第16話 村到着とギルド

「此処が村か」


 昼を過ぎたあたりで村に到着した。


 村全域が申し訳程度の木の柵でぐるっと囲ってある、同じく見張りが座っているだけの関所を通って村に入る、魔物対策が優先で人はそれほど警戒されてないらしい。エリスが冒険者証を見せて説明するとあっけなく入れた。


「小さい村では関所なんてこんなもんです、町になると壁や兵士も立派になるんですけどね。」


「んで、何処行くんだ?」


 俺たちから見るとただの田舎村である、自分としては宿屋と食料補充に情報収集だが、右も左もわからない以上、わかる人に付いて行くだけだ、この場合はエリスにお任せで、


「私はゴブリン討伐で依頼受けていたのでその報告です、あと和尚さんと灯さんには冒険者登録してもらいます、身分証明が欲しいので、料金は私が出します、ゴブリンの里で回収できましたし、大丈夫です。」


「そもそも言葉と文字どうする?」


「文字欠けない人や喋れない人もなれますから大丈夫です、代筆サービスもありますし、私が保護者登録してPT組んでることにすれば問題ありません。」


「間口は広いんだな。」


「死亡率高くて万年人手不足の業界ですから、猫の手も借りたいのですよ」


「にゃーん」


「にゃー」


 灯とそろってにゃんにゃん言ってみる、


「何やってるんです?」


「猫の手だから猫の真似」


「真顔でやらないでください」






「それで、ここが冒険者ギルドです。」


「割かしちっちゃいな。」


「開拓村の臨時ギルドですから、町とか王都ならもっと立派なんですけどね。




「どこもそんなもんだわな。




 簡易郵便局とかのノリかもしれない。


 改めて中に入るとざわざわとした雰囲気が静まり返った、俺と灯が新顔で変な服なので値踏みされているのだろう、無遠慮な視線がこっちを向いている、その中でエリスが一歩前に出て受付に話しかける。


「前回クエストを受注した暁の光です、依頼の報告と紹介したい方が居るのでお願いします、出来れば個室で、ギルドマスター呼んでくれると嬉しいです。」


 後ろで聞き耳を立てている野次馬を言外に指摘する。


「わかりました、奥の会議室開いているのでそっちでお待ちください」


「二人ともついてきてください」


 3人そろって奥の部屋に通された、灯は好機の視線に負けて小さくなっている、人生経験が足りんわな。


「では此処でお待ちください」


 受付の人がぺこりとお辞儀して部屋から居なくなる。


「すいません物々しくて。」


「タグがこれだけあればあそこで出したら何言われるかわからんだろ?しょうがないさ。」


 あの時に回収した冒険者証は10枚を超えていた、いちゃもんを付けられてもしょうがない。


「それもありますが、和尚さんと灯さんの事も有りますから」


「稀人か?迷い人か?」


「下手に隠すとボロが出るので、偉い人に話を通して誤魔化してもらいます」


「世渡り上手そうで何よりだ。」


「これでも勉強しているので。役に立てたらいいのですが。」


「何言っている?俺の嫁が役立たずのはずがないだろう?」


「エリスちゃんが居ないとこっちが路頭に迷うんです、自信持ってください」


 俺と灯がフォローに回る、少なくとも役立たずと思った事は無い。


 コンコン


 ドアがノックされた、俺たちの間に緊張が走り、一先ず居住まいを正す。


「どうぞ」


 返事を返すとなかなか大きい男が入ってきた、重心移動が独特だから多分膝を壊している、座ってこっちに話を促してくる。


「俺に用があるそうだが、何かあったか?」


「ゴブリンの巣の討伐クエストの報告と、PT暁の光死亡報告、それとこの二人の紹介です。」


「変なものが出たか?」


「暁の光は私を除いて全滅しました、これが証明です。」


 袋に入って居いた冒険者証を机にザラザラと出す。ギルドマスターの顔が暗くなる。


「そんなに例の巣は規模がデカかったか?」


「60匹は超えていました、ゴブリンキングとホブゴブリンの存在も確認されてます、クエスト受注時の報告では10匹ほどの通常種のみの小さな群れだから大丈夫との事でしたが、おかげでこの通りです」


