第237話 会議の脱線
「砂糖高いですからね」
エリスが納得した様子で続ける、カナデはピンと来ない様子だ。
「まあ、先ずは食べて見てください」
無造作に灯がカナデの口に飴玉を放り込んだ。毒では無いという意味も込めて、同時に自分の口にも見えるように放り込んだ。
カナデの驚いた様子の顔が、段々と甘さに負けて崩れて行く。
「売れそうね?」
其の反応を見届けて、アカデが笑った。
因みに、こう言った状態の時、この人は書記側に回って片っ端からメモを取って居る、後からこの発言と言葉の意味やらと色々補足説明を求めて来る、一言でも聞き逃すと勿体無いと言う事らしい。
「麦芽糖一本じゃ弱いから、酒でも作るか?」
シングルエンジンで領地運営するほど楽観的では無い。
「小麦でお酒って言うと?」
「ビールに麦焼酎、ウイスキーだな?」
「甘く無いラインナップですね? そっちはお任せします」
灯は甘党の為、甘く無い物には反応が良く無い。
「了解」
「でも何でしたっけ、あのビールの苦い元?」
「ホップな、無いなら無いで、甘めのヴァイツェンと言うか、適当なハーブ突っ込んだグルートビールにするだけだから何とでも成る」
ドイツのビール純粋令、麦とホップと水だけで作れから逆の意味で若干外れるが、ここはドイツでも無いし、そもそもビールは苦く有るべきなんて言う原理主義者でも無いので特に問題は無い、そんな事を言って居る自分自身にビールを何が何でも作りたい等と言う思い入れが無いのが問題では有るが。
「ん? 苦いハーブ? キスゲの蕾でも入れます?」
エリスが先回りして来た、確かにアレ苦けど毒は無い系の薬草だな…
「じゃあ入れて見るか?」
ホップは苦味だけでは無く、抗菌作用による日持ち耐性の強化も有るのだが、其れっぽい材料を探す事にしようか。
「アレ? この世界ってビール有りましたっけ?」
灯が首を傾げる。
「見たこと無いと言うか、結局果実酒系のワインと蜂蜜酒(ミード)しか呑んでないな?」
潰せば発酵する果実酒と、水で薄めれば発酵するミードしか見たことが無い。
穀物発酵では先ずは糖化から始めなくては行けないので一手間多いのだ。
「穀物、米や麦のお酒ってこっちに在りました?」
生き字引担当のアカデに再確認する。
「有りませんね? 新作ですか?」
アカデが楽しそうに促す、先行するライバル商品はワインとミードだけ? なら十分勝ち目は有りそうだ。
「日本酒と焼酎、ウイスキーの違いは何でしたっけ?」
灯がお約束の疑問を出して来る。
「先ずは米を糖化発酵させたのが日本酒、ソレを蒸留したのが焼酎、更にソレを樽詰めて長期熟成させたのがウイスキー」
大人としては簡単な知識を返す。
「この辺に泥炭(ピート)有りましたっけ?」
「山でも登って湿地を探すか、燻さんでも炙った樽に詰めて熟成させるだけで良いから細かい事は気にするな」
ピート香は好き嫌いが別れると言うか、三鳥居(さんとりい)の大将も初期段階で効かせなきゃ成らんと燻しまくった結果、臭いと怒られているので、入り口は弱くで良いだろう。
入門編は黒ニッカのピート無しである。
「そもそも何でしたっけ? オリゼー?」
灯のうろ覚え知識が微生物学に飛んで行った。
「アスペルギルスオリゼー、麹黴(こうじかび)はデンプンを糖に変えるだけで、アルコール発酵はサッカロッセスセレシビエ、酵母菌だな、今回は麦芽で糖化するから出番無いし、セレシビエはワイン作る時にも、パンを膨らませる時の天然酵母に居るからそっちから培養すれば良い」
この世界でも柔らかいパンが欲しいと言う事で、干しブドウから天然酵母培養はやって居た。
「机上の上ではなんとかなりますね?」
灯が笑う。
「しかし詳しいな?」
「昔『もやすもん』流行ってましたから」
「成程、アレか」
菌類が見える主人公が今一活躍しない漫画とアニメだ、菌類が可愛らしくデフォルメされて居て、菌類学の一般普及に一役買ったと言われる作品で、一世を風靡した。
「ついでに、コレでメイドさんと言うか屋敷の人手余ってる問題は解決ですね?」
「良かった……」
灯の言葉を聞いて、クリスが安堵のため息を付いた。
「さてと、そう成ると材料の調達のための税率か、最悪買取でも利益出れば問題無い訳だが……?」
「未だ収穫出来て無い畑は、多分一家全滅してますから、その場合持ってた畑と言うか土地ごと領主の持ち物に成るから、畑に残ってるの収穫出来れば材料の確保は出来る筈です」
エリスが結構ドライに言う。領地自体はあくまで領主の持ち物で、個人にはあくまで貸しているだけという名目らしい。
「そう成ると、寧ろ人手が足りなくなるな?」
「強権でも使います?」
「いや、素直に雇おう、冒険者ギルド経由で誰でも請けられる依頼にしておけば良いだろう?」
そういえば、ギルドにも領主の代替わりを伝えなければいけないのだろうか?
「この人達、何言ってるんですか?」
カナデが呆然と言った様子で助けを求めるようにアカデに確認した。
「言ったでしょう? 故郷が遠いって? あの人達の話が理解出来て、論文に起こせれば幾つでも発表できるわよ?」
何処と無く得意気に説明している。
「成程、よっぽどですね……」
呆然と言った様子で観察されていた。
追伸
尚、3人以上で会議すると文殊菩薩(もんじゅぼさつ)補正で幾らでもネタが出てきます、義父上の手前ある程度自重してたけど、こうなっちゃうとリミッター外れちゃうので最早手がつけられません。
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