第244話 猫の襲撃

「ギャアアア!?」

「誰かー?!」

 屋敷の庭先で突然妙な悲鳴が上がった。

 思わず書類仕事を中断して、椅子から立ち上がり窓から庭に飛び出し、声の元に駆け付ける。

 まあ、予想通りと言うかなんというか。庭先に居たのは、体長2メートルクラスの巨大猫と、その一団。

 子供達、ヒカリとイリスを背中に乗せたぬーさんだった、領地運営も一段落したので、そろそろ大丈夫そうだと連絡をしたのだが、迎えに行く前に先回りしてコチラに来てしまったようだ。

 因みに、背中に乗っている二人は、この騒ぎが予想外の反応だったのか、目を丸くして固まっていた。

 あっちでは日常過ぎて誰もツッコミを入れないのだ。

「旦那様!?」

 使用人一同が思い思いの武器を手にぬーさんを遠巻きに囲んでいる、庭師のデカイ鋏は兎も角、石とか包丁とかカラトリーナイフだのでぬーさんに傷一つ付けれれんだろう。

 そもそも当たらないし、当たっても獣毛で折れる曲がるで人の方が怪我をしかねない。

「大丈夫、騒がんで良いから」

 そう言いながらまあ落ち着けと言う感じのジェスチャーをしつつ、無造作にぬーさんに近付く。

「何事ですか?」

 灯とエリスが少し遅れて到着した。

「ああ、そう言えばコッチではこの子達の事説明してなかったんですよね」

 灯が一目で状況を理解したらしく、一寸失敗したかな? 位の軽い調子で呟いている。

 そこから少し遅れてクリスとアカデさんが到着する。

「そんな訳で、私達の子供、ヒカリと」

 灯がヒカリのことを抱き上げる。

「イリスです」

 エリスがイリスを抱き上げる。

「その保護者役のぬーさんだ」

 残されたぬーさんの頭を撫でる。

「旦那様が大丈夫というなら大丈夫なのでしょうけど・・・・・・」

「大丈夫だ、変な事をしない限りはな?」

 その一言を受けて、渋々と言った様子で、集まってきていた面々が三々五々と散っていく。

 番猫して居るので、縄張り内で変な動きをする侵入者とかは無事では無いが、一般人に手を出した事は無い。

「まあ、良く来たな?」

 なにはともあれ、無事到着したのだからと二人の頭を撫でると、えへへと言った様子で子供達に笑みが浮かんだ。

「リーオの方は未だ向こうですか?」

 一人足りないなと灯が確認する。

「なーさんとくろとさんがいっしょ~」

 ヒカリが得意気に答える。

「あっちでおるすば~ん」

 イリスが続けた。

「無事なら良いです」

 灯とエリス、クリスが揃って安堵のため息をつく。

「じゃあ、私の方で迎え行って来ますね?」

 あーさんに乗ってアカデさんが出かけていった。


「何だったんです?」

 一騒ぎ終わった所でカナデが到着した。

「家族が増えた、と言うか、今到着した」

 灯とエリスがそれぞれ子供を掲げてみせる。

「そっちの二人がうちの子の」

「ヒカリと」

「イリスです」

 紹介の前置きに繋がるように灯とエリスが子供達を紹介する。

「で、その子の保護者というか護衛のぬーさん」

 カナデの目線が順番に移動して、此方の足下に寝そべっているぬーさんに合い、ギョッとした様子でビクリと固まった。

「身内に関しては攻撃性無いから安心して良いぞ?」

 大丈夫だと証明するように、体制を低くして軽く撫でて見せる。

 ぬーさんは別に気にしないと言った様子で微動だにせずに目を細めた。

「あの、身内の証明ってどうすれば?」

 おっかなびっくりと言った様子でやっと口が開いた。

「一緒に居て匂い移りすれば平気なんじゃ無いですかね?」

 適当に灯が推論を出す。実際其れで大丈夫だと思う。

「因みに、うちの子供はあと一人居るから、今アカデさんが迎えに行ってる」

「この際だから残してるのもアレですしね?」

 灯が続ける。

「わかりました、後で又色々聞くとします・・・・・・」

 カナデは説明されても未だ怖いのか、おっかなびっくりと言った様子で後ずさりしながら屋敷に戻っていった。

「ここまで怖がられるのも珍しいですね?」

 灯が的外れに変な表情を浮かべる、いや、このサイズの肉食獣を怖がるなと言うのも無理のある話なので、変なことは無いと思う。


 先ずは同居メンバーの顔と匂いを覚えさせるのが先だろうか?

 餌の確保は、買って確保だと結構なお値段に成りそうなので、冒険者ギルドで切れ端でも集めようかな?

 何だかんだ小市民である。

 一先ず虚空の倉に残っている分の食料を放出して食料庫を埋めておこうか。

 気分転換に狩りに行っても良いかも知れんなあとぼんやり考えたりする。

 子供達については、余り甘やかす方針では無いのだが、時々こう言った無茶をする分には特に問題は無さそうだ、単独行動だったら危ないだろうがと怒る所だろうが、ぬーさんを護衛に付けている状態で何か出来る存在が想像出来無い為、コレぐらい問題無いなと思いがちだ。

 それでも、やはりと言うかなんと言うか、リーオを除く子供達は灯達にそれなりに怒られていた。

 だが、子供達はその後楽しそうにおやつや夕食を平らげていたので、大したことはなかったらしい。

 むしろ、子供達も再会を心待ちにしていた様子で、怒られるのも含む一連の流れの中、何とも言えない良い笑顔をしていた。

 その後、義母上の方にEXを使って連絡した所、「大丈夫だったでしょう?」と言った感じに笑われ、「先に連絡して下さい」と灯達が気の抜けた抗議の声を上げた。

 後日、子供達の紹介をしたり、ぬーさん達にこの屋敷のメンバーを紹介して回る羽目に成ったりした。

「なあお?」(お前らの匂い移ってるから今更説明されんでも?)

 そんなことを後から言われたりもした。

 因みに、初対面の面々には兎に角怖がられたのも、言うまでも無い。


 追伸

 寅年なんで猫話。

 明けましておめでとう御座います、今年もよろしくお願いいたします。

 当然というか何というか、ぬーさんは通常の街道通ると各地の関所や何やらでひと騒ぎされるのを理解して居るので、微妙に街道を外れて、絶妙に人と出会わないルートを通っています、ぬーさんの背に乗ってるとは言え割と危ない、実際に見たら確実にお説教なコース。

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