「すまん、うちの確認不足だ。」


 ギルドマスターは机に出された冒険者証を見ると、深々と頭を下げた。


「改めて討伐隊を組織する、かたき討ちはさせてもらう」


「群れ自体は壊滅してるので、残党刈りでお願いします。」


「な?」


「これからが問題です・・・」


 エリスがこちらを向いて笑った気がした。どっちにしても今の所エリスを通してじゃないと話せないのだ、エリス次第なので任せることにした。


 強さ200%位の俺の紹介が延々と続いた・・・


「そんな訳で私は和尚さんと灯さんに助けられました」


 エリスが居たPTが壊滅したところを俺に助けられホブとキングを討伐して通常種を粗方討伐そこまで言って、満足したように言葉を切った。悪く言われてはいないが、その美化具合は大丈夫か?目が曇ってないか?


「あーと、稀人だったかその二人、こいつを助けてくれて感謝する」


 またギルマスが頭を下げる、


「いや、大丈夫だ、こっちも用事はあったからな」


 思わず返すが、通じるのか?


「確かにこっちの言葉ではないな」


 納得したようだ、やっぱり通じていないか。


「疑うわけじゃないが、仏だったか?異界の神の加護とキングをソロで討伐する実力、ちょっと盛りすぎな感はあるから実際見せてくれんか?」


 まあ、それも当然か、


「あれだけ言っても疑うんですか?でもどうやって?」


 エリスが憤慨したように文句を言う。


「裏側に訓練場が有るから手合わせを頼む、勝っても負けても問題は無い。もし勝てたら登録の手数料俺が出してやる。」


「安くありませんか?」


「わかったわかった3人分の飯もつける。」


「それなら良いです、頑張ってください。」


 エリスが良い笑顔で俺に振る、交渉担当と言うか本当は商人じゃないのか?


「前線担当俺だけだから戦うの俺だけだからな?」


「当然です、変ないちゃもんはつけられないようにしておきます。」




 裏に出ると確かにそれなりに開いた土地に成っていた、入り口に木剣や木刀、木の槍や棒がある、一先ず一本手に取って振り回してみる、軽いな、元の世界で振り回してた時はそれなりに重く感じてた物だが、材質なのかこっちの強化された分なのか、一通り持って振り回してみて棒が一番しっくりきた、技数が一番多くなるから対人戦ではこれだな。武器選びが終わるまでギルマスはそのまま待っていた。武器選びが終わったことを示すとギルマスは木剣を正眼に構える、軽く一礼してこっちも構えた、オーソドックスな中段の構えだ、短く持って機動力重視、様子を見るように木剣の一撃が来る、正眼から大上段、切っ先と棒の横を合わせて相手の剣の横を叩き、軌道をずらす、そしてたたいた時の衝撃を利用して棒を反転、石突き側を相手の顔の前に突き出して寸止めする。


「どうです?」


「見事なもんだ、もう一本良いか?」 


「いいですよ?」


 言葉は通じないが何となく無く雰囲気で通じているのだろう、あっけなく負けすぎると何回でもやり直すことになる。少し離れて仕切り直す、今度は攻めて来ない、正眼に構えて待つようだ、こちらは何の気なしにただ棒をまっすぐ伸ばす、違和感を感じたのかギルマスが下がる様に動くが、遅すぎる、ただ伸ばした棒が当たるまで伸びていた。


「いや、どんな手品だ?」


 何の事は無い、相手の視線に対して一直線にして構えると先の丸い部分しか見えなくなる、比較対象が無くなるので距離感が狂って反応が遅れるのだ。


「もう一回?」


「いや、もう良い、良いようにあしらわれるだけなのは分かった。」


 構え直して見せると手を振って構えを解いたのでこちらも構えを解く。握手にと手を出してきたので握り返す。


「と、見せかけて」


 握った手を引っ張ってきたので重心を下げて固定する、技をかけたつもりなのだろうが固定されてしまってバランスを崩す、つんのめった足を引っかけてつかんでいる手を支点にしてくるりと回す。


