第172話 結婚式(後編)からの脱線

 不意に頭の上から大量の花びらが降り注いだ。

 殺気も無かったので回避も出来ずに全員揃って花びらまみれに成った。

 出所は? と上を見ると、民家の屋根の上にクマさんを始めとする深紅の翼のメンバーが悪戯成功と言う様子で笑顔を浮かべて手を振って居た。

 こういった物には全力参加らしい、成程大人である。

 此方も揃って有り難うと笑顔を浮かべて手を振り返して置いた。


 教会前に行くと、義父上と義母上、神父さんと役人さんが待ち構えて居た。

「和尚、灯、エリス、アカデ、クリス! この者達は皆の祝福を受けて神の前にたどり着きました! 大いなる大地の神の元、この者の婚姻を認めます! これからのこの者達に神の祝福が有らん事を!」

 教会前で、神父さんが大声で宣言する、その声に合わせて、改めて歓声と拍手が巻き起こった。

 どうやら、神父の仕事はこの一言だけらしい。

 そんな歓声の中、地面が不意に揺れた気がした、周囲が一瞬静まり返る。

「どうやら、神も祝福してくれているようです」

 神父さんの一言に、周囲がもう一度湧いた、なるほど、そう言う物なのか。

 只の地震だと言う無粋なツッコミは無しの方向だ。

 満足気に神父さんが一歩下がると、何故か前回居た役人さんが出て来た、手に封蝋された羊皮紙を持って居る。

 ん? 羊皮紙?

「これより王の言葉を伝える! 現領主ギル、及び和尚! 臣下の礼を!」

 義父上が横に来て、膝立ちの姿勢で首を垂れる。

 お前も一緒にやれと言う目を向けて来るので、空気を読んで同じく膝立ちで首を垂れた。

 いや、臣下に成った覚えは無いのだけど・・・

「今回、王の命を救い! ブレイン領の反乱を未然に防いだ功績を称え! 現領主ギルに森伯の爵位を! 和尚に男爵の爵位を与えるものとする!」

 ?!

 いきなり変な爵位がダブルで飛んで来た、一体何が有ってそうなった?

(良いから黙ってろ)

 と言う感じの目配せが義父上から飛んで来る、流石に空気読まないといけない流れだと言うのは理解できるので沈黙して様子を見る。

 一瞬周囲が静まり返り、ざわざわと先程の言葉の意味は? 交代? と騒がしくなる。

「領主は変わらぬ! この者達の今回の爵位に異が有る物は沈黙をもって! 異議が無ければ万雷の喝采を持って答えよ!」

 其の役人の言葉に合わせ、又周囲が万雷の歓声と拍手に包まれた。

 形だけでも民主主義の形に成ってるのかと言う、如何でもよい所で感心していた。

 最後結婚式どうにか飛んでったなあと要らん所を考えて居たりもした。

 いきなり貴族である、何をどうしろと言うのだろう?



 その後、騒ぎが落ち着き、何時もの拠点、家に戻って来た所で、やっと役人と義父上から説明される流れと成った。

「そんな訳で、貴方が硝子屋にレシピを流した結果、巡りに巡って、王族に対する鉛を使用したクリスタルガラスによる毒殺を未遂で終わらせ、反乱分子を炙り出し、腐り切っていたブレイン領領主一族の首を刈り取り、挿げ替え、結果的にプレイン領の民衆を救い、いち早く対応した私たち役人と、ギルの手柄により諸々の権力が増した結果、こうなりました」

 アカデさんのプレゼントにクリスタルガラスでレンズを作った次いでにレシピ売っただけでよくもまあ回った物である。

 只々感心するばかりだ。

 何気に怖い言葉がまぎれて居るが、其処に突っ込んで日和っては恐らく立場が弱くなりそうなので放っておく。

 因果応報、縁因果報としても此処迄来ると呪いに近い。

「それにしてもいきなり男爵は強すぎるのでは?」

 其れだけは突っ込んで置く。

「実質的に貴方は台風の目です、貴方本人が何かやらかした時に。貴方より隣の方が酷い事に成ります」

 酷い言われようである、只の善良な冒険者だと言うのに。

(鏡持って来ましょうか?)

 灯が言葉に出す前にジト目で直接脳内にツッコミを入れて来る、本当に欲しい時にツッコミが入るなあ。

 と、要らん事で感謝したくなる。

 と言うか、魔力パスそんな使い方も有るのか・・・

「貴方がこの地で現領主、ギルの庇護下に居る限りは余り手出しはされないと思いますが、何か有った場合、平民のままでは貴方自身が政治的に無力ですから、ある程度は自衛して下さい」

 色々と気を使ってくれたらしい。

「其れは有り難うございます?」

 お礼は言って置く。

「貴方に下手に手を出した上で、勝手に潰れるのは構わないのですが、貴方は今回の流れを又やらかしかねないので、そうなると私達の手が足りません」

「買いかぶり過ぎでは?」

 大げさにも程が有る。

「これでも人を見る目は有るつもりです」

 大きく出たなあ・・・

「因みに、今回贈るのは名誉貴族の領地無し男爵です、領地無しですから納税の義務は有りませんが、何も出ませんので其処はお察しください」

 国の為に働いて居る自覚は無い為、お金が出ても困るので其れは何も問題は無い。

「騎士(ナイト)じゃ無いんですね?」

 平民が貴族の爵位を取るには、冒険者の上級に成った時に付いて来る騎士の爵位だと、上級冒険者のクマさんに聞いて居る。

「騎士はあくまで平民上がりですから、あの冒険者は世渡りが上手いから兎も角。階級社会では其処まで強くありません」

 クマさん、何気に役人からの評価も高かったらしい。

「其処まで権力の強さは求めて居ませんが・・・・」

「名目だけでも有った方が良い物です、上手く使うかどうかは貴方次第ですがね」

「分かりました、では有難く拝命します」

「確かに渡しましたよ」

 役人から羊皮紙が差し出された、恭しく受け取る。

「はい、確かに受け取りました」

 両手で受け取り、改めて深々と一礼する。

「不思議と様に成って居ますね、真坂と思いますが何処かの貴族の教育でも?」

 役人が変な事を言う。

「其れは秘密です」

(ぜろ・・・)

 反射的に悪乗りして何処かの謎のプリーストの台詞を吐いた所、灯から脳内ツッコミが飛んだ、灯の肩がぴくぴくして吹き出しそうに成って居る、成程、之がツボか。

「まあ良いです、あまり派手に動かずにこの片田舎で過ごしてくれることを祈ります」

 役人はもうツッコミを入れるのは負けだと思ったのだろう。これ以上の追及は無かった。

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