第96話 エリザの出産と 乱入したもの
カンカンカンカン
半鐘の音が鳴り響いた。
3人目。義母上の出産、義弟だか義妹の誕生を待っていた俺達、灯、エリスと顔を見合わせた。
「何か有ったのか!?」
出産部屋から義父上が飛び出して来る。
「ゴブリンだー!群れが出たぞー!戦えるのは集まれー!」
外から声が響いている。
「私達で行きますから。お義父さんはここに居てください!」
灯が強く叫ぶ。
「だが俺が出ないと責任者が居ない。大丈夫だ、子供は後でもちゃんと抱ける。」
「ああ、もう!身代わり一個じゃ足りません!グロス単位で持って来て下さい!」
義父上はどうやら責任感が強いらしい。そして、無意識に死亡フラグを増やしている。灯が叫び声を上げた。
「どれぐらいかかります?」
エリスが産婆さんに確認する。
「大体ほぼ全開まで開いてるけど。未だ破水してないから。まだしばらくは。」
「開いてるんですね?すいません、割ります。」
強硬手段である、
「割るって?」
「多分、破水させれば出てきます。」
「え?」
「すいません、ちょっと痛みますけど、大丈夫ですか?信じてくれますか?」
「信じろと言うなら信じるが、何を?」
「無事・・生まれるなら・・・何でも・・・良いです・・・」
「では、すいません。切迫呼吸で、息を荒くしてください。」
義母上の確認は取れた、義父上と産婆さんの確認は取れて居ないが、説明する時間が惜しい。
義母上は指示に従って息を荒くする。
覗き込んで手を突っ込み、羊膜を摘まんで、そのまま一思いに鋏を入れる。
ジョキリ
「あぐっ。」
義母上が悲鳴を上げ、切り口から羊水が決壊したように流れ出す。人口破水だ。
「え?」
「ああああああ!」
破水をきっかけとして分娩が始まった様だ。義母上が叫び声を上げながら義父上の手を握りしめている。
「後お願いします。こっちは祈ります。」
「オン・シベイテイ・シベイテイ・ハンダラ・バシニ・ソワカ」
改めて白衣観音の真言から、白衣観音経を唱える。
「南無仏南無大慈悲救苦救難広大霊感 白衣観世音菩薩 摩訶薩 南無法 南無僧 南無救苦救難観世音菩薩 怛只(ロ多)(ロ奄) 伽羅伐(ロ多) 伽羅伐(ロ多) 伽訶伐(ロ多) 羅伽伐(ロ多) 羅伽伐(ロ多) 娑婆訶 天羅神 地羅神 人離難 難離身 一切災殃化為塵 南無摩訶般若波羅蜜」
「おぎゃああ。」
無事生まれた。男の子だった。産婆さんが何時もの様に手際よく後処理を始める。後は任せて置いて大丈夫だろう。
義父上が、子供を抱きたいのと行かなければならないと言う葛藤で揺れている。
「先に行ってます、義父上はコレ持ってて、落ち着いたらエリスと一緒にギルドに来てください。」
がさりと身代わり地蔵が大量に詰まった袋を渡す、模擬戦の前に散々掘って居た仏像、地蔵菩薩である、それぞれ持たせる人の髪の毛を入れて呪いに対応できる物を別口で持って居る。藁人形で使う身代わり、形代の技術である。
「ぬーさん、此処お願いします。」
「にゃあ」
灯の呼びかけに、ぬーさんが返事をする、灯とエリスが光とイリスを出産部屋に運んで来た。
「エリスちゃんはお義父さんの護衛お願いします。先に私達だけで行ってきます。」
「はい。」
「和尚さん、決戦装備でお願いします。」
虚空の蔵から戦斧と長巻を取り出し、灯とエリスにそれぞれ渡す。
「これでフラグ回収です。」
家から出ると、駆け回って居る職員と目が合った。
「出られますか?」
「今から行きます、お義母さまが出産中です、ギルマスも落ち着いたら出ます。」
「わかりました、ギルドで人員配備決めてます、先ずはそっちでお願いします。」
「はい、それじゃあ、行って来ます。」
「ご武運を。」
「はい。」
そう言葉を交わして、ギルドに向かって駆け出した。
「だが、家の守り、最終的にぬーさんだけで大丈夫か?残っててくれても。」
「大丈夫です、ぬーさんのお母さんも近くに来てます、ぬーさんの縄張りはあのお母さんの防衛圏内です。」
暗闇の中に巨大な4足獣の目が光った気がする。足音も立てずに暗闇の中に居た。
「ほら。来てます。」
「成程…。」
「暗闇では冒険者より強いな・・」
「昼間だろうと束に成っても敵いません。」
「これなら安心だ。」
「後は、お義父さんの死亡フラグをへし折れればミッションコンプリートです。」
走りながら話すが、灯の息が乱れる様子は無い。
「しかし、本気でタイミング悪かったな・・・」
其の一言がトリガーだった・・・灯の纏う空気に怒気が含まれ始めた。
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