第50話 各所の反応 ギルマス
「いやしかし。規格外も良い所ですね。」
神父が、和尚達のいなくなった部屋で呟いた。依頼の後処理も有ると言う事で残っていたのだ。
「うちのエリスが懐いてて、案内人やってるから目立った失敗は無いが、そうじゃなかったら大騒ぎだ。」
思わずため息を付きながら、報告書のおかしな所を直す、時々大きいサラマンダーは見かけられてきたが、あの大きさは規格外も良い所だ、まあそれはあの水域には元から居た生き物だから特に問題は無いのだが。あれの腹の中に詰まっていた物が問題だ。
よりにもよってゴブリンが詰まっていた、魔の森の領域以外には居ない筈のゴブリンが・・・。
現状ゴブリンは魔の森でしか見つかって居ない、魔の森は高い山に囲まれていて、丁度谷間の低地にこの村がある形になっている。大発生の時以外ではここを通していないのだ。
他の場所でも同じように開拓村と言う名目の防衛線がひかれている。
前回の大量発生後は正規軍主導で念入りに掃討されたのは確認されている。
魔の森でもやれば良いと言う話があるが、規模を間違えてはいけない、純粋に広いうえ、敵はゴブリンだけではない、組織立って積極的に人里を襲うのがゴブリンだと言うだけで、ゴブリンより強い生き物はごまんといる。一番の問題点は補給線だ、あの森は軍単位の食糧を現地調達で賄える物では無いし。最大の脅威としておとぎ話で語られる、災厄と成りそうな竜の存在は今回の和尚で証明されてしまった。
前回エリスが魔の森に入った依頼はあくまで偵察だった、規模が小さくとも一旦帰還して、改めて規模が小さければ冒険者で討伐隊を組み、大きければ王都からの大規模討伐隊が編成される予定だったのだが、和尚は一人で壊滅させていた。
ちなみにキングが居る群れは最低でも中規模だ、冒険者の討伐隊を組む場合は最低でも数十人規模である、偵察隊ならともかく、殲滅戦で少数精鋭で組むなどと言うのは愚の骨頂である、一人でも死んだら失敗と言う心構えで挑まなければならない。つまり、前回の偵察依頼に至っては群れの規模を読み違った上で死人を出した。大失敗も良い所である。
ちなみに集団運用は3割死亡で全滅、5割で壊滅、10割は殲滅もしくは消滅である。
「しかし、和尚さんは存在ばれたら大騒ぎに成るでしょうな?」
「本部に報告して大騒ぎって事にしないでくれよ?」
神父に釘を刺して置く、この神父とは前回の大発生から、10年以上の付き合いだから信用はしているが、念のためだ。
「私は既に中央の権力争いとは無関係ですから、今更そんな物に興味はありませんよ。」
「後はこっちの報告書の修正で、和尚の奴を目立たないように直して置かんとな。」
既に、こちらのギルド職員には緊急通達で、あいつらの事は外部には黙って居る様にと釘はさしてある。職権乱用と言われそうだが、この土地の責任者は自分なので何とでもなる。
愛娘のエリスが折角上機嫌で新婚生活しているのに、権力争いに巻き込まれて幸せな新婚生活に水を差すようなことは、親として許せない。
次のはドラゴンゾンビ、正確にはドラゴンの死体と骨蛭だ、骨蛭は時々見つかる生き物だ、一般の冒険者では腐った肉の鎧で守られた本体を処理するために、凄腕の魔法使いが大火力で焼き払うか、魔法が無ければ、大量の油に火をつけて燃やし尽す。もしくは、まとめて水に沈めるか位しか無いのだ(もっともあの規模の腐った肉は水質汚染の元なので推奨されないが)。一般の冒険者だったら逃げ帰った上で発生をギルドに報告して、ギルド側で緊急依頼を指名で専門家を呼ばないと対処出来ない。
ドラゴンに至っては、子供向けのおとぎ話や、神話だの噂話でしか存在しなかった、骨だけの死体だろうと貴重な研究材料だ、どこかの口の堅い研究者に送るか呼んだ方が良い。
候補者を頭の中でリストアップしていると、あの研究者の顔が浮かんだ、現状あれが一番か、人格的には変わり者だが、このギルドから呼ぶ分には丁度良いだろう。あの研究者の研究予算は一部とはいえ、こちらが出しているのだし。
「だが、先ずはゴブリンの生息域確認が必要か・・・」
頭が痛い。
「私の出番はなさそうですな。」
そんな事を言いながら神父が退出しようとする。
「出番ならある。」
一つ思いついたので伝えておこう。
「おや?」
何かあったか?と言う様子で歩を止めた。
「落ち着いてからで良いから、あの三人の結婚式を頼む。」
考えてみたら諸々の手続きがすっ飛ばされている。親として祝福してやらなければいけないだろう。
「はいはい、喜んで上げさせていただきますよ。」
神父が笑った。
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