第94話 二人目の赤子と帰れない猫
エリスに出産時抱え込まれていた腕は、内出血する程度には絞められていたが、骨が折れなかったので軽症の内である。
そんなエリスは出産途中で寝てしまい、産んだ時の記憶が無い事を悔やんでいたが。
「頑張ってたのは分かるから大丈夫、二人共無事なら満点、何も問題無い。」
と、暫く抱きしめて褒めながら撫でて居たら上機嫌になったので何の問題も無かった。
「で、名前どうしましょう?」
「エリスの子供だから、アリスかイリスで。」
「相変わらず安直ですね。響は悪くないので大丈夫だと思いますけど。」
「じゃあ、イリスで。」
エリスの最後の一言でそのまま決まった。
「偉大な錬金術師に成りそうな名前ですね。」
何処かの一陣の風でシリーズ化されてそうではある。
「そっちの意味も有りそうだが、ギリシャ神話で虹の女神の方にして置く。」
「そういう意味が有ったんですね・・」
灯が関した様子で呟き。
「仏教徒の和尚さんがギリシャ神話って言うのも不思議ですが、今更です?」
お約束の突っ込みが来た。
「世界一緩い日本産仏教徒だからな、何の問題も無い。」
お約束の開き直りである。
「ああ、この武器って、持ち上げられると重心バランス良いから振り回すのに力要らないんですね?」
産後のリハビリ運動と言う事で、外で武器を振り回して居る、灯に続いて、エリスもリミッターが外れたらしく、購入当初は持ち上げるだけが精一杯だった長巻を軽々と振り回して居る。
長巻と言う武器は所謂太刀の柄を長くした変形の大型武器だが、柄の部分を長くした理由が間合いを伸ばすためでは無く、純粋に持ち手を長くする事によって重心バランスと、振り回す時に両手を効率的に使えるようにと言う目的の為だけに作られているので。実質片手で振り回す刀や、両手で振らない事も無いが、持ち手の間隔が狭い太刀や大太刀、野太刀よりも取り回しは楽なのだ。
何だかんだで無事エリスがこの武器が使えるようになって良かった。
前回の微妙に不吉なフラグが段々と形に成って居る気もするが、今の所死亡フラグでは無いから大丈夫だろう。
そんなこんなで、灯とエリスの出産も終え、バタバタして居る内にあっという間に冬が明けた。冬の最後には大量の雪が積もり、積雪30センチを記録した。確かに一年目の子猫が家に上がり込みたいのも分かる。
そして、冬が明け、そろそろ猫が出ていく時期になった。
「基本的に冬越しに来た猫は寝床と餌要求するけど、懐かないので、春に成ると何時の間にか居なくなるんですけどね・・・・」
「にゃあ」(この状態で帰れると思うか?)
何時ものエリス解説に冬越し猫がそんな恨みがましい目つきでこちらを見て来る。
家に上がり込んだ時より気持ち大きくなった猫には、俺達の子供たち、光とイリスがべったり張り付いて居る。
生まれた時から近くにいて、何かと遊び相手に成って居るため、すっかり懐いてしまったらしく、居なくなると泣くのだ、猫でも泣く子には勝てないらしく、気まずそうに困った顔で居座っている。
一度振りほどいて野生に帰ろうとしたようだが、子供たちは尻尾をつかんで離れず、家を出るどころか外に行っても離さずに引き摺られ、猫が根負けしたようだ。歩き始める前の赤ん坊の握力は強く、指を捕まらせるとそのまま持ち上がるのだ。
なお、ちゃんと怪我しない様に生暖かい目で大人たちは監視していた、色々安心である。
「出来る限りで良いから、こいつらの相手してくれると嬉しい。」
「にゃあ」(隙があったら帰るからな。)
「エサは奮発するから。」
「にゃああ」(良い肉持って来いよ?)
「言ってる事判るんですか?」
真面目に猫に話しかける俺に、エリスが不思議そうに突っ込みを入れてきた。
「いんや、何となくそんな事言ってるんじゃないかなと。」
全て自分の脳内保管である。
「翻訳パスって繋げられないのか?」
「動物と人間だと思考形態違うんで上手く繋がらないんです、下手につながると思考混ざって酷い事に成ります。」
「残念。」
「残念です。」
灯が会話に混ざってきた。
「ぬーさんとお話しできると思ったのに。」
「ぬーさん?」
何の事だかは予想できるが、突っ込みを入れて置く。
「主の子供だからぬーさんで、何時までも名無しじゃ可哀想なので。呼び名を決めてみました。」
「ぬーさん。」
「にゃあ。」(勝手に決めるな。)
灯の呼びかけに、冬越し猫改め、ぬーさんが不満そうに鳴き声を上げる。あくまで想像だが・・
「普通の猫ですって。」
エリス的には未だ猫らしい、猫と言うには既に一回り大きい気がするが、気のせいにしておくと。まあ、呼び名が変わっても今の所実害は無いのでまあ良いか。
どうやら暫く縄張りにすると開き直ったらしく、家の内外にマーキングをするようになった、麝香のような匂いがする。中でマーキングは止めてくれと説教したら中でするのは無くなった、話は通じるようである。
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