第220話 療養坊主

「こうなると退屈だな・・・・」

 病室で一人呟く、先日黒死病をうつされ倒れて、毒素によるショック症状で心肺停止に成り、灯(あかり)を始めとする面々に心配をかけた挙句、EXと言う文明の利器を強引に使った電気ショックによる心肺蘇生によって無事生還したと言う一幕が有った。

 そんな訳で、病人は無理しないで寝て居ろと言う事で病室に押し込められたのだ、何故か「見張りをしておいてください」と言う灯の指示に合わせて猫達が布団の上に乗っかっている。何時もは言う事を聞かないと言うのに謎だ。

 因みにこの病室、前回神父が寝ていた部屋である、部屋の主は一足先に回復して治療に駆け回って居る。

「しょうがないだろう、先日死にかけた人間をこき使うよりは建設的だ」

 独り言にEXの子機が答える、現在の形状は緑色の百足(ムカデ)だ。

「まあ、其れはしょうがない」

 納得する、半病人のゾンビがうろうろするのが迷惑なのは元の世界で嫌と言うほど知っている、今回倒れたのは、自分自身を治療できない事を失念して居た結果である。

 他の患者は、自分がお経を唱えると毒素が消え進行が遅れる為、自分の場合との比較対象として混乱して、思ったより進行の速い病状に対応が遅れた物だから急性中毒を起こしただけである。因みに、この一時的な仮死と言うのは当時かなり問題と成って居たらしく、棺桶を掘り出して杭を打つ話が伝わって居たり。現在でも有名なカードゲーム、ギャザリングでも「早すぎた埋葬」としてカード化されて居たりもする。

 倒れた時の灯の剣幕が凄かったと言うのはリカから聞いた、「愛されてますねえ」と。にやにや笑われた、思った以上に必要とされて居たらしい。

 しかし自分自身を治療できないのは深刻にバグだな・・・・

「現状の治療状況は?」

 暇なので聞いて見る。

「そろそろ患者が減り始めた、薬の効き目は順調だな」

 淡々と答えて来る。

 自分が抜けても大丈夫と言うか、倒れた時が丁度ピークだったらしい。

「鼠の駆除は?」

「見ての通り、この猫達が一回り大きくなっている、ペスト鼠の数も順調に減って居るのである程度安心だ」

 確かに猫達は連れて来た時より明らかに重い、最初は痩せていた筈だが、今はみっしりと重い。比喩無しに重くて動けない。猫は重力制御出来ると言うギャグが有るが、実際にやられると納得するしか無い。

 まあ、前回無理矢理電気ショックで叩き起こされた分も在り、全身が酷く怠い、何時もの韋駄天真言での筋肉痛に近いが、EXの接地部分に派手な感電痕が残っている事からも判る通り、かなりダメージが大きかったらしい、傷口が大きかったので治療術でも奇麗に治らなかったのだ。

 そして表は兎も角、傷の状態が内側で回復術師側に把握され難い事から、治療術での治りが悪いので自力での自然治癒に任せるしかない、尚且つ30越えのおっさんである、自己治癒力はお察しだ。

「其れは何より」

 何とも言えない表情でそう返すしか無かった。

「そう言えば、金属系の未発見鉱山を発見したので少々失敬している、お陰で培養速度も上がったぞ」

 EXに関して言えば使用できる金属の物量こそがモノを言うので、其れは嬉しい事なのだが。

「・・・・・偽装はしてあるか?」

 バレたら領土問題である。

「大丈夫だ、小さな蟻(あり)が延々と出て来るだけだ、一般人にはバレない」

 確かに此奴の正体は元の世界の知識が無いとちんぷんかんぷんだ。

「バレない様にな?」

 そうとしか言えなかった。

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