。
「石鹸の手もみ洗いで、水で流して乾かせば良い筈、後は天日で念入りに乾かせば大丈夫。」
コーティングの撥水剤が剥げてしまうのであまり個人では洗いたくないが、臭いと言われてしまってはしょうがないので洗おう。
「そういえば、こっちの世界は、たらいと洗濯板何だな。」
「そうなんです、全自動とはいかなくても、半自動位行けませんか?」
3人で洗濯して泡まみれになりながら灯のそんな愚痴を聞く。
「石鹸使えるようになっただけでも凄い進歩だと思いますけど?」
エリスは未だ文明の利器を体験していないので不満は出ていないようだ。
「世界をタービンで回せば良い。」
「軽音部と間違われたあの人ですか?」
「何で通じる・・・」
「意外と有名ですし。あの不協和音が何故か頭痛に効くと評判でした。」
世界のタービン、タービンと、無駄に耳に残るあの歌詞が脳内に流れる。
洗濯の世界は遠心力で回すのが基本だ、脱水の為の高速回転は高精度のベアリングやタービンやモーターが欲しいが、未だ其処までは要求されないだろう。
「水漏れしない容器に入れてグルグル回せば良い訳だが。」
電気式洗濯機が出る一歩前の設計だ。水車直結で入れておけば出来上がると言う方向も有るが、其処まで実行すると初期コストが厳しい。
「具体的な設計をお願いします、初心者でもわかりやすい様なの。」
「はいはい、この洗濯終わったら書くから・・・よっと。」
取り合えず洗い終えたツエルトを物干し竿とロープで中に水分がたまらないように固定して干す、灯とエリスも洗濯は終えたようで、二人がかりで洗濯物を絞っている、なるほど、この状態だと生地が直ぐ死ぬな、脱水装置もどうにかしないと。ローラーで挟んでグルグルすれば良いか?
「で、こんな感じで良いか?」
樽に大き目の開閉できる出し入れ口をつけて、取っ手でグルグルする装置の図面を描いた、バターチャーンや、福引マシーンのグルグル回すアレによく似ている、中に仕込む突起が汚れの落ちと生地の傷みを左右するので、程々にしておいた。
「なるほど、こういう図面書けばよかったんですね。」
灯が感心した様子で図面を見る、エリスも図面を見ているが、今一ピンと来ていないようだ。
「で、これが脱水だな。回す方だと回転力が足りないから圧力式に成る。」
昭和の初期型洗濯機に付いて居たようなローラー式の圧力脱水だ。ギア数を増やして回転数を増やせば良いのだが、現状この世界の技術LVがまだ分からない。機械式の置き時計らしきものはあるのだから其処まで低くは無い筈だが。元の世界でも洗濯機の登場は時計より、かなり後だ。ギアボックスやプーリーやベルトで高速回転させるのは次回で良いだろう。
「無駄によく回転する螺旋の力なアレが有れば2層式洗濯機が出来ますけど。」
「流石に其れは無い物ねだりだろう、明日は休みだからこの図面を木工職人とかの所に持って行って反応待ちだな。」
「良いですけど、これだと多分軸受けが持たないんで、この辺金属にしておかないと回転力は其処まで上げられませんね、」
桶屋の看板娘らしい人に先ずは図面の駄目出しをされる、樽も作っているのでその延長で行けるかという事で聞いてみたのだ。
怪訝な顔をされたが、用途を話すと、乗り気になってくれたようだ。
「鍛冶屋や金物屋、木工屋にも話しますけど、秘密って訳じゃないですよね?」
「大丈夫です、好き勝手に伝えてください、最終的に類似品ぶつけても技術上がればいいんです。」
「また極端な、上手く行けば儲かりますよ?」
「誰も真似できないって言うんじゃそこで止まりです。最終的に嫁の仕事が楽になればいい。」
「良い旦那捕まえましたねえ。」
灯とエリスが得意気に胸を張って、腕を取る。
「自慢のです。」
「あげませんよ。」
両脇を固める定位置だ。
「うちのはもう居ますから、大丈夫です。」
桶屋の奥方は微笑ましいものを見る様子で目を細める。
「まあ、すぐに真似されちゃ面白くないから勝手にこっそりやらせてもらいますよ。この設計図のは貴方に納品した後好き勝手作っていいんですね?」
目が光っている。
「ああ、それで構わない、特別儲かったり、改良型が出来たら、儲けの1割とかで良いですよ?」
「おや、上手いですね。じゃあさっさと契約書書きますよ?一先ずの立ち上げ資金は試作品用、金貨2枚で良いですか?」
「はい、どうぞ。試作品出来上がったら真っ先に家に納品してくださいね?」
「納品先は?」
住所が分からないので、エリスに目配せすると、分かってますよと口を開いた。
「ギルドマスターの所でって言えばわかります?」
奥方が領収書を書いて居た手を止め、ピクリと反応して、顔を上げる、こちらの全身を上から下まで眺めて。
「ああ、最近来た青い服の珍しい人ってあなたですか、青くないから判りませんでした、噂になってますよ?」
「噂?」
そんなに目立っていたか?
「銀細工屋の所で指輪贈ってたじゃないですか。もう一回行ってみると良いですよ?人出が多い時間帯に。」
ふふふと含み笑顔を浮かべながらそんな事を言いながら、手を目立つ所に掲げて見せて来る、指輪が光っていた。
「はい、出来上がりです、2枚ありますので、両方に名前書いて、一枚こっちにお願いします。」
エリスが何も言わずに確認する、こう言った現地の物は予備知識無しでは読みにくい。
「追加資金はまだ先の話です、と言うか、あくまで図面出して作ってもらうだけです、毎月作って量産するのでその資金をよこせって言うのは早計過ぎます。」
エリスが眉根を寄せてそんな事を突っ込んだ。
「まさか其処まで書いてあるのか?」
エリスの指さす一文を確認する。うわ、書いてある。
「絶対儲かりますもん、良いじゃないですか。」
「受注生産で良いんです!私が表で使ってそれ見た人達が聞いて来たらこの店教えますから。受注溜まったらそのときに更新です!」
悪びれた様子もない奥方と、しっかり突っ込んでビジネスモデルを具体的に提案するエリス、商人でもやっていけそうだ。
「それに金貨二枚は高いです、万一壊れた時の修理代も含むにしてください。」
「それ位なら良いですよ。」
契約書の一文を斜線で潰し、一文を追加する。
「これで良いですか?」
「はい、これなら大丈夫です。」
エリスが納得した様子でペンを取り、消した一文を念入りに塗りつぶす。
「後から違うインクで実は消えるんですとかやられたら困るのです。」
「念の入ったことで、そんなことしませんよ。」
苦笑いを交えて無事、エリスが名前を書き込んで契約成立となった。
資金は当然、前回のキング討伐で潤っている俺の財布から出たが、現状よっぽどじゃないとお金に苦労することは無さそうだ。
話に出た指輪を買った銀細工屋の所を覗いて見た所、どうやら、前回の自分たちの指輪を贈る様子が流行ってしまったらしく、同じような感じに贈りあっているカップルが居た、これは恥ずかしい。
更に後日、義母上の指にも指輪が光っていたのは、また別の話・・・
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