第194話 番外 坊主と温泉

 家の庭の端でダウジングして水脈を探す、植物育成の温室の維持に井戸がもう一つ有っても良いなと言う流れで、前回の序に色々やって居るのだ。

「えっと、この辺か?」

 すぐ下に反応が有るが、掘るまでも無く表面が岩盤だった。

 鉄杭でこんこんと軽く叩いて岩盤の材質と厚みを確認する。火成岩の・・・圧縮凝灰岩系かな? 風化してるようだし、言う程厚さは無いかな?

 準備するまでも無く無言で灯とエリスが鉄槌を構える。

「いや、多分其処まで構える物じゃない」

 すう・・・はあ・・・

 呼吸を整え、一息に鉄杭を真っ直ぐ打ち降ろす。

 ガキン!

 表面の硬さは兎も角、見立て通り薄かったらしい、鉄杭が勢いよく岩盤を割り、半ばまで突き刺さった。

「これ位なら偶には・・・」

 時には見栄位張って見たい、見栄は悟りとは遠い感情だが、性欲以外もまだまだ煩悩が残って居るらしい。

「今更見え張っても扱い変わりませんよ?」

 呆れ顔で灯とエリスが拍手する。

「元から最大値ですもんね」

「まあ、最近出番無かったと言うか、元から地味ですしね」

 二人揃ってあーだこうだ言う、そう言うのは裏側で相談して欲しい。

 岩盤の隙間からちょろちょろと水が流れ出した、無意識に手で触れて確認する。

「熱?」

 思わず手を引っ込める、水では無かった。

「温泉?!」

 灯が目を輝かせる。

「温泉?」

 エリスは首を傾げている、あまりピンと来ないらしい。

「自然に湧くお湯です、普通のお風呂より良い物ですよ」

 しかし、井戸に続いて温泉と、仏教的に坊主と清水や水源、温泉は付き物だ、歴史上各地に有る行基上人と、空海上人が開祖である温泉の数が可笑しいのは伊達では無いのだ。

 まさか自分で掘る羽目に成るとは思わなかったが・・・


 まさかの温泉にテンションが上がった灯と、その余波に巻き込まれて楽しくなったエリスによってあっという間に粗削りだが巨大な湯船が出来上がった。

 触った感じ源泉温度は50度位、ちょろちょろとだが自噴して居る為、放っておけばそこそこ溜っているし、溜まった頃には温度は程良い程度に冷めている。

 岩盤と岩が多く、黒土が少ない地帯なので、余り濁らず、ある程度お湯を貯めて流すとお湯は澄んだ状態に成った。

 感触としては、中性に近いアルカリ系か、若干ぬるっとする程度。お湯につけた指に小さな気泡がぽつぽつ付くから、炭酸系? 変な匂いは無し、味は特に無いけど何とももやっとした感じと。

 近くにも井戸は有るが、浅い位置で之だけ温泉と言う事は、恐らく水脈の元のラインが違うのか?

「さて、入りますよ!」

 灯が景気良く服を脱ぎ出す、庭は広いので人目は無いし、念の為の目隠しは設置済みだ、序にぬーさんは何してるんだ此奴ら? と言う様子で見ていた。

 お互い裸は見慣れて居るので今更恥かしがる事も無い。

「危ないからサンダルは履いといた方が良いぞ?」

 こう言った作りの荒い露天風呂では、お湯でふやけて柔らかくなった肌を尖った石や岩で怪我する事が良くあるのだ。

「抜かり有りません!」

 言うまでも無く灯が全裸にサンダルでたまったお湯に飛びこむ。

「一番風呂~!」

 灯がお約束の歓声を上げ、迷う事無く仰向けに寝っ転がり、肩まで沈み力を抜いて、お湯の中でふわりと浮かび上がる。

 胸が水面から出て強調される、余り大きくないが、奇麗なので問題無いなと思う。と言うか、堂々とし過ぎてエロ方向に結びつかない健康美の方に成ってる。

  そんな事を考えると思考を読んだのか、灯がニヤリと笑った気がした。

「う~~~~あ~~~~」

 灯が何とも言えない唸り声を上げている、日本人特有な謎のおっさんムーブだ。

「下結構危ないからタオル牽いとけよ」

 付け焼刃の突貫工事だから、仕上げが結構甘いのだ。

「は~い」

 灯の生返事を聞きながら、続いて自分も服を脱ぎ湯の中に身を沈める。

「いやあ、思ったより良いお湯です」

 力が抜け、とろけ切った顔で灯がにへらっと笑みを浮かべる。

「これからは毎日温泉だな」

 掃除大変そうだが、常に溢れてるから、下に沈む分をどうにかすれば楽だろうか?

