第192話 番外 猫と卵

「ただいま、ぬーさん、これお願い」

 何時もの様に人間の子供達にしがみ付かれながら寝て居た所、帰って来た家主に白くて丸い物を押し付けられた。

 とりあえず、前足で転がす。

 コロコロ・・・

 コロコロ・・・

 ああ、鳥類の卵か?

 ワンテンポ遅れて気が付く。おやつかな?

 爪を立てて抱え込む、動いた拍子に子供達が横腹の上からずり落ちた。

 落ちた拍子で子供達が目を覚まし、あーうーと抗議の声を上げるが、特に気にしない。

 先ずは割ろうと爪で引っ掻いて見るが意外と固く、爪が刺さらない。

 其れならばと抱え直して牙を突き立てようと口を大きく開けた。

「待て待て」

 家主が遮るように口の前に手を出して来た。

 思わず動きを止める。

「なあお(御飯の邪魔をするな、危ないぞ?)」

 睨みつけて抗議の声を上げる。

「これは御飯じゃ無くて・・・」

 家主は気圧された様子も無く、無造作に手を伸ばして此方の手元から卵をするりと奪い取る。

 しっかり抱えて居たというのに器用な・・・

 内心で驚き、目を見開いて卵の行方を目で追う。

「こっちで暖めてくれ・・・」

 お腹の下に押し込まれた。

 なんじゃそら?と動きを止めている間に、子供達が改めて私の身体にしがみ付き始めた、今度はがっしりと固定されて居て、動くに動けない。

「なー(覚えて置けよ・・)」

「餌ならこっちで頼む」

 肉が出て来た、其れならば先に出せ。

 一先ず肉を齧る事にした。


 時々合間を見て、卵を転がして遊ぶ事に成った。


 後日

 腹の下の卵からピヨピヨと音が聞こえて来た。


 さらに後日

 コツコツと卵の中から音が響いて来る、そろそろ生まれるらしい、あの時爪を立てても割れなかったのに、雛が自力で割れるのだろうか?

 腹の下から取り出し目の前に置いて観察する。

 子供達も興味深そうに眺めている。

 少しずつ罅が入って来るが、中々出て来る様子が無い、最初は興味深そうに見ていた家主達も子供達もすっかり興味を失って眠ってしまった、今更食料にすることは無いだろうと言う事らしい、確かに、今更食べても食いでが無いので今更だ。

 結局、夜遅くに音が響き始めて、朝に罅が入り始め、全て割れて中から出て来たのは、次の日の明け方だったので、最後まで見守って居たのは私だけだった。

 卵から出てきた雛が、ピヨピヨと鳴きながらきょろきょろと見回す、まだ薄暗いので見えて居るのか怪しいが、目が合った。

 キョトンとした様子で雛が首を傾げる、思わずつられて首を傾げる。

 雛は立ち上がると迷う事無く胸元の毛の中に潜り込んだ、寒かったらしい、さて、餌は如何しようか?


 朝になって家主達が起きて来て、卵が割れて居るのに雛の姿が無いのでまさか食べたんじゃないだろうなと変な事を言い出したので、立ち上がって腹の下で寝ていた雛を見せる。

 雛を見て安心したのか、やれやれと言った様子で散って行く。雛は寒いのか怖いのか、必死に腹の毛の下に戻せとぴよぴよ鳴き始めた。

 分った分かった、ほら、これで良いか?

 体勢を戻すと、迷う事無く毛の中に潜り込んだ。


 雛の餌だと、水でふやかした草の種と細かく刻んだ草が出て来た、草系は自分には食料には見えないが、どうやらこの雛鳥の餌としては当りらしい、良く食べている。

 食べ終わると満足した様子で、毛の中に戻って行った、どうやら其処が定位置らしい、まあ良いか。




 補足

 オート回転機能付き巨大猫型孵卵器兼ひよこ用暖房ぬーさん。燃料は肉。

 一般的にダチョウ等大型鳥類の雛が生まれて毛が生え揃い、耐寒性を得る迄3か月程、其れまでは飼育温度36℃を維持しないとあっという間に☆に成りますので、初期飼育ではひよこ電球による保温が大事です、親鳥担当のぬーさんが居ないと割と手詰まりと成りかねません(居なかった場合湯たんぽで代用と成ります)。

 因みに、ぬーさん的に人の名前を識別して居ません、この群れの中で戦闘能力的に一番強いのが和尚だと本能で理解しているので、其れが家主だろうと適当に当たりを付けて居るだけです。

 ギルさん「解せぬ・・・」

 序に言うと、和尚達に懐いてる訳でも無いです、甘えたり撫でろ何てしません。

 灯が時々画面外で撫でたり吸ったりしてますが、特に気にして居ません。

 お風呂とブラッシングに拒否が無いので何の問題も有りませんけどね。

 ヒカリ達がしがみ付いたり、よだれを垂らしたり、毛並みを逆撫でしてわしゃわしゃにしても一切怒りませんが、只のお子様特典と言うか、子猫の甘噛みなんかだと認識して居ます、時々、窘める為に甘噛みアクションが入るので慣れないとビックリしますが、しっかり手加減して居るので、ヒカリ達には傷一つありません。


 追伸

 魔女ですが、人間に苛められたので皆殺しにしたい「旧題・少女は其れでも生き足掻く」の方が、無事完結しました、作者的にプロット作ったの15年前の初期作なので、今作の異世界坊主に比べて真面目過ぎる感は有りますが(文体は新しいのに原形が古いので、お笑いとお色気感が無い)2万文字ちょいの短編ですので、よかったらお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る