第153話 説明の続きと、馴染む少女
「大丈夫だったでしょう?」
アカデさんが笑顔を浮かべつつそんな事を聞いて来る。
「はい、私の緊張は何だったのでしょう?」
「この家ではこんな物、他の所では色々、家政婦(メイド)でも力関係が有って凄いらしいけど、領主のギルさんもエルザさんも揃って元冒険者だから体力有るし、張る見栄も無いからって家政婦無しで切り盛りしてたから、こんな感じね。」
予め普通の貴族とは違うと言われていたが、此処まで違うとは思わなかった。
「向こうでは本当にすごかったです・・」
あの世界、家政婦だろうと何だろうと、実家の力の影響力が物を言うのだ、表に出る家政婦は貴族や大商人の次女三女の類で、平民の家政婦は裏方で一生日の目は見れず、実質屋敷の敷地で飼い殺しとなるのだ、当主と目を合わせる事など有はしない、見るだけで不敬、それ以前にそもそも存在を認識されないのだ。
今回の様に、目線を合わせ、優しく挨拶されるなど、先ず無い。
「でも、何もしない方がいたたまれないと言うか、辛いです。」
謎の職業病が出て来た。そもそも身分が一番低いのに目上の人に働かせていると言うのは座りが悪い。
「それなら、明日の朝は早めに起きて朝ご飯の準備を手伝いなさい、後は洗濯と、あの子達の世話に掃除ね、流石にこのお屋敷広いから、空き部屋までお掃除する余裕無いから、その辺のお仕事は結構有るから。頑張ってね。」
「はい。」
本当に丁寧に教えてもらえた、初日から見て覚えろと放り出されたあそことは天と地の差だ、最早比べるのも烏滸(おこ)がましい。
「色々教えたけど、これで大体大丈夫かしら?」
「はい、ありがとうございます。」
「因みに、今は私達が保護者で貴方は養子と言う事に成ってるから、家政婦枠じゃないから給料も出ないので注意ね?」
本気で家政婦では無いらしい、良いのだろうか?
「いや、助けてもらったので十分です、家政婦も、実家に最初に先払い一括で現金渡されて、後の給料も有りませんでしたし・・・」
主観的にはあっちも実質タダ働きだ・・・
「あら?実家に連絡入れましょうか?」
「良いです・・・口減らしで出されて、実質帰って来るなって言われてるような物なので、連絡も手紙出しても通じませんでしたし。」
私は恐らく死んだことに成って居る、下手に連絡を取って、元職場のブレイン領の領主に目を付けられても困る。
「まあ、気に成るならもうちょっと後の方が良いわね、多分領主が変わるから。」
アカデさんが不思議な事を口走った。
「何が有るんです?」
「何かあるかは後の役人さんに聞くだけ、どうなるかはお楽しみに?」
答えに成って居ない、今は答えられないのだろう、深堀する物では無いので疑問は置いて置く。
「さてと、そっちが聴きたいことが一段落したら、こっちが色々聞きたいのだけど、良い?」
「私が知っている事なら何でも・・・」
ゴブリンに捕まって居る間の事を色々と聞かれた、何故そんな事を?と聞いた所、研究者だから色々知りたいと言う事らしい、今更隠す事も無いので、聞かれた分は全て答えた、最後に、助けられた方法は聞いた?と聞かれ、強い浄化を使ったので助けられたと言う事を聞いた、と答えると、小さくうなずき。
「役に立ったのなら何より。」
と、優しく微笑まれた。
「子供、産めるなら産んどきなさい、私は古い方で、産めないから、代わりに、ね?」
噛んで含める様に言われた、少し悲し気に、目尻に涙を浮かべて居る。
「今日は此処まで、おやすみなさい。」
話は此処までと、話を切り上げられてしまった。明かりを消し布団に入り目を閉じて背中を向けられてしまった。
私もこうなって話相手のアカデさんが寝てしまってはやることが無いので布団に入る、予備の布団と寝台は私達がお風呂に行って居る間に運び込んだらしい。
「でも、相手が・・・」
そもそもの和尚さんは、私を其方の対象として相手してくれるのだろうか?
