第184話 怪しい生き物達と、甘党
ぎゃあぎゃあと言う、鳥なのか猿なのか何とも言えない鳴き声が響く。
気温と湿度が高く、じっとして居ても汗ばむような気候。
頭上は背の高い木々が日差しを遮り、足元は木漏れ日を求めて下草が生え、獣道も見えない何とも言えない遭難状態であるが・・・
魔の森の奥、行ける所まで言って見ようと長丁場用の装備をがっちり整え、自分と灯、エリスとアカデさんと言う何時ものメンバーに追加で宛も無く何日も歩き続けた結果、いよいよ気候区分が変わり始めた、春先の温帯気候から、現在は亜熱帯雨林の様相を呈している。
「流石に此処迄来ると気温も植生も違うな?」
色々と開き直って、適当に料理を作り休憩しながら呟く。
「新婚旅行的なノリで遭難してどうすんですか・・・」
灯がジト目でツッコミを入れて来る。
子供が乳離れして、世話もクリスと義母上、ぬーさんに預けっぱなしで問題無いと言う事で偶には遠出して見ようと、宛も無く放浪して居るのだ。
何時もの多数決で行先を決めようとした所、奥地を目指すと、各地を回るで、奥地に行くのならギルドの研究補助金で特殊依頼にしても良いと言う、義父上の提案により、現金なエリスは其方に流れ、研究材料を欲して居たアカデさんが当然の様に其方に、と言う外圧により、魔の森長期滞在と言う、このメンバー以外では自殺行為としか言えない謎旅行が出来上がったのである。
「まあ、最終的にこの山脈沿いに移動すれば何時でも帰れますから」
エリスが苦笑交じりに現状の帰還方法を確認する。
何時もの拠点、あの開拓村は山脈の間、ドン詰まりに位置する為、山の麓沿いにあの方向にひたすら歩けば到着するように成って居る。
「移動時間は気にしない方向ですけどね・・・」
既に魔の森滞在期間が半月ほどに成って居る。
途中から道が怪しく成って居る為、恐らく距離的には其れほど離れて居ない、獣道をたどり、藪払いをしながら移動して来たので、韋駄天の真言で加速しながら走れば恐らく2・3日程度だと思う、その程度の距離でも気候が違うと言う事が肌で感じられるほどだが、恐らく山脈沿いに吹くフェーン現象の吹き下ろしで気温が上がっている類だろうか? 地熱も有るだろうか?
「でも研究者が足を踏み入れた事が無い、実質前人未到地帯です、調べる事が山積みで楽しいです」
現状、アカデさんが一番活き活きして居る、初期段階ではかなりビクビクして居たが、気候区分が変わった辺りでいよいよ好奇心が全面に出て来たらしい。
当然、動物植物に関わらず、何か見つける度に足を止め、観察の後に仕留め、採取して虚空の蔵に収納と言うルーチンワークの為、移動ペースはかなり遅くなっている。
「其れは何よりです」
「でも、こうして見るとファンタジー感一切無いですね・・・」
灯がぼやく。
「ある意味順当な進化してるまっとうな生き物ばっかりだしな・・・・」
ゴブリンと変な跳び方をするドラゴン以外は言うほど違和感が無い生き物である。
因みに、見つけた生き物は、擬態全力な陸生の蛸や、藻屑背負い的な巨大蜘蛛、泥と干し草、体毛を固めて鎧にする猿、何時もの角ウサギ、小型の狼、さらに大型の狼、他の生き物の皮の中に居る陸生蛸、陸生スライム(陸生の群蛭)、川に居た鰐、跳ねて移動する巨大蝸牛、メーターサイズの肉食性巨大百足等々、草食で握りこぶし大の巨大ダンゴムシ、前回仕留めたブラッディベアを狩って捕食して居る握りこぶし大の巨大蟻の群れと言う何とも言えない人外魔境ぶりを発揮して居る。
何処と無くフューチャーなワイルド世界も混ざっている気もする。
此処迄来ると、あの時無事だったのが不思議な段階だ・・・
体高が人の背丈ほどの黒い虎が現れたが、殺気も何もない様子で近づいて来て、匂いを嗅ぐと、ふんと、興味なさげに去って行った、何だったのだろう?
「あ・・・」
視界に幹に付いて居る、赤黒いピンク色の木の実を見つけた、見覚えのある形状だ。
そう言えば此方の世界では食べた事が無い。
「何かありました?・・・・あ」
灯が俺の視界を追いかけて、同じ木の実を見つけた所で固まった。
「この世界にチョコレートかカカオ、ココアって有った?」
二人に聞いて見る。
「何です?それ?」
エリスに単語の心当たりは無い様だ。
「茶色い、苦い液体、砂糖入れると甘くなる」
灯が補足説明を入れる。
「砂糖入れるのなら、何でも甘くなるのでは?」
アカデさんも同じ反応だ。
「あの実は?」
カカオらしき木の実を指差して見る。
「いや、初めて見ますけど、食べられるんですか?」
エリスが返事をして首を傾げる、アカデさんも心当たりは無い様だ。
此方に来てからの飲み物は各種果実水と紅茶、各種の乳、酒の類だけだ、ココアやホットチョコレートは見た事が無い、当然の様に固形のチョコも見た事が無い。
「「となると・・・」」
灯と目を合わせて、頷く。
「「乱獲開始」」
ここぞとばかりに被った。
2人を置き去りにして、灯と二人で精一杯乱獲した、色の違う物は品種が違う疑いも有るのでそれぞれの枝も採取、苗木で台木用の若木も確保、種から育てたのでは最初の実りが遅いのだ、若木に古い枝を接木する事が出来れば、極論0歳児を20歳の成体と植物の生育ホルモン的に偽れるのだ。
桃栗三年柿八年は伊達では無いと言うか、実際に種から育てると体感でコレの倍かかる、と言うか、何時植えたか忘れる。実の生る記念樹とか先ず忘れる。
ある意味良い区切りに成ったと言うか、直ぐにでも帰って料理したくなったので韋駄天を使って走って帰った、揃って加護持ちが超回復する中、一人で筋肉痛で死んだのは順当な結果である。
捕捉
最初の出会い時点で和尚が保存食としてチョコレート持って居たり、色付き砂糖水でも問題無かった事からも判る通り、この二人は甘党です。
バレンタインデーネタをやろうとして時期が遅れた奴です。
追伸
順番が変わってます、和尚の過去編と灯の過去編が0話と0.5話に追加されてます、読み遅れた人はどうぞ。
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