第138話 文学少女の仕込み

 家に帰ったら、ばっちりメイクを決めた状態のアカデさんが待ち構えていた。

 いや、何故に?

「アカデさんも一緒に食事会だったんですね?」

 珍しいパターンだ、来客が有る時点で珍しい。

「ええ、お世話に成ってます。」

 何時に無く奇麗だ、アカデさんは化粧するイメージは無かったのだが、珍しく白粉を叩いて、紅を指したらしい、尚且つ、何だか顔が赤い、目が潤んでいる様に見えるし、上気しているのだろうか?ついでに服装も灯がデザインした新しい物だった、着せ替え人形にでもされたのだろうか?

「作った化粧品と服、試して見たんですね?良く似合ってます。」

 灯とエリスが安心した様子でため息を付いた、二人と言うか灯辺りの仕込みだろうか?

 義母上は面白そうに見ている。何か有るらしい。

「有り難うございます・・・それで・・・あの・・・えっと・・・」

 何時に無くどもって居る、中性的な行動が目立つというか、研究者としてのあれこれを優先しているので、このパターンは珍しい。

「使い勝手如何です?白粉(おしろい)が重金属の酸化物ばっかりで金属中毒が怖かったものだから、義父上経由で圧力賭けてもらって、重金属系の材料を禁止してもらったんです、代わりのレシピ渡して大人しくさせました、流石に鉛と水銀は不味いですよね?」

 話し難い話題でもあるのか、気まずそうなので、取り合えず取り付きやすそうな話題を振ってみる。

「はい、食器に鉛使って中毒に成って居たのが確かに居ました。化粧品にもそんなもの使われてたんですね?しばらく化粧した事無かったんで材料なんて気が付きませんでした。」

 どうやら、平常運転に戻った様だ。

「服が何時もと違いますけどどうしました?」

「すいません、少し汚してしまったので、灯さんにちょっと借りました。」

「光を預けたんだけど、丁度放水しちゃいまして・・・」

 灯が気まずそうに捕捉する、成程。

「すいません、ご迷惑おかけして、洗濯しておきますので。」

「大丈夫です!赤ちゃんが漏らすのは当然なんです、気にしないで下さい!」

 アカデさんがぶんぶんと手を振って此方の謝罪を否定する。でも何と言うか、何時もの会話ペースと方向が違う気がする。

「まあ、其れはしょうがないですよね、何かあったら言って下さい。補填させてもらいますから、何かしてほしい事あります?」

 その一言にニヤニヤしながら見ていた灯の目が光った、気がした・・・

「一寸作戦会議です、お借りします。」

 灯が露骨に何か企んでいる様子でアカデさんの手を引く、少し離れた部屋の隅でエリスも混ざってこそこそと何か相談を始めた、何をするのやら・・・

 パスが繋がって居るので、魔力の流れを感じれば隠し事の意味を成さないと言うが、結局その技術にはあまり慣れて居ないので、何方かに抱き着いて居ないと使えない、思考を読むのはマナー違反だと思うので、まあ気にしない事にしようと言う事で流しているが・・・、いや、エリスと灯には常に読まれているが、まあ、些事だろう・・・

「程々に頼むぞ?」

 聞こえる程度の声で釘を指して置く、命に係わる事に成る事は無いだろうが、変な事をされる可能性はある、させられる可能性だろうか?

 此方の一言にアカデさんがびくりと反応する、いや、何故アカデさんが反応する?

 アカデさん経由で何か仕込むと言う事だろうけど、揃って悪だくみでもしているのだろうか?

「ほら、やっぱ駄目です。」

「私でも出来たんで、大丈夫です。」

「アレ試して見ましょう?うちの故郷のネタです、これ言うだけで良いですから・・・」

 こそこそと何か言って居るが、何だろうか?

「よし、いってらっしゃい。」

 灯に盛大に背中を押されてアカデさんが前に出る、白粉の上からでも判る程度に上気しているが、さて、何を言われるかな?

「えーっと、模範回答をお願いします。」

 灯が前置きをしている、作麼生切羽(そもさんせっぱ)でもするのだろうか?

「はい?」

「月が奇麗ですね!」

 ぶ?!

 アカデさんの一言で思わず吹き出しそうになった。夏目漱石のアイラブユー?

 ある意味浮気なのだろうが、嫁2人がノリノリで背中を押しているのなら問題無いのだろう。

「それじゃあ一緒に見に行きましょう?」

 後ろの灯がガッツポーズを取った。因みに、デートでもしましょうか位の意味である、拡大解釈すると結婚しましょうかにでもされるのだろうか?、ちなみに模範解答「私死んでも良い」が、私は貴方の物ですと言う意味に成るので最上なのだが、其れを返すのはちょっと違うだろう。今回男女逆だし。未だ夫婦でも何でもないし。

 灯の入れ知恵だとするのなら、意外と文学少女だったらしい。

 だがアレだ、明らかに俺と灯しか意味が解って居ない、当人のアカデさんと、見物しているエリス、義母上が意味が解らないと言う様子で見ていた。

「解説要ります?」

 3人揃って頷いた。


「俺達の故郷で学のある連中に流行った愛の告白の言葉です。判る奴には判る程度の知名度で、「我君を愛す」を、そんな直接的な物は風情が無いと言う事で言い換えた物です。灯に言わされただけじゃないんですよね?」

「言わされましたが、間違いでは無いです。」

 今更意味が分かったのか、真っ赤に成って居る、意外と耐性無かったのかアカデさん、こうなると意外と可愛い気もする。

「因みに、返し文句は「死んでも良い」が最上、「一緒に何々」が上、「遠くに」「手が届かない」「奇麗じゃない」が脈無しです。」

 灯が補足する、ちゃんと意味を知った上で言わせたらしい。

因みに、この世界にもちゃんと月は有る、2つほどが回っていた。

「そんな訳で、惚れられたので責任取って下さいと言う事です。」

「私達は反対しませんので、ご安心ください。」

 灯が解説、エリスが補足する、既に雰囲気も何もあった物では無いが、まあ、恥をかかせる訳にも行かないので、丁寧に対応しよう。

「まあ、先ずは作戦会議と言うか、意識のすり合わせをさせてくれ・・・」

 しかし、二人の時は色々余裕が無かった分だけ勢いが有ったが、今は雑念が多いな・・・

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