第27話 異世界での坊主のお仕事
六波羅蜜と言う言葉がある、これはいわゆる坊主の心得だ、
布施
見返りを求めない施しの事。貪欲の気持ちを収めて募金やその他を与えること。
持戒
自らを戒める事
忍辱
如何なる辱めを受けても、堪え忍ぶこと。
精進
不断の努力を続けること。
禅定
第三者の立場で自分自身を見つめること。
智慧
布施・持戒・忍辱・精進・禅定の修行を実践しどちらにもかたよらない中道を歩むこと。
坊主が修行する時にお題目として掲げられる、全てを実行すれば悟りを開けると言われる。
まあこれは今回関係が無い、真坂こっち来てから修行しろと言うわけではないだろう。因果応報、悪いことをすると悪いことが返ってくる。良い事をすれば良い事が返ってくるのだが、これでは悪くなってしまう方に受けられる事が多いが良い意味でもある。今回は規模が大きい、因縁果報いんねんかほうの方だろう、直接的な原因である「因」が、条件である「縁」と結びついて、結果「果」を導き、影響「報」になると。一人助けて、助かった人が後で誰かを助ければ最終的に世界中が助かるという、善意の拡大解釈だ、最終的に一人がてこの原理処か核分裂なドミノ倒しの理屈で周囲を助けていけば世界が救われると、そう言う理屈だ。
正直、性善説にも程が有るし、同じように悪い方に流れれば悪い方に流れるのだが、今回は自分自身が最初の駒として良い方向に流すことによって人類の救済をしろと言われた訳だ、つまり何をするのかと言うと、多少の善意をもって周囲を助けていけば良いと、ただそれだけである、それだけで救われるなら苦労は無いが、今は手近なそれから始めるだけだ。
呼吸が止まって息が苦しくなった、思わず目を開けると目の間に灯の顔があった、混乱するが鼻をつまんで口で口をふさがれていた、灯の額に手を当てて後ろに下がらせて呼吸を確保する。
「朝からなんだ・・」
ぜいぜいと肩で息をする。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
朝の挨拶が来たので普通に返す
「所で何で呼吸止められてたんだ?」
「和尚さんが座禅組んで寝たまま起きなかったので珍しい方向で起こしてみようと。」
「出来ればもうちょっと普通に起こしてくれ・・・、酸欠で起きるのは結構苦しい・・」
「キスして起こすは昨日やってくれたじゃないですか。」
「鼻までふさいでないだろう・・・」
「エリスちゃんキスだけで起こそうとしたけど無反応だったんで。」
「はいはい・・」
もういいやと言う感じに返事をする。
「それじゃあ改めてもう一回お願いします。」
灯とエリスが目を閉じて気持ち口を突き出す。
「はいよ。」
素直に立ち上がって二人とも口で出迎える。軽く唇を重ねて離れる。
「これでいい?」
「はい。これを朝の日課と言う事にしていいですよね?」
灯がそんな事を言う、エリスも笑っている、多分結託済みだ。
「これぐらいなら問題ないな、どうぞ」
「わーい」
灯がわざとらしく喜んで見せる、エリスも笑っているのでまあいいや。
「起こされたってことはもう結構遅いのか?」
痺れてしまった足を今更解しながら確認する、外は既に明るい。
「私たちはご飯の準備済んだんで起こしに来たんです。」
「そんなわけでご飯できてます、食べられます?」
エリスが喋って灯が繋げる、大分息が合ってるな。
「食べられる、じゃあ行く。」
「おはようございます」
挨拶して食卓に座る。
「おはよう、あら?」
「おはよう」
朝から結構な朝食が並んでいた、昨日のスープとパン、トマト、この流れで生野菜は嬉しい。
ギルマスも先に食べていたので、こちの三人がそろって頂きますと朝食を始める。
「食べながらで良いから聞いといてくれ。」
一足先に食べ終えたギルマスが口を開いた。
「昨日持ち込んだハイエナだが、本来あの辺には居るものじゃない、偶然居たって事も有るかも知れんが、初心者御用達のクエスト地帯であのサイズの大型獣がうろついてるのは不自然だ、何か生息図がずれるようなことがあったかもしれないから、気を付けてくれ。」
「はい」
口に物が入っていたので返事したのはエリスだけだった、俺と灯は頷くだけで済ませる。
「俺は先に出るから、ギルドで何かあったら呼んでくれ。」
「はい。」
「うちのエリスを頼んだぞ。」
これは俺宛てだ、口の中の物を飲み込んで。
「わかってます。」
「わかったって。」
「?」
ギルマスが違和感を感じたのか首をかしげる。
「今翻訳要らなかったんじゃないか?」
「覚えました。」
「さらっと言うな・・・」
ギルマスは軽く頭を抱えるジェースチャーをして。軽く溜息を付いて気を取り直したようだ。
「まあ良い、じゃあ行ってくる。」
「「「「いってらっしゃい」」」」
4人被った、ギルマスのいなくなった食卓が謎の笑いに包まれる。
「こっちの灯ちゃんも今朝からなんだか話せるようだったけど、和尚さんも話せるようになったのね?」
義母上が笑みを浮かべながら確認する。
「これも御仏の加護です。」
正確には文殊菩薩の加護だが、まとめて仏で問題無い。
