異世界坊主の成り上がり

第152話 意外と複雑な関係

「こうして最初の説明を買って出た訳なんだけど。説明居るかしら？」

　アカデさんが話をしてくれるらしい、いきなり貴族の家にもらわれる流れでは何が何だか分からない、うっかり地雷でも踏み付けてしまってはたまった物では無いので、そういう意味でも説明は欲しい。

「お願いします。」

　全力で真剣な顔をして頷いた。

「この家良い人しか居ないけど、意外と複雑だから、あの3人は意外と常識無いから。」

「其れは確かに・・・」

　思わず口に出して呟いてしまい、失言を告げ口されないかとビクビクして周囲を見回す。

　今は2人しか居ない部屋の中、私は寝台の縁に座り、アカデさんは机の前の椅子に座っている、考え過ぎだろうか。

「そんなにびくびくしなくて良いから、この家、貴族と言っても元冒険者の平民上がりだから、貴方の居た所みたいな累代した根っからの選民思想なブレイン領とは違うから。」

　元の勤め先を行き成り言い当てられてびくりと震える。

「ぶぶぶぶ・・・」

　違うんです、そんな嫌な領主は知りません、そんな怖い貴族なんて知りませんと言おうとしたが、思わず震えが来て、言葉に成らずに変な音を連発するだけだった。

「ほら、そんなに怖がらなくて良いから、私たちの和尚さんだと・・・・こうするかしら？」

　アカデさんはそう呟いたと思ったら、立ち上がって此方に向かって来て、優しく頭から胸元に抱きしめられた。

「よしよし・・・」

　和尚さんの筋肉質なごつごつした感触とは違う、女性特有の柔らかい感触に包まれた、心臓の近く、アカデさんの心音が直ぐ近くに聞こえる。トクントクンと言う優しい音だ、我ながら単純だと思うが、直ぐに余計な力が抜けた。

