第177話 番外 アカデの回想 3

 炊き出しを手伝い、鍋を回して居ると、ブレイン・ブラワーとかいう自称この領地の領主で次期男爵だと言うのが現れた、絶対アレに領主は任せたくないと言う思いは、此処に居る全ての人に共通する思いだった。

 この地を本拠地にしている看板冒険者、深紅の翼のヒゲクマが、口車に乗せてゴブリンの群れを使って淡々と処理していた。

 あの馬鹿貴族、ゴブリンなんぞと言って居たが、群れのゴブリン相手にこの地の上級冒険者がどれだけ必死に対処して居るのか知らなかっのだろうか?

 本気で箱入りの馬鹿だったのだろうか?

 でも、当然の様に行われた貴族殺しだが、色々と無事に済むのだろうか?

 人がゴブリンに依って死ぬ場面だと言うのに、その瞬間だけは其れを見て居た全員に、一種の安堵が有ったのに間違いは無いだろう。


 何時までも戦場に木霊する悲鳴と罵声、歓声が止まない、前回の時はこんな長々と持ちこたえる冒険者と言うのも見えなかったな、今回の防衛線は無事済むのだろうか?


 段々と響く音に、罵声と悲壮感が増えて来た、そろそろネタがキレるぞと言う不安に成る言葉も聞こえ始めた。

 そんな最中、不意に遠くで光が生まれた。壁の向こうが一瞬明るくなって消え、何ださっきのは? と言う戸惑いの声と、ゴブリンが弱く成ったぞ? と言う良く分からない歓声が生まれる、いや、何だろ其れ?

 思わず確認しようと防衛線の壁の上に登る、壁の外にはゴブリンの死体が山の様に積み上がり、本気で此方の防衛限界を突破される一歩手前だったのだと言う事が分かった、そして、呆然とその風景を見て居る内に、波が牽くようにゴブリンの群れが移動の方向を転換し始めた、防ぎ切ったの? 無事に済んだの? と、半信半疑でその風景を呆然と見つめる。

 恐らく和尚さん達がゴブリン寄せを使ったから、そして、と言う事は、この後あの人達が帰って来なかった場合私のせいだろうか?


「深追いするな!」

 進行方向を変えて退き始めたゴブリンに向かって追撃しようとする新人冒険者に対してベテラン達からの怒鳴る様な叱責が飛ぶ。

 其の忠告を無視して茂みに入った一人が瞬間的に視界から消えたと思ったら逃げていた筈のゴブリンがあっという間に群がって行く。

 ぞわりと背筋が寒くなる光景だった。

 他の冒険者が助けに入るが、ゴブリンを散らした後で、残念そうに首を振った。

「見ての通りだ、恐らく一段落だが、彼奴等迎えに今森の中を行くには危険が大きい、明日の朝までは待ちだ・・・」

 何時の間にか横に居たヒゲクマさんが静かに諭す、どうやら心配して挙動不審に成って居るのが傍目からでも判ったらしい、少しだけ恥ずかしい。

 本当に結果を待って祈るしか出来ない自分がもどかしい。

「あいつ等なら、之が有る限りは無事なんだろ」

 ヒゲクマさんが目線で何かを観ろと示す、目線の先には防壁の前に巨大な格子状の光の壁が見えた。

「これは?」

「あいつ等が張った結界だ、張った魔法を長時間持たせるのも規格外だが、真坂死んだ後も残る結界なんざ無いだろう」

「つまり無事と?」

「現状あいつ等が死んでる線は無い、和尚の野郎、完全に一人であのキングとクイーン狩るんだぞ? もう一寸安心して待ってろ」

「はい・・・」

 力無く返事を返す、あの人が生き残る事を信じ切れていないのは私だけか・・・

「明日の朝には残党処理とあいつ等の迎えの為に追撃隊を組織する、恐らく無駄足だろうがな」

 どうやら私のやることはもう待つだけらしい。

「今回の仕事は和尚の奴に持たせたゴブリン寄せが問題無く機能した時点で既に果たしてる、後生き残るのは奴の仕事だ、恐らく無事に帰って来るさ」

 落ち着けと言う感じにポンポンと何気に頭を撫でられた、この人相手だと私も大分未熟者に見えるらしい。

「はい・・・」

 何気無く私が渡した物まで把握されている、この人は本当に全体を見て居るらしい。

「残党狩りが落ち着いたら、次回の為に向こうに転がってるキングの死体でも検分してくれ、次回の為の資料だ、この仕事は今アンタだけが頼りだ、任せた」

 何気にそんな事まで・・・・

 上級冒険者は伊達では無いらしい。


 ガンダーラのメンバーは無事揃って次の日に帰還した、同時に結界が消えたぞと騒ぎに成る、私はその時、護衛を付けてもらって近場でゴブリンキングの死体を検分していた、あの光に焼かれたとすると、不思議な焼け方するんですね・・・・


 遠目に無事そうな3人を見つけて、心底ほっとした。

 これで安心して眠れる・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る