第154話 妻会議(クリス視点)

 現在午後のお茶の時間、本日は冒険者お休みの日らしく、灯さんとエリスさん、アカデさんと私、4人で秋の庭、外のテーブルでお茶を楽しんでいた。しかし私、こんなに恵まれて居て良いのだろうか?

 因みに、エルザ奥様はご近所のお茶会らしく不在、和尚さんは部屋で仏像を彫っている、何だか集中したい気持ちらしいので珍しくほったらかしだ。

 領主のギル様、昼間は基本的にギルドに張り付いたままだ、これだけ忙しそうな領主も珍しい。


「大分可愛くなりましたね?」

 灯さんにそんな事を言われた、助けられて早数ヶ月、助けられた時に自分でもぞっとする様な骨と皮しかない痩せ方はすっかり成りを潜め、段々と健康的に成って来たと思う。

「有り難うございます。」

 心底からそう思う、他の人に助けられる仮定も思いつかない、そして、もしもあの時出会わなかったらと言う想像はしたく無い。

「そろそろ、身体も本調子の様ですし。これからどうします?何かやりたいことあります?」

 その言葉は、酷い衝撃だった、平たく言うと、出て行けと言う意味に取れたのだ。

 そう受け取ってしまった私は、何も考えられず、ボロボロと涙が零れ出した。

「あわわ・・・どうしました?変な事言いました?酷い意味じゃないんですよ・・・」

 どうやら灯さんに自覚は無かったらしいが、これからどうする?と聞かれた時に、これから追い出しますけど、別の場所とか当て有ります?と受け取ってしまったのだ。

 そもそも他の場所の宛なんか一切無い、ここに居る以外の選択肢は無いのに、他の選択肢有りますか?なんて聞かれても困る。


「今更追い出しません、悪い方に考え過ぎです。」

「雇ってる訳でも無いですしね。追い出す意味有りませんし。」

 灯さんに怒られ、エリスさんにも突っ込まれた。

「そもそも、貴方は養子扱いだから、家政婦じゃ無いって言ってたのに・・・」

 アカデさんが呆れ顔で呟く、其れは確かに言われて居たのだが、只の方便では無いかと考え、思考を放棄して居たのだ。

「家を追い出すから当てが有るかじゃ無くて、何か欲しい物とか、やりたい事とか無いかって話です、家事育児任せっぱなしなのに、お礼的な代価渡してませんし、深刻に考えないでぽろっと言って下さい。」

 何かご褒美的な意味だろうか?ちらっと思い浮かんだ物がある、他に欲しい物も思いつかない、この際だ、言ってしまえ。

「えっと・・・私も赤ちゃんが欲しいです・・・・」

 一瞬場が静まった、失敗したかと思うが、欲しいと思った物は本当に其れだけで、言ってしまった以上は、後の祭りだ・・・

 正妻3人の判定待ちである。

 家を留守にしがちな5人の代わりにエルザ奥様と一緒に子育てして居た所で、不意に自分も欲しくなってしまったのだ、助け出されたあの時は、もう産むのは嫌だと考えて居たが、子供達の可愛さにすっかりほだされてしまったのだ。

「思ったより、大きい物が出ましたね・・・」

 灯さんが少し驚いた様子で呟く。

「材料的には小さいけどね?」

 アカデさんが妙な事を言う。

「財政的には?」

 灯さんがエリスさんに聞く。

「何だかんだ、冒険者稼業で稼いでますし、石鹸と洗濯樽の分でもかなり余裕あります。最悪何かあった場合でも、お義父さん達に頼れるので・・・」

 エリスさんが財布を握って居るらしい。迷いなく頼れると言うのは、信頼関係がしっかりできていると言う事だろう。

 何気に領主の家だと言うのに、税収が如何とか言わないのは少し不思議だったりするが。前に居たブレイン領の領主は、事有る毎に、税金上げれば良いだろうと言って居た事しか覚えて居ない。

「子供一人増えてもあんまり影響無いと。」

「純粋にクリスさんとお義母さんの家事が増えるだけだったりしますね・・・」

「大丈夫?」

「結構仕事余裕ありますし、ぬーさん居ますし・・・」

「なあお?」(だからこっちに頼るな)

 不意に呼ばれたので、ぬーさんが返事した、相変わらず子供達をお腹に乗せたままだ。

「和尚さんどうします?」

「あの人、最初多少はぐらかしますけど、押し込めば問題無いかと。」

「私の時も、援護射撃で押し込んだしね・・・」

 アカデさんが懐かしそうにつぶやく。

「何気に、あの人から襲ってくるパターンが少なすぎません?」

「目一杯距離詰めて、色々不都合無ければって感じですしね。」

「無理やりって有ります?」

「私相手に一回、有ったか無かったか程度ですね、直ぐへたれますし。」

 あの人が無理矢理と言う状況が想像出来ないが。すっかりあの人の話題だ。3人も妻が居るのに、変な上下関係も無く皆仲良くしていると言うのは不思議な光景だと思うが、あの人の独特の雰囲気のせいなのだろうか?

 そして、私が余計な事を言ったと言う様子でも無い、怒られたりする事でも無いらしい。昔の職場では手を出された挙句、正妻に泥棒猫と言われ、凄い勢いで殺されそうになった同僚も居たのだ、其れを考えると、私もよくそんな事が言えた物だ・・・

 そんな事を考えていると、横に成って居るぬーさんと目が合った。

「なあ。」(なにかようか?)

 いいえ、何でも無いですと、首を振って答える。

 段々何を言って居るか判るような気がして来た。

 気のせいだと思うのだが・・・

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