第201話 研究者としての心構え
先ず最初に、今回のプロジェクトの主旨をお浚いしよう。
LHCの実験中に発生したマイクロブラックホール及びワームホールの性質の確認。
ブラックホールに飲まれた物の行先、ブラックホールはそもそも存在する次元自体が怪しい物体の為、発生した時点で大騒ぎで有る訳だが。
次元の向こうに飛ばされるのか、同じ次元に残るのか、座標がズレるのか、そもそも送れるのか、
このプロジェクトでの所謂100点ラインは、Xシリーズがブラックホール若しくはワームホールに飲まれた時点で既に達成である。
飲まれた先にある空間での再起動が出来れば200点。
ビーコンで飛ばした信号をキャッチできれば300点。
壊れた場合に自己修復で復活できれば400点。
行先での生き物の存在が確認できれば500点。
知的生物の存在が確認できれば600点
及び、その知的生物との交流が出来れば700点。
飛ばされた先からそれらのデータを信号に乗せて発信、其れを研究所もしくは、各地にある電波望遠鏡やアンテナで受信できれば800点
向こうの資源が豊富な、例えばこの世界での埋め立て最終処分場や、熱水鉱床などの場所を確保し、最終的にLHCを作成したら900点
LHC無いし、その他の方法でサンプルリターンが出来れば1000点満点で有る。
最低限、最終段階のデータ通信まで行かなければ200点以降の確認が出来ないのが一番の問題な上、生物系の達成条件は、地球型惑星若しくはスーパーアースの類で無いと先ず達成出来ないのは、期待をかけ過ぎた結果だ、運が良ければ評価項目に並ぶボーナスルートだと思ってくれればいい。
そもそも移動先が宇宙の何もないボイド空間であった場合、ジェット系の推進システムを持たないこいつ等では手詰まりと成ってしまうので、最悪隕鉄の類の金属系デブリを材料に修復後、ソーラーセイルを作成、展開して太陽風等での移動が成る事を祈るのみと成る。
100点を超えるのは、一回分のプロジェクト予算で10回分の実験を行うと言う意味だ、細かい加点要素は数え切れないほどに有るのだが、分かり易い物は前述の物だ。
あの高名なイトカワに向かった深宇宙探査ユニット、初代はやぶさはサンプルリターンで地球帰還が500点、リュウグウに向かったはやぶさ2は着地時点で100点満点で1000点を獲得しているので、100点オーバーは其処まで珍しい数字では無いのだ。
尚、アレだけ文句無しの活躍をしたはやぶさに続くはやぶさ2で、研究予算を減らされたのは有名な話なので、今回のプロジェクトも最終段階まで研究室および、研究者が寿命的な意味で生存が出来るかは極めて怪しい。
研究者として、「二位じゃダメなんですか?」の決め台詞と共に予算カットして来た二重国籍の某議員に対しては恨み言しか出て来ないのはお約束、なお、キメ台詞が無いだけで毎度の様に予算が減らされるのはお約束。
尤も、自分で首を絞める様に次々と予算をカットされる為、ノーベル証の数々はほぼ過去の栄光で、一般的には国家事業だと言うのに、予算確保の為にクラウドファウンディングで一般人の寄付を募って居る時点でお察しだ。
そもそも、サンプルリターンの為にLHCが作れるほどの材料と場所が確保できるかは極めて怪しい、その時点でかかる時間で数年所か、数十、数百年単位だろう、此方に向けて座標を指定して飛ばせるかは、そもそも大本である此方の技術で既に其れは無理と言う状態であるので、最後のリターンはまず無理と見るべきだ。
ビーコンで信号を発信するにしても、放り出される先の座標が何光年先か不明なので、先ず届く前に研究所が消えるのが先で有ろう。
最終的に、他に送れるか? や、人が送れるか? と言う事にも成るだろうが、外殻を幾ら硬くしようと、内部に空洞がある時点で潰れるし、ブラックホールの超重力下ではそもそも屁のツッパリにも成らないだろう、全て等しくスパゲッティーである。
では資源の回収は? そもそもコスト的にどうやってもペイ出来ないので恐らく無理である。
結局ビーコンの信号を後任者が拾えたら、其れが何らかの新たな情報に成ったらめっけものぐらいの期待値である。
国の支援が少なく、予算確保の為に民衆の支持が大事なので、無駄に夢の有る大袈裟な実験だとアピールした訳だ。
では何でそんな事を? と言われるのがお約束だが。
科学者と言う者は、出来るのならばやって見たいと思う者だから、である。
世の中の役に立つかどうかは2の次、先ずは自分の好奇心だ。
例え実験結果が自分の死後で有ろうと、名前が埋もれようとかまわない。先ずは自分の好奇心を満たし、其れが最終的にどれほど世界に影響を与えるか、科学者である自分にはあまり関係が無い。
表面上、予算の為にロマン其の他でオブラートに包んであるが、中身はそんな物である。
さてと、何が起こるかな?
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