「落ち着いた？」

「はい・・・すいません取り乱して・・・」

「少なくとも、貴方の正体があの馬鹿貴族の間者であっても大した問題は無いわよ？」

　思わずその言葉に目を剥く。

「それって？」

「現状、この領地では隠す事無いから、間者？」

「違います！」

　思わず叫ぶ。

「其れなら大丈夫ね。」

　にっこりと笑われた。まるっきり手玉に取られている。

「でも何でブレイン領だって？」

　其れは気に成る、他にも候補は有る筈だ。

「こんな辺鄙な所に来た貴族、役人とあの馬鹿しか居なかったから。」

「そんな簡単な・・」

「この辺、辺鄙な所だから、家政婦付きの家なんて物も無いの。」

「え・・・」

「ついでに、お義父さんを貴族様って言う様な人はこの領地に居ないの、だから外の人。」

「確かに外の人です・・・」

　其れは認める。

「で、フラワー男爵とか言うのは知ってる？」

「はい・・・・」

　最早、隠す物も無い、考えたら隠す意味も必要性も無いのだが・・・

「更に、この自称フラワー男爵と言う馬鹿はもう死んでるけど、其れも知ってる？」

　その言葉に、ぎょっと目を剥く。

「・・・いいえ。」

　震える声で返した。

「喜んでも良いのよ？」

「そんな悪趣味は有りません。でもどんな最後だったんです？」

　正直あの馬鹿相手に今更何の感情も出て来ないが、少しだけ気に成った。

「しばらく前にゴブリンの群れに此処が襲われて、その時に凄いどや顔で現れた挙句に、うちの冒険者の口車に乗ってゴブリンの群れに潰されたの・・・」

「それはまた・・・」

　人をゴブリンの餌に成って来いと突き落として置いて、自分の落ちもゴブリンか、何とも酷い話だ・・・

「まあ、気に成ったから聞いて見ただけで、この話に意味は無いんだけどね。」

　その言葉にがっくりとしながら安心する。

「追い出されるかと・・・」

　ぐったりとした疲れを感じながら呟いた。

「其れは無いから安心しなさい、で、本題だけど、誰の話から聞きたい？」

　勝手に全部話してくれるわけでも無い様だ・・・

「先ずは和尚さんで・・・」

「はいはい、和尚さんは、凄腕の冒険者で、遠くから来た旅の人、この家の養子にして愛娘（まなむすめ）、エリスちゃんの旦那様で、私たちの旦那様。」

　入り婿なのはさっき聞いたが、遠くから来た人なのか・・・

「色々知ってるけど、意外と常識がズレてて、世間知らずだから、貴方があの人から聞いても、多分明後日の方向に脱線して帰って来れ無さそうだから、私が説明を買って出たの。」

「其れはありがとうございます・・・・」

「灯ちゃんは、和尚さんと同郷らしくて、仲が良いわね。」

「其れは説明聞かなくても良く分かります・・・」

　私が全く知らない事を断片的に話して二人で通じ合っている、その間には誰も入りこめて居ない。

「私は只の学者、和尚さんの3番目の妻って事に成ってる。」

　一番年上だろうに、その言葉には悔しさと言う物は感じられなかった。

　むしろ、これで十分と言う様子で幸せそうな表情を浮かべて居る。

「最後の方に成ったけど、お義母さまがエルザさん、で、領主がギル様、あの時は居なかったけど、昼間は冒険者ギルドが定位置で、ギルドマスターの仕事に追われてるから、夜には帰って来る。帰ってきたら改めて挨拶ね。」

「怖いです・・・」

　それだけは正直に言う。

「現状怖い人はこの家に居ないから安心しなさい。」

　優しく笑われた。

「そして、子供達だけど、一番大きい光が和尚さんと灯ちゃんの子、二番目のイリスが和尚さんとエリスちゃんの子、一番小さいウルザはエルザさんとギルさんの子ね、ウルザが順当に行けば次期領主だけど、今の所扱いに差は無いから、変に気を使うと逆に怒られるから注意ね？」

「はい・・・」

　特別扱い禁止なのは逆に珍しい、普通の家では跡取り息子を普通に扱ったらとんでもない事に出る・・・

「で、一番珍しいのがぬーさんだけど・・・」

「あれって猫で良いんですか？」

　猫の類では有るが、蜥蜴とドラゴン位に明らかに別枠の生き物だ・・・

「この家では猫と言う事に成ってるけど、多分、草原の主辺りの大型獣の子供ね、今の所悪い事はしないし、むしろ子供をあやしたり、悪いことしない様に見張っててくれるから、仲良くね？」

「仲良くって一体どうすれば・・・・」

「何もしなければ敵対も何も無いから、そんな身構えなくても大丈夫。」

　笑われた。

　話を終えて、そろそろ夕食だと言われ、手伝いをしなくてはと焦って台所に行った所、初日はゆっくりしてなさいと椅子に押し込まれてしまった。

　手持無沙汰にぬーさんと見つめ合って居た所、領主のギル様が帰って来たので、ガチガチに成りながら挨拶した所、固まり過ぎだと笑われた、確かにどこぞの貴族とは違う、優しい瞳の人だった。

　出てきた御飯は凄く美味しかった、所で、ニンニクって、土が痩せるから貴族の野菜だって言われるものだったはずなのですがこんなに贅沢に使って良いんですか？

　この土地、肥料はいっぱいあるから大丈夫？

　そう言う問題だったんですか？

　そして、ぬーさんがとんでもない量の肉食べてますけど、アレは何処から？

　和尚さんは腕の良い冒険者だから大丈夫？

　先ほどまで一緒に寝ていた赤ん坊一人分ぐらい肉の山を盛大に齧っている。下手な家ではこのエサ代だけで破産しかねないと要らない心配がかすめる。

　どれほど稼いでいるのだろう？

　私が一人増える程度は問題ないから安心しろと？

　はい・・・愚考でした・・・・お世話になります・・・