第7話 炭と歯磨き、あと追跡
朝一先に目が覚めた、目の前に顔があったので軽く口をつける。
残念ながら臭かった、お互いにであると思う、このパターンだと歯磨き粉は無いから、燃えカスの炭を一欠けら口に入れて指で磨く、昨日沸かしてボトルに移しておいた水で口をゆすぐ、歯ブラシ程ではないが多少はましである、そんなことをしていたら灯が起きてきた、歯磨きを勧めて炭を渡す、まったく、魔法のない世界はこれだから困る。そもそも此処何処だ・・・
朝食分の食料は昨日のあまりで間に合った、灯の様子も見る限り昨日よりはましな様子だ、とりあえず解体した狼の油を燃えカスの灰と混ぜて折り紙箱に詰める、これで固まれば石鹸になる、中性化の時に熱が出るがアルカリ分は弱いからそんなに熱は出ないはず。説明と作業を終えて顔をあげると灯が感心した様子で見ていた。
「面白いか?」
「下手な授業よりは。」
「そりゃどうも。」
「そういう知識ってどこから仕入れるんです?」
「サバイバル知識本とインターネット、後はラノベと漫画とテレビだ、ついでに親父の英才教育。」
「学校の授業は・・」
「この石鹸の化学式はC17H31COOHで・・・」
そんな事を返したら目つきが死んだ。脂肪酸エステルとアルカリ分の中和反応は言葉でいう分には楽だが化学反応式にすると一気に面倒くさくなる。
「こう言う風に無関係ではないさ、授業ではやらんがな。」
けけけと笑う。
「俺のサバイバル知識も役に立たせるのなんざ今回が初だ、出番の無さではどっこいさ、完全に無駄って訳じゃない、まあ雑学なんざ無駄の塊だ。好きなように仕入れるが良い。」
そう言って笑って見せた。そもそも帰れるのかすら不明であるが、其処は飲み込んだ。
「そのうち役に立つだろうさ、好きに学べ。」
そう言って頭を撫でてみる、深刻そうな顔が少し和らいだような気がした。
「そういや調子はどんなもん?」
「昨日よりはだいぶ楽です、ちょっと痛いですけど。」
睨まれた、そっちか、まああれはしょうがない。
「狩りに行きたいんだが、どうする?付いてくる?」
昨日のあれを考えると怖いのでついてきてほしい。
「んで、これが昨日の片割れの痕跡だな。」
足跡と血の跡を確認する、昨日のだがどこまで追いかけられるか勝負である、傷としては浅かったけど多少は切れていたようだ、足跡だけ追跡するよりは楽に行けそうだ。
「しまった、やられたか?」
血の跡と足跡が川に消えていた、いや、真っ直ぐ対岸の浅瀬の泥に残っている、泥まみれの足跡が新たに続いている。
「本当に下手だな。」
若いのか余裕がないのか雑である、
「大丈夫?」
「だい・・・じょう・・ぶです・・」
後ろについてきていた灯を確認する、ばてているようだ。
「んじゃ休憩だな、はい。」
水のボトルを渡す、足が重そうだ。
「靴脱いで足出してみ。」
少し高くなっている地面に座らせて足を揉んでみる、ぷにぷにだ、と言うか、筋肉のベースが無いから表面の皮下脂肪で埋まって奥まで指突っ込まないと筋肉に届かないわけだ、だからと言って無理矢理筋肉にアプローチすると皮下脂肪の毛細血管切れて内出血するので、比較的脂肪の薄い足の裏やくるぶしメインにツボ押しとむくみ解消に下から上に流し込むのだが、足回りには生理痛のツボも有るから丁度良いか、と言うことで。
「結構疲れてるな?」
そう言って痛そうなツボを押し込んだ。
「ぎゃあ」
灯が叫び声をあげて仰け反った。
「まあ、こんなもんか」
固まっていた足裏のツボと筋肉をほぐして満足げに汗をぬぐう動作をする。
「ひどいです・・・」
さっきよりぐったりした様子の灯が息も絶え絶えに文句を言ってくる。
「あと10分も休めば足軽くなるはずだからそのまま寝とけ」
「せめてもうちょっと手心を・・・」
「そっちは後でやさしくしてやるから」
なんだか赤くなったような気もする、文句が止まったので問題無いだろう。
無事追跡も成功、巣穴に隠れていた狼を仕留めることができた、可哀想だとも言われたが、明日のご飯無しで良いか?と聞くとあっさり引いた、人間そんなものである、礼節を知るのは衣食足りてからで良いのだ。
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