第106話 ヒゲクマ視点その3

「しかしコレ。何時まで保つんだ?」

 和尚達が張って行った結界を見ながら思わず呟いた。

「聞いてないんですか?」

「もしかしたら消えるかもとは言って居たが、直ぐに消えるとは言って無かったからな。」

 普通結界魔法なんざ一瞬攻撃止めて終わりだ、長時間持たせられるだの、術者が遠くに行っても残って居るなど意味が解らない。

「何時消えるかわからないって言うのは怖いですけど、そもそもこの結界、普通の結界と違いますよね?」

「そもそも詠唱する呪文が違う、普通神官が神に祈りを捧げて力を貸していただけませんかじゃないのか?」

 大体そういう意味合いの呪文だったと思う。自分自身魔法使いでも神官でも無く、そう言った呪文を覚えようとした事が無いのでうろ覚えだが、まるっきり違うのは確かだ。

「聞いた話では、一文字ごとに神の名前をこじ付けて言葉の意味自体を変えているそうですよ?」

「まったく分からん。」

「あの呪文、一語毎に一柱の神を表して、9つの神の力を呼ぶそうですよ?」

「和尚の神は多すぎるんじゃないのか?」

「同じ発音で同じ呪文でも、宗派によって別の神を思い浮かべるだけで対応されるそうです。」

「神なんて、この世界では破壊と再生を司る大いなる大地の神しか居ないだろうが・・・」

「あの人の故郷では800万の神が居るそうですよ?」

「居過ぎだろう・・・・」

「ついでに、効果がオカシイですよね。ゴブリンが手を触れると煙を上げて焼け爛れて手を引っ込めます・・・」

「浄化結界?初耳だ、そんな物も有るのか・・・・」

 自分が触れても何も起こらない、ゴブリン特攻でも付いて居るのだろうか?

「悪しきものを浄化するそうです、あの二人も使えるのなら、一人は和尚と同郷だそうですが、エリス嬢も使えると言うのなら、もしかすると、私達でも使える可能性も?」

「機会があったらだな・・・」

 そもそも先ずは之を生き残るのが最優先だ。


 そろそろ俺の意識も眠気で辛くなってきた、夜明かし組に休憩は指示したし、少しだけ眠ろう。

 そうして、近くに居たPTメンバーに休憩する事を伝え、物陰で目を閉じた。


「「「「おおおおおお」」」」

「何があった?」

 不意に上がった歓声に目を覚まし、起き上がった。

 戦場を見ると、遠くの群、中央部に居たゴブリンキングに槍が突き刺さって居た。

 ゴブリンキングがそのまま倒れ込む。

 一部始終を見ていたらしい一人を捕まえて状況を聞く。

「光りながら飛んで来た槍がゴブリンキングに刺さりました、和尚がやってくれましたか?」

「ほぼ間違いなく彼奴の仕事だな、そんな事が出来るのは、彼奴位な物だ・・」

 投げた槍が光って居いたと言うのは初めて聞くパターンだが、浄化魔法唱えているときは良く燐光を放っているし、呪文を唱えながら武器を振るう時には武器が光って居る、今更だ。

「之で多少はゴブリンの動きが悪くなったら、近接組出して有る程度削ろう。」

 防壁の上からの矢と火薬玉、熱湯、投石だけで削り切るには明らかに数が足りない、接近戦は危険だが、戦況が安定している今なら壁の上からの援護も狙える、目潰し玉もこれから役に立つだろう。


「近接組!起きろ!出番だ!」

「やっと出番か、待ちくたびれたぜ。」

 サイクが待ちくたびれた様子でのっそりと起きて来た。

「しっかり寝たな、働いてもらうぞ?」

「おう、新入りの和尚に負けてられねえ、キングは無理でも雑魚散らし位はやってやる。」

 サイクの鼻息が荒い、やる気が有るのは良い事だが、張り切り過ぎて突出されても困る、先は長いので怪我人が出ては困るのだ。

 そして多分、和尚の嫁さん達の方が活躍していると言う事は黙って置こう、和尚と同系統の規格外だとは思わなかった。張り合われても困る。

「先は長いんだ、怪我人だけは極力出さない様にな、今のゴブリンの武器は毒付きだ、後で浄化と治療は出来るが、宛にし過ぎると死人が出る。」

「分かってる、行ってくるぜ。」


「近接組!行くぞ!」

「「「応!!」」」

 サイク達近接組が門を開けてゴブリンの群れを少しずつ削って行く。流石にあの3人の様なでたらめな活躍では無いが、身の程を知って堅実に戦うのが生き残るコツだ、和尚に会う前は頭に血が上って無暗に突出していたが、手から出た紐を引っこ抜かれてからは、そんな癇癪は鳴りを潜めて、堅実な戦い方をするようになった、和尚様様である。

「弓隊!援護頼むぞ!」

「「「応!」」」


「さあて、この調子でどれだけ削れるかだな・・・」

「前回の糞領主の時よりは格段に楽ですね・・・」

 其れも有るが、自分たちが強くなった分も有ると思いたい。

ほぼギルマスが強行した防壁工事と、去年ふらっと現れた和尚のおかげで有るのだが・・・

「あれは問題外だろう、今のギルマスが領主として居る限りは安泰だが・・・」

「この防衛線抜かれたら多分、あの類の糞領主が返り咲きます。」

 そんな言葉が出て、そんな未来を思わず想像してげんなりする。

「その時に俺たちは居ないだろうがな。」

 その場合は、俺たちが敗走するかゴブリンに狩られた後に成る。何も残る物はない。

「今のギルマスには世話に成ってるからな、防衛戦を抜かれない様に出来る事はするさ。」

「現領主の続投希望と言う事で、張り切って行きましょう。」

「そうだな。」

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