第176話 番外 アカデの回想 2

 恐怖心の克服の為に開き直って、別の魔の森近接領で不味いゴブリンの肉をどうやったら食えるかと研究を始めた、どうやら可笑しな毒が含まれているせいで不味いのだが、その毒がゴブリンの幼体には大事な物質で、その毒が薄まると弱るのだと言う事が分かった、どんな働きなのかは分からないが、効果が有るのなら試すのが学者と言う物だ。

 冒険者に頼み込んで小型成体や、生まれたばかりの幼体を生きたまま確保して、渋る教会に頼み込み、寄付金を積み上げて実験を行い、一定の成果は上がった。

 もしかすれば、私と同じように宿主母体にされた女性も助ける事が出来るかとワクワクしながら、被害者の救助の出番を待って居たのだが、下手な方法で助ける方が野蛮だし、碌な物じゃ無いと頭から否定された上に、宿主母体の少女を殺されてしまった。

 そんな、私の立場が無いじゃないかと泣きたくなった・・・・


 そんな無力感に力尽きて居た頃。

 ドラゴンの骨を手に入れたと連絡が有った、急いで向かおうとしたが、やはり怖がるこの体は言う事を聞いてくれず、途中で脇道に反れて寄り道をして、純粋に遠い分も有るのだが、大分時間がかかってしまった。


 到着して見ると、珍しい研究対象に、恐怖心より好奇心が買ったのか、震えが止まった、ドラゴンの骨に続いて、ゴブリン研究の協力者が手に入った、極めておあつらえ向きに、私の時とは別に、母体にされる前に助けられた少女もいる・・・

 思い出してしまったのか、固まって泣き出してしまったその少女を、その人は只優しく抱きしめて居る、その姿に、自分もそうだったら良かったのにと重ね合わせる、内心で羨ましくて泣きたくなるが、私はもう結婚するには遅い年齢だ、今更そんな事を考えてもしょうがないだろう。


 更に冷凍保存されたゴブリンキングの死体を2体、研究材料として確保、解剖して体の構造を確認、解剖すると、噂でしか存在して居なかったゴブリンチャンピオンもしくはクイーン(メスの完全成体)の存在を確認、大急ぎでギルマスにして領主のギル様に報告、昔私が出した警告の時にした苦労は何だったのかと言うほどの速さであらゆる対策が打ちだされて行く、本当にこの人が領主で良かったとしみじみと思う。


 更に解剖して色々調べると、キングやクイーンの性器周辺から、通常の小型成体ゴブリンとは別の匂いが有った、そんな違いが判るか? と言われそうだが、あの時の匂いや感触、恐怖やら、何から何まで鮮明に思い出せる、そういう意味では私よりゴブリンに詳しい人間はいない・・・

 詳しく解剖して見ると、キングではまだ小さく未発達だが、チャンピオンでは大分大きく発達する臭腺のような部位を発見、ゴブリンの群れの集まり方を考えると、もしかしてコレの匂いで別の群れと連絡したり合流したりするのだろうか?

 同種で縄張り争いするゴブリンと言うのは今の所見つかって居ない、草原の主の麝香の匂いのする縄張りマーキングとは意味合いが違うのだとして考える。

 人間では匂いでの信号はあまり有効では無いが、ゴブリンは野生の魔物だ、嗅覚が人以上だとしても可笑しくは無い、コレの匂いを精製すればもしかしてゴブリン寄せとして使えるだろうか?


 各地に散っていたゴブリン討伐の際に、ほんの少しだけ使って実験させてもらうと、確かにこの匂いに対して反応するのが確認できた、多く使えば、群の誘導も出来るだろうか?


 本命の機会は思ったより早く訪れた、前回と同じゴブリンの大発生からの大行進、恐らくこの地に居た冒険者が減ってしまって、魔の森での討伐量が足りなくなってしまったのだろう。

 前回と同じように夜中の奇襲、これはゴブリンが本能として刻んでいる習性なのか、もしくは文化として学習して居るのだろうか?どちらにしても人間側の自分としてはとても嫌なゴブリンが手強い要因なのだが・・・

 この地での一番強い冒険者PT、ガンダーラのリーダーにして、その中の主力で私の研究の協力者である和尚さんに、最大濃度に濃縮したゴブリン寄せの小瓶を渡す、最終的にこの群れに対する囮と成って欲しいと言う、下手すると、私が渡したコレのせいでゴブリンに囲まれ、命を落としかねない毒だと言う意味も含まれるのだが、この人はそれぐらい当然だと言う様子で小瓶を受け取った、当然の様にに死地に赴こうとして居るこの人に、内心の謝罪を飲み込む、此処で私が震えて泣きながら、御免なさい御免なさいと叫んで膝から崩れ落ちたとしても恐らく結果は変わらない、私の気が晴れるだけで、この人の気持ちが下がるだけだ、せめて気持ち良く送り出すのが私の仕事だろう。


 口に出さずに祈る。

 お願いですから、生きて帰って来て下さい・・・・・


 ギルドの中、解体場の片隅で人目を避けて毛布をかぶり、ガタガタ震えながら夜を明かす、その間も、冒険者の方々や、ギルドの職員が駆け回っている。

 情けないとは思うが、正直動けない。


 いざと言う時も動けるようにと、最低限の剣技も学んでいたのだが、こうなって見ると動けない・・・・

 訓練と実践ではやっぱり違うか・・・

 やっぱり言うほど成長して居ないじゃないか・・・


 ガンダーラのメンバーが、3人揃って朝日が昇るころにゴブリンの群れの中に消えた事を聞いた、群の頭であるキングとクイーン潰しの大物狩りと、私が渡したゴブリン寄せを活用するために、囮と言う自分の仕事を果たしに行ったと言う事だろう。

 迷う事無く和尚さんに付いて行った灯さんとエリスちゃんと、震えて待つだけの私の違いが内心で自分自身を責める。


 好い加減、動けない私の身体に活を入れて震える膝を誤魔化して立ち上がる。

 炊き出し位は手伝わなければ・・・・



追伸

新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。

少女は石と旅に出る

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766

SF風味なファンタジー、独立した話ですが、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします。

ガッツリ混ぜるかは未だ未定


少女は其れでも生き足掻く

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055

中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る