第256話 子供の悪戯と初手対応

「…………何でこんなところに?」

 領主としての仕事中、机の引き出しに手をかけ、大して驚きもせずに呟いた。

 内心びっくりはしているが、跳び上がる程ではないし、叫ぶほどでもない。

「どうしたんです?」

 動きが停まった事に気が付いたのか、隣で仕事していたカナデが此方を覗き込む。

「いや、こんなのがね?」

 応えつつ、手を触れずに目線で伝える。

「きょ?!」

 カナデが結構大袈裟に悲鳴を上げて飛び退りの体勢で固まった、此処で咄嗟に一歩退けるかどうかが外歩きと鍛練出来てるかの違いだなと、変な所で評価する。

 義姉のアカデとは違って、フィールドワークはせずにデスクワークばかりらしく、こう言ったモノには慣れていない様だ。

 恐怖顔を浮かべてジリジリ後退るカナデをほのぼのと眺めつつ、視線を手元に戻す。

 目線切った時点で飛び掛かってくる類では無いと思われるモノなので気楽なものだ。

 引き出しに居たのは、手の平サイズの、遠目には白い骨のようなモノ、白い身体に毛はなく、所々に黒い模様が有る芋虫……

「お蚕様?……いや、クワコ?」

 思い当たる虫は居る。

「デカいけど?」

 蚕、お蚕様は人為的に産み出された極めて特殊な改良種だ、其処らに居るとも思え無い。

 尚且つ大きい、繭で糸が取れるとすれば確実に儲かる。

 アゲハやモンシロ、ヨトウムシみたいな繭なし蛹だったら期待外れになってしまうので、期待しすぎるのもいけないと思いつつ、脳内の変な皮算用で算盤を弾く。

「コレ、毒あるのかな?」

 ヒカリ辺りの悪戯だと考えると、毒虫を持ってくる程凶悪な悪戯はしてこないはずだ。

 そもそも毒虫センサーはぬーさんが念入りにしてくれるため、多分安全なはず。

「サンプルは採取しても?」

 EXが反応する、蜘蛛形態のがどこからともなく湧いて出てきた。此奴らは鉱山まるごと喰わせたお陰で増殖リソースを確保出来たらしく、付いてくる分もあるが、領地内なら何処にでも居る。結構な数が居る様子だが、隠れているので目立たないし、そもそもこの類いの小蟲に注目する余裕のある人間は少ないため、実害が無い限りは放置である。

「傷は着け無い方向で」

 昆虫系は傷の回復機能が弱いため、余り傷を付けたくない。

「なら出番は無い」

 あっさり引き下がった。やはり針でも刺してDNAサンプルを確保するつもりだったらしい。

「私知りませんよ?」

 カナデはドン引きの表情を浮かべて未だズルズル後ずさっている、普通はそうなんだろうなあと、こちらは大して驚きもせずに指先で優しく芋虫をつつく、衝撃に反応して角が出てくることもないようなので、アゲハ系の幼虫でも無い様子だ。

 手のひらにのせてカナデを追いかけて遊んでも良いだろうかと、心の中の小学生が顔を出しそうになるが、泣かれても困るしと思い留まる。

「EX、灯とエリスとアカデ、全員呼び出し、集合かけて」

「了解、犯人は良いのか?」

 珍しくEXが気を利かせる。

「んー、少し後でも・・・・・・? いや、纏めてで良いかな?」

 余り手間は変わらない。

「了解」

 EXが子機同士で通信を始める。

「叱るんですか?」

 カナデが少し困り気味に聞いてくる。

「叱る・・・・・・?」

 そんな選択刺有ったかな? と言う調子で首をかしげる、正直コレをどう使おうかしか考えていないし、子供が何か獲物を捕まえて「コレ見てー」って持ってきた場合の台詞は基本的に「おお、凄いなあ、何処で捕まえたんだ?」的なモノしか存在しない、最終的に「元いた場所に帰してきなさい」「食べる?」「どうお料理する?」「凄いなあよしよし」に成るかは持ってきたモノ次第だ。

 流石に手のひらサイズのツツガムシ持ってきた日には「コレは危ないから駄目!」と叫ぶ羽目になったが・・・・・・

 因みにそれ以降、外に行くなら蟲避けはして行きなさいと厳命する事と成った。

 つつがなく生きていきたいモノである。

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