第185話 カカオ狂騒

 先ずは前回乱獲して来たカカオ豆らしい物を割る、白い綿状の果肉と、その繊維の中に種が出て来る。

 一先ず綿の部分を少し口に入れて見る、ふわふわと甘い。

 生カカオの綿は甘いと聞いて居たが、実際に食べるのは初めてなのでちょっと感動だったりする。

 種の部分を洗って日干しにする。


 乾燥したら焙煎、乾煎りしてチョコレートの香ばしい匂いがして来たら、皮を剥いて、中身をすり鉢で磨り潰す、この時に村共有の水車石臼を使うには量がアレだし、油っぽいので後始末が辛いのだ。

 クリスさん、これは一寸お手伝いお願いします。


 カカオの種には植物としては融点高めの油が含まれる、これを絞ればカカオバターが取れるのだが、今回は其のまま纏めて磨り潰して、焦げないように湯煎にかけて油を溶かす、前工程で磨り潰しが甘いと舌触りがざらざらに成るのだが、今回は試作品なので其処は妥協、そもそも実際に作れるかの実験なのだ。

 溶けている状態のこれに砂糖を入れて味を調える。

 しっかし、この類の洋菓子作りをすると、砂糖の量で正気か?と言うほど使うので混乱する上、少しでも日和って減らすと味がしなくなるのが困り物ですよね。

 昔初見でクッキーを作った時にバターと砂糖の量に日和って材料を減量した結果、味のしない何とも言えない物が出来上がったのは皆が通る道だと思う。

 序に少量取り分け、温めた牛乳に投入してよく混ぜる、チョコレートココアミルクだ、ちょっとつまみ食い、どうやら物自体は間違って居なかったらしい、何とも言えない懐かしい味が口の中に広がる。

 懐かしい甘さに思わずにやける。


 ふう。

 落ち着いて一息ついて居ると、皆が集まっていた、良い匂いがするので釣られたらしい。

 味見して見ます?


 思った以上に評判だったので、結構減ってしまった。

 砂糖と一緒に生クリームを入れれば生チョコなのだけど、日持ちしなくなると言うか、生クリーム作るの大変だし、牛乳其のまま入れても固まらなくなるかもなので今回はカット。

 自前の余ってた頃なら入れてたかもしれないけど。

 素直に余計な物を混ぜずに、湯煎状態で全体が滑らかに成るまで良く混ぜて・・・・

 油を塗った型に流し込んで、食糧保管用の氷室に放り込んで明日までと。


 和尚さん筋肉痛で死んでるから、後で差入れしてあげましょうか。


 一仕事終わりと言う事で振り返ると、ココアの味見をしていた皆が酔ったみたいな赤い顔をしてぽやっとして居た、そう言えば、チョコレートって興奮剤で強性剤の一種で、昔は医薬品扱いでもありましたっけ?

 初めて食べるから耐性が無いとかだと思いますけど。

 ん? そう考えると高く売れそうな気も、何処と無くお金の匂いもしてきますね?


 無事固まってる、完成っと。

 味見もしてみる、うん、美味しい。

 磨り潰し方が甘くて舌触りざらつきますけど、初回でこれなら上出来ですね?

 味見してる皆さんの反応も上々ですし、之なら安心して次のお料理(じっけん)も出来ますね。


 山ほど確保して来た苗と枝は水に浸して置いて有る、どの辺に植えましょうか?


 一先ず日当たりの良い場所に植えて、寒くなる前に温室を整備すれば良いと、未だこっち初夏ですけど、建物だと考えると早目に注文しないと間に合いませんね?


 後日、ここぞとばかりに貯まった金貨に唸らせて、家を建ても良いと言った辺りにガラスの温室を建造した、色々前代未聞と言うか、初めて貴族っぽい盛大なお金の使い方をしたので結構な大騒ぎに成った、ガラスを奇麗に均一に平べったく加工する為に、村中のガラス工房を大々的に巻き込んで、化粧品需要が死んで値段が下がった鉛を買いあさり、溶けた鉛の上に溶けたガラスを流し込んで固めて作ると言う、現代式の平板ガラス工房が出来上がってしまった、時代がいくつか飛んで行った気もしますが、まあ良いですよね?

 ベルトコンベア式に常に回せればいいそうですけど、燃料代で酷い事に成りますし、禿山作るのは問題ですし、ああ、化石燃料が欲しい・・・・、魔法でパパっと行けません? 魔力変換にしても色々限度が有りますか、残念、其れじゃあ反射炉的に熱をこもらせて?

 庭に温室って貴族のアピールポイントでしたっけ?

 来客に季節外れのキュウリのサンドイッチ出すのが、近世ヨーロッパ一番のブルジョアアピールらしいとか良くネタに成ってましたけど、真坂自分でやらかす事に成るとは思いませんでした。


 カカオの苗木が根付き、接木が活着して、無事実が成り、収穫して、先程のレシピから自分成りにアレンジをしてあーだこうだした挙句、和尚さんに頼んで虚空の蔵のアカシックレコードからどこぞの老舗のレシピを調べてもらって、丸パクリした後で、自分なりに作り易い様に手抜・・・げふんげふん・・・・・アレンジして・・・・

 

 実験で作った物を周囲に散々味見させたところ評判に成ったので、行商人に高値で売りつけて見た所、貴族相手でも売れると大騒ぎで仕入れに来るように成って、流石に作るの飽きて来たのでクリスさん義母さん、任せます、寧ろ人雇います? 下手に増やすより出荷絞った方が楽だし儲かる? 流石、慣れてますね?

 何故か庭先の温室の周囲で不審者をぬーさんが撃退して半殺し状態で道端に転がす様に成ったり。

 甘いお菓子の話なのに殺伐としてますねえ・・・

 せめてまともに商人として交渉する事から始めて下さい、因みに交渉はエリスちゃん担当です、私や和尚さんより手強いので覚悟してくださいね。

 



 後日、献上品として王都に届けられた無色透明で均一な厚さの平板ガラスを前に、役人が頭を抱えたのは、また別の話で。


 更に後から届けられたチョコレートで大騒ぎに成るのも、この時点ではもう一寸後の話。

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