軽く合掌して頭を下げて見せる。
「毎回翻訳じゃエリスちゃん大変そうだったけどこれで安心ね。」
「苦労を掛けました。いままでありがとうエリス。」
エリスがちょっと複雑な顔をしている。
「用済みとかそういう意味じゃ無いから安心していいぞ?」
エリスがわたわたして固まった。あっていたらしい。涙目になっているように見える、横に座っていたエリスを抱き寄せる。
義母上があらあらと言う様子で生暖かい瞳で見ている、灯も同様だ。
「仕事がすこし減っただけだ、これからも頼るから頼む。」
エリスはしばらくグスグスしていた。
食事はすっかり冷めたが泣き止んだので問題は無い。
食事を終えてかたずけを手伝い手が空いた、エリスは横に張り付いている。これからは作戦会議の時間だが。
「そもそも同郷ってだけで私役割なんてないんですけど。」
こっちは危機感が無い、恐らく灯はこっちの性格と元の状態を理解しているので、変な裏切りとかしない限り妻の座が安泰なのだと判っている、元の世界の感覚でいる限りそれは合っているのでそれほど問題は無いが。
「役割欲しい?」
そんな事を言うなら仕事を振ろうか。
「何かあります?」
「空いた時間で良いから、写経か木から手彫りで仏像掘ってくれればいいんだけど。」
「般若心経ですか?」
「うん、布教するときに使う。」
「宗教侵略するんですね?」
「最終的にね。他にも利点有るから手書きで量産することになる。」
「あれ結構時間かかりますよね・・」
「書いたことあるの?」
「学校の書道の時間で般若心経の写経はありましたから、書いたことはあるし読めないことも無いです。」
「それは何よりだ。」
「流石にそらでは読めませんし、手本無いと書けませんが。」
「それは後で手本書いておくさ、後は紙とインクの値段次第」
「墨と筆と和紙は無さそうですね」
「洋紙とインクと羽ペン、木炭ならあるようだからそっちでも良いだろう。」
「バックの中に筆記用具とノートならあるんで一先ずこっちで書きます?」
「そだね、最悪和紙に硯、膠で墨、毛皮から筆まで作る羽目になりかねないけど。」
「虚弱な下剋上のような知識チートすることになりますね。」
「本の普及率勝負だな、活版印刷じゃありがたみは無いが普及させるって意味では強い。」
「この世界でグーテンベルグさん居ることを願いますか。」
「そもそも何であんな体勢で寝てたんです?」
「坊主のお仕事、読経と瞑想。」
「悟りは開けました?」
「いくら賢者タイムでもこんな煩悩まみれの似非坊主が開けるはずがなかろう。」
「残念ですね。」
「収穫はあったがな。」
「喋れるようになったことですか?」
「そ、改めてチュートリアルされた。」
「何をしろと?」
「こっちの人類が魔物に負けてるから加勢しろと。」
「勇者ですか?」
「救世主って書いてセイヴァーって読む方の宣教師。」
「仏陀さんですか・・」
「だから救世ついでに布教しろと。」
「現地の反発は大丈夫ですか?」
「現地の神様とは話はついてるとさ、いざとなったら託宣使う用意もあるらしい。」
「それなら安心ですね。方法としては?」
「坊主として人間として善意をもって助けて回れとさ。因果が巡ってそのうちどうにかなると。」
「好きに歩いてていいってことですね?」
「そだね。」
「チートは何かもらえました?」
「文殊菩薩の加護、知恵と知識の仏様。これが言語チートだな。」
「それで喋れるようになったんですね。」
「それと虚空菩薩の加護、いわゆる芸術を司る仏様、名前つながりで虚空収納出来るとさ。」
「やたら便利ですね・・・」
「代わりに写経と木彫りの仏掘ることになった。」
「それでさっきのですか・・」
「写経した枚数分だけ加護が強くなるからたっぷり書いて教会に押し付けるなりお焚き上げするなりしろと。」
「それでエリスちゃん九字切り出来なかったんですね。」
「多分そういうことだな。結構書いてたのか?」
「授業と宿題で10枚ぐらいですかね。」
「なるほど、結構な枚数だ。」
「こういう役に立ち方があるとは思いませんでした。」
「ふつう役に立つことないからな。ただの雑学扱いだ。」
「あとは何かありました?」
「鬼神母神の加護、いわゆる母神、子供の守護神だな。」
「坊主に産めよ増やせよって仏様も酷いセクハラを・・・」
「これは俺じゃなくエリスと灯についてる、男にはあんまり縁のない神様だから。」
「私らが産む前提ですか・・」
「嫌?」
「今更なので私もエリスちゃんの分もちゃんと責任取ってくださいね・・」
「それは俺にとっても今更だからちゃんと責任取るさ・・」
横に張り付いているエリスが呼んだ?と顔を上げる、取り合えず頭を撫でておく。
お前がママになるんだよなんて言う酷いネタが浮かんだが、口約束だが結婚した上でヤルことヤッテいるので今更である。
「孫は早くほしいから頑張ってね?」
聞き耳を立てていた義母上が混ざってきた。オープンすぎる。
「がんばってはいます・・・」
今はそれしか言えない。
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