第221話 見舞い
「来客だぞ?」
EXが一足先に反応したので。咄嗟に耳を澄ませる。誰だろうか?
コツコツコツと、足音が響く。
コンコンと、戸が叩かれる。
「はい? どうぞ?」
ギィと音を立てて戸が開く。
「お久しぶりです、お元気ですか?」
向こうの村に残して来たアカデさんだった、マスク等の防疫装備の上からでも判る、心配そうな表情を浮かべて居た。
「見ての通りです、動けません」
疲労状態が限界の上、布団の上に猫てんこ盛りで重くて物理的に動けない。
その様子を見たアカデさんが大きく噴き出すのを堪えた様子で、くすくす笑いながら緊張を解く。
「意外と平気そうですね? 安心しました」
「ご心配おかけしました」
「倒れたと効いたので様子を見に来ました、通常の培養法と論文も必要だと言う事で私の出番ですね?」
アカデさんが仕事は心得ていると言う様子で、仕事を寄越せと言う。
実際問題、アカデさんの現地研究者フィルターを通さないと自分やEXが作成した報告論文は上手く現地の人に理解されないので、アカデさんはかなり貴重な人材である。
「これだ」
EXが体内で培養して居たらしいブツを、自信の一部をシャーレ状に変形させてアカデさんに渡す。
「培養条件は?」
「餌は糖を含んだ培地、湿度は何%、温度は何度、光には弱いので暗所で・・・」
EXが流れる様に条件を指定して行く、アカデさんもその手順なら分かると言う様子で頷きながらメモを取る。
「精製手順は?」
「今回の薬効成分は水溶性だから精製水で・・・・」
アカデさんは新しい実験材料に目を輝かせている。
「分かりました、私の方でも色々やって見ますね」
そう言って、サンプルを持って部屋を出て行った。
「しまった、ツッコミを入れ忘れた・・・・・」
あまり人を集めたく無かったというか、下手にうつった場合一家全滅と言う状況である、確かに人手は欲しかったのだが、デメリットが怖すぎるのだ。
「正直、貴方に死なれた時点で私達離散すると思いますよ?」
クリスが何時の間にか部屋に居た。どうやらアカデさんと一緒に来ていたらしい。
・・・・クリスの目尻が若干赤く腫れていた、泣かれたらしい。
「いざと言う時の命綱として義父上(ちちうえ)と義母上(ははうえ)居るだろう?」
自分が居なくてもそっちに頼ればどうにかなるはずだ。
「其れでもですよ、自分の価値を低く見積もらないで下さい」
クリスにしては強い言葉を使う、珍しい。
「犯人?」
クリスの後ろに居た灯が、半ば得意気に顔を出した。
「犯人も何も、私は単にEX使って通信して近況報告しただけですし」
悪びれた様子は無い。
因みに、EXは半径数キロ単位で子機達とP2P式に同期通信しているので、通信機器として使う事も出来る、スマホ要らずである。
「私の時に卑下するなって言ったじゃ無いですか、其れなのに自分を卑下してどうするんですか」
クリスにまで突っ込まれる、そういや、そんな事を言って居たなと自分の台詞を振り返る、しかし・・・・・
「そんなに卑下してたか?」
「してます、自分が居なくなるの前提で話してます、私達は逃がす気在りません、もっと執着してください」
「分かった、有り難う」
力強く貴方が必要だと言われるので、思わず礼を言う、正直悪い気はしないが。
「うつらない様にだけ気を付けてくれ」
そうとしか言えない。
「分かってますけど、極論私達の方が治りが速そうだし、和尚さんの浄化で本人が治らないって言う縛り抱えてるんですから、寧ろ和尚さんが最前線に居る事の方がバグです」
灯が無情にツッコミを入れるが。
「嫁を最前線にして、俺が後ろでふんぞり返ってたら俺が下衆だろうが」
そう返す。
「勝手に死なれる方が下衆です、最悪です、大人しくしばらく休んでてください!」
半泣きで言い返された、コレは言い返せない。
流石に泣かれては勝てないので、大人しく黙る事にした。
「愛されて居るな?」
誰も居なくなった部屋で、EXに平坦な声で茶化される。基本的に此奴には感情が無いので、喋りは平坦で、理屈っぽく、事務的だ、ポーズだけっぽくも有るが・・・
「そうだな、果報者だ」
毎回思う、良い嫁を貰ったものだ。
「次死んだら、私がペースメーカーにされるから早く治せ」
何にでもなるんだな此奴・・・・
「どの方向の脅しなんだ?」
思わずツッコミを入れつつ眠りに落ちた。
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