第114話 其れなりの絶望感 クマ視点

「さて、未だ余裕と言いたいが、そろそろ遠距離武器が尽きるな、其処の石でも落とすか?」

「投げられませんしね。」

 ギルド倉庫に数万本単位で備蓄して有った弓矢が目に見えて減って来ている。

 スリング組が使う火薬玉と目潰し玉、手ごろな石の山もすでに在庫半分である。

 群れの波も既に4つ目、好い加減打ち止めであってほしいが、未だ下が埋まって居る上、既に死体が積み上がって4mの壁の内、高い所では3m程が既に埋まって居る、近接の長柄、槍組のだけでなく、剣の攻撃が壁の上から届くが。下手すると掴まれて引きずり落される。落とされた後の事は言うまでも無い。

 当然、ゴブリンが手を伸ばして、壁に手をかければ直ぐに壁の上に登れる状態である。

 休憩などして居る状態ではない。

「助けてくれ!」

 そんな事をしている間に掴まれたらしい。

 近くの冒険者に助けを求めている。咄嗟に手を握って止めたようだが、しがみ付いて居るゴブリンが見る見るうちに増えて行く。

「離せこの野郎!」

 咄嗟にゴブリンと冒険者の間に割り込み、先頭のしがみ付いて居るゴブリンを剣で突き刺し、蹴り飛ばして捕まれている冒険者を救助する。

「すいません、助かりました。」

 ゼイゼイと息を乱しながらお礼を言ってくるが、正直恩を着せるような状態でもないし、聞いて居る余裕も無い。

「礼は良いから、次来るぞ、怪我してないならとっとと立て。」

 手を掴んで立たせて、他の戦況を見極めて同じ様な状態の冒険者を救助して回った。


「本気でもう持たんぞ。」

 思わず弱音が出た、ゴブリンの攻勢は夜が明けても、もう直ぐ昼に成ると言うのに一向に弱まる気配がない。

「あれだけ仕込んでもこの状態ですか・・・」

 伝令係のギルド職員も、初めの頃の余裕が感じられない、こんな事も有ろうかと言う流れで、前回以上に準備をしていたが、純粋な数の暴力と言う物は恐ろしい。

「ああ、もし次の波が来たら和尚達、ガンダーラが張った防壁以外の防衛線が崩壊する。」

「そのガンダーラの皆さんは・・・」

「キングとクイーン狩りの仕事だ、大物狩りは奴らしか出来ん、先頭のキングを狩ると多少統率が崩れるが、あくまで多少だ、一番後ろに居るクイーン潰さんと止まらんのじゃないか?」

「最終的にあの人頼りですか。」

「まったく情けない限りだ。」

 現状此方から、キングとクイーンの存在は最初以外確認されて居ない、恐らく、奴らは仕事をきっかりこなして、大物がこちらに来る前に潰しているのだろう、新入り達がしっかりと仕事をこなして居ると言うのに、ベテラン冒険者である自分達がこの防衛線をを守り切ると言う仕事をこなさない訳には行かない。

 お互いにため息を吐いた。


「これが今ある分では最後の補給です、後は今作ってます。」

 補給の矢やら消耗品を運んで来たギルド職員が、そんな報告を補足してくる。

 武器屋の親父さんやらギルド職員、後は手の空いた村人総出で作って居るらしい、熟練の職人以外は誤差の範囲だが、その多少が生死を分けるのだ、一匹殺せるだけでは戦況に影響は無いが、積み上げればどうにかなる。

 今現在、その積み上げた小さい物の力に蹂躙されつつ有るのが自分達人間なので、皮肉が効いて居るが、負けてやる道理は無い。

「出し惜しみは無しだ!何が何でも持たせろ!」

「「「応!」」」

 返事は上がるが空元気だ、だが、返事があるだけマシだ。前回は返事する相手すらほぼ居なかった。


 不意に、戦場が光った。

「?!」

 特大の火薬玉でも投げ込んだかと身を低くするが、爆発音や衝撃は一切無い。

「一体なんだ?」

 ゴブリンも冒険者もその光に気を取られて一瞬動きを止めた。


 光が収まった後はそれほど変化はなかった。

 どうやら先ほどの光の出所は和尚が最初にキングに向けて投げていた槍らしく、槍周辺のゴブリンが倒れているのが、遠目に確認できた、和尚が何か仕込んでいたらしい。

 他の場所でも光った様に見えたが、そもそも何を仕込んでいたのかの説明はなかった。

「何だったんです?」

「恐らく和尚の仕込みだが、俺も知らん。」

 質問が飛んで来るが、俺も聞きたい。犯人が誰かしか分からない。

「ゴブリンが弱くなった?!」

「なんだそりゃ?!」

「矢が貫通するぞ?!」

 そんな謎の歓声が前線で上がり始めた。

 それに付随するように、ゴブリンの動きが変わってきている、後ろの方に居た群れが少しずつ後退を始めている様に見える。

 和尚がゴブリン寄せの薬品をもって行ったと言う話は聞いて居る、いよいよ囮として動き始めたのかもしれない。

「群れに終わりが見えたぞ!最後の踏ん張り処だ!」

 防衛線メンバーを鼓舞するために声を張り上げる。

 これがゴブリン共の罠だと言われたら、もう負けだが。追撃はほぼ無理だから釣られると言う事は無いだろう。

 今現在この壁に取り付いて居る物と、手の届く範囲だけでも狩り尽くさなければならない。

 未だ終わりでは無いのだ、後始末までとは言わない、この戦闘だけでもしっかり終わらせなくては。

 そして、恐らく孤軍奮闘している筈のガンダーラのメンバーを救援に向かわなければならない、彼奴らが強いのは分かって居る、だからと言ってほったらかしにする訳には行かない、この戦闘が一段落したら、元気な奴らを集めて追撃兼援護隊を組み立てなければ・・・

 俺の休みはいつだ・・・

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