「熱くありません?」

 後ろから声がかかった、振り向くと服を脱いだエリスがおっかなびっくりと言った様子で、ちょんちょんと足を湯につけ温度を確認している。

 そう言えば、俺と灯の適温だと良くのぼせていたなあと思い出す。

 身長差のせいで上から見下ろす体制が多いエリスだが、下から見るのも乙なもんだなあと、妙な事を考える。

 実際、上から見ると平たく見えるが、下から見ると結構凹凸が見える。

 凹凸が無くても十分魅力的なので問題無いのだが・・・

「其処まで熱くはない、最悪のぼせはしても火傷はしないから大丈夫」

 体感としては、源泉から離れた端の方なら40℃ぐらいだろうか?

 源泉周りは流石に熱いので、ある程度距離を取って居る、自分が居る位置は一番ぬるい地帯だ、灯は手足を伸ばして若干熱めのど真ん中に陣取ってぷかぷか浮かんで居る。

「のぼせたらお願いしますね?」

 エリスが苦笑して一瞬覚悟を決めた表情で湯に体を沈めた。

 険しい顔で沈み切ってから一息つき、脱力した。

「入って見ると普通なんですね」

 肩透かしを食らったような表情をしている。

「結局只のお湯だからな」

 笑い返して置いた。このお湯が炭酸系だとすると、上がった後の温まり方の方が本体だ。経皮吸収された二酸化炭素を排出する為に血液が動くので暫く冷えない。

 序に硬い肉浸けて柔らかくしたり、飲用腺にしたり、ラムネっぽいの作っても良いかも知れないと色々考える。


「って?! 何やってるんです?!」

 クリスが予定外の物を見たと言う様子で叫び声を上げた、クリスは丁度食材の買い出しの間の出来事だったので巻き込むにはタイミングが合わなかったのだ。

 義母上の方は、出来上がったら後で入ると言って居たので、義父上と入るのだろう。

「温泉湧いたから皆で入ってた」

 何か変な所あっただろうか?

「昼間から?」

「一仕事終えたし」

 特に可笑しな所は無い。

「外なのに?」

「露天風呂は良いもんですよ?」

 灯が返答する。

「裸で?」

「温泉に湯あみ着とタオルは邪道です」

 灯が堂々と返す。

「サンダルは履いてるぞ」

 足を上げて見せる、知らないと明らかに謎要素だが・・・

「恥ずかしく無いですか?」

「目隠しはしてるぞ?」

「エッチな事してる訳じゃ無いですし」

 変な事をして居る訳じゃない、寧ろ、この間まで全裸でゴブリンの巣だったクリスに一般的な羞恥心が戻って来ていることに感心したりしていた。


 クリスは何を言っても悪びれない俺と灯に言い負け、結果として灯とエリスによって服を剥かれてお湯の中に引きずり込まれ、色々どうでもよくなっていた。

 まあ、平和で良いよね?


 その後、ギルドから帰って来たアカデさんと子供達連れて一緒に入り直したり、温泉の成分やら、効能について延々と質問攻めを受ける羽目に成った。


 後日、改めてサイフォンの原理ででお湯を抜き、岩盤を更に砕いて滑らかに削り、穴を掘り、鋭い部分で怪我をしないように石を敷き詰めたり、足場やヘリを木材で覆って・・・

 そんな仕上げは流石に職人に任せた。


 更に後日、温泉に自分から入る巨大猫、温泉猫ぬーさんと言う謎存在が発生したが、元から水を怖がらない生き物だったので、割と今更だったりした。



追伸

新シリーズ書き始めました。

退魔師ですが、家庭の事情で男の娘しています - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054903046174

作者の性癖と変な物を盛り込んだ結果、こんな物が出来ました。

妙に具体的な必要性によって男の娘状態で退魔師やってる少年と、ロリババアの話です。

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