「あの人、意外と朴念仁で、遠回しだと気付かないの、先に灯ちゃんとエリスちゃんを味方に付けなさい。」
やたらと具体的な助言が来た、成程・・・
「はい・・・」
「でも、貴方の体調、未だ本調子じゃ無い様だから、焦らないで、もうちょっとお肉付けなさい、見てるこっちが不安になるから・・・・」
確かに、ある程度は付いた気がしているが、あの目が覚めた時のゾッとする様な痩せ方じゃなくなっただけで、まだまだ細い、胸もお尻もペタンコだ、これで女扱いしてくださいと言っても笑われそうだ、いっぱい食べなくては・・・
「はい、ありがとうございます、おやすみなさい。」
一先ずの目標が決まったので、後は寝るとしよう。
「はい、おやすみ。」
後日
朝起きたら先に台所に立つ、そうしないと奥様や他の方々が料理を始めてしまって私の仕事が無くなってしまうのだ、只の居候では流石にいたたまれない。
御飯の準備を始めると、餌を寄越せとぬーさんがのそのそと私の所に寄って来る。
氷の入っている保管庫から、ぬーさん用と書いて有る生肉の塊を取り出す、一体何のお肉でしょう?
「これで良いですか?」
と、聞くと、それで良いと言う様子で頷いた。ぬーさんは喋らないのに、私の言う事は判って居ると言う様子で頷いたり、首を振ったり、鳴いたりしている、本当に頭が良いらしい、猫の概念が崩壊しそうな大きさだが、話が通じているようなので、安心して相手が出来る。
生肉を餌箱に乗せると、嬉しそうに齧り出した。
「あら、毎日早いわね?おはよう。」
「おはようございます。」
奥様のエルザ様が起きて来た、お義母さんで良いと言われたが、其処までは内心、まだそう呼ぶには勇気が要るのだ。
其れにつづいて、アカデさん、エリスさん、灯さんと言った順番で毎日起きて来て料理を手伝い始める、それぞれ料理が出来るらしく、全員揃っている状態だと、私の出番が無い、子供の世話も私だけと言った状態は余り無いので、本当に家政婦無しで家事が回って居ると言う事に感心する。
今日もお腹いっぱいにご飯が食べられた、結構それだけで嬉しい上、皆さん料理が上手いので、レシピを教えてもらうのも楽しい。
所でアカデさん、その食材は何の肉です?
いや、魔物だろうと獣だろうと美味しければ何でも良いです、文句じゃ無いです、純粋な好奇心です。
昼間の間エルザ様だけで子供の世話も全部回していたと聞いた時には驚いた物だ、まさに猫の手も借りたい、実際にぬーさんの手を借りて居る上、想像以上に役に立ってくれているので、そんな意味だったのか?と、首を傾げるが、些細な問題だ。
他の仕事はと言うと、流石にこの広いお屋敷、前任者の領主が建てた物で無駄に広く、掃除の手までは行き届かなかったようなので、其処等辺は私の独壇場だ。
他の仕事に追われる事も無く好き勝手掃除して行くと言うのは結構楽しい物だ。
掃除は大所帯だから大変だと身構えたが、謎の洗濯樽と言う物が活躍していた、洗濯物を樽に入れて、水と石鹸を入れて、椅子に座って、足をペダルに乗せて上の空でグルグルして居れば洗濯が出来上がると言う前代未聞の便利道具、もっと前に出会いたかったです・・・
・・・搾り取る脱水用の圧搾ローラーは流石に重いし生地が傷むので、もうちょっとどうにか成りません?
と、そんなこんなで、あっという間に馴染んでいた・・・
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