 ちゃんと最後引っ張って怪我しないようにを調整する。


「んで、どうします?」


「もうどうしようもないわな」


 お手上げという様子で両手を挙げた。今度は本当に終わりらしい。一礼して横を向く。


「こんなもんでいいか?」


 そう言ってエリスと灯の方を見て確認する、目を丸くして見ていたが、声をかけると駆け寄ってきた。


「そんなに強かったんですか?」


 灯が妙なことを言ってくる。


「エリスが言う分には強いらしいが、あの人って強かったのか?」


「あのギルマスは現場側の人だったから強い筈なんですけど」


「キングをソロ討伐するようなのと比べるな・・・」


 ギルマスが後ろに来ていた。


「ちゃんと約束守ってくださいね?」


 エリスが釘を刺す。


「ああ、不意打ちしてまで負けて今更じたばたしないさ。」




 会議室に戻って登録書類を記入することになった、


 エリスが代表で俺たちの名前を書いていく、こっちの文字書けないのでしょうがない


「あと、二人の登録終わったらPT組み直すのでお願いします。」


「PT名はどうする?前の暁の光は引き継がないのか?」


「もとはあの二人のPTだったので言うほど私かかわってないです。あの二人いないのに名乗るのは違うと思います。」


「わかったよ、、じゃあ何で登録するんだ?」


「和尚さん灯さん何か良い名前ありますか?」


「あれだけ言ってノープランか・・・ガンダーラにでもするか?」


「しゃーめんきん・・・」


「俺に任せると仏教系になるぞ?」


 むしろ古い方のドラマ版西遊記だ。


「現状リーダーは和尚さんなので大丈夫です。」


「むしろ仏教系じゃないと誰だかわからなくなるのでちょうどいいです。」


「じゃあガンダーラで。」




「これでお願いします」


 エリスが書き終えた書類をギルマスに提出する。


「このガンダーラってどういう意味だ?」


「和尚さんの故郷で神の国っていう意味だそうです」


「なるほど、それじゃあこれを頼む」


 針と契約書類らしきものが出てきた、お約束のあれか。


「血判?」


「痛そう・・」


 灯が顔をしかめる。


「血液中の魔力を使って契約するので我慢してください、こんな感じです。」


 エリスが自分の指に針を刺して先に手本を見せる。


 自分の番なので諦めて針を刺して血判を押す。


「私のはお願いします」


 灯は目を閉じて固まっているので俺が灯の指に針を刺して血判を押す。


「オン コロコロ センダリマトウギソワカ」


 薬師如来の真言だ、薄く光ってエリスと灯の傷が治る、だが自分のは治らないようだ。


「こっちは頼む」


 エリスに手を預ける。


「大いなる癒しを、この物の傷をいやしたまえ、ヒール。」


「大分大げさだな」


 ギルマスが苦笑いを浮かべる。


「痛いのは慣れてないんだよ」


「痛いのは慣れてないそうです」


 こっちの言葉を要約してエリスが翻訳する、大変だなエリス。


「前の世界は平和だったのか?」


「こっちみたいに年中人が死んでるわけじゃないからな」


「こっちよりは平和だそうです」


「宝の持ち腐れじゃないか」


「それで良いのさ」


「それで良いんだそうです」


「そんなもんかね」




「出来上がりだな、不備も無い様だし。」


 ギルマスが血判の状態を確認して納得すると、金属板を取り出すと血判を押した紙の上に乗せる。手をかざして小さくつぶやくと紙が燃え上がった、燃え尽きた後には名前の文字が写った金属板が残っていた。


「はいよ、身分証明だ、失くすなよ?」


「はい、ありがとうございます」


「ありがと」


「ありがたく」


「革ひもはサービスだ、気になるようだったら自分で鎖でもなんでもつなげてくれ」


「十分だ、しばらくはこれでいい」


「大丈夫だそうです」


 ひとまず首にかけておく。登録は済んだらしい。

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