第180話 アカデの回想 精神的には無害な人

「じゃあ、実際あの人に判定してもらいます?」

 灯さんが良いことを思いついたという様子で、突然変なことを言い出した。

「え?」

「女の私達から言っても、自信にならないというか、多分上滑りするんで、あの人に判定してもらうのが一番手っ取り早いです」

「其の手が有りましたね」

 灯さんが問題無いと言う様子で捕捉すると、エリスさんも其れが良いとばかりに同意する。

「あの人なら分かり易く反応してくれる上、絶対に手を出して来ません、色々安心です」

 そういう問題だろうか?

「信頼厚いんですね・・・」

「伊達や酔狂で一緒に居ません、アレだけ強いのに私達に酷い事するって言う選択肢は一切無いんです、身の安全は保障します」

 灯さんが力強く断言する。

「そんな人だから大丈夫です、万一の時は私達が握り潰しますから」

 一体何を握り潰すのか・・・・

「分かりました、お願いします」

 ここまで来たら乗って見よう・・・・

 万一変な事言われたら凹むかもしれないけど・・・


 灯さんが大声で呼ぶと、特に躊躇せず此方に来た、流石に呼ばれた意味は解らなかった様なので、灯さんとエリスさん、一緒に改めて説明した所で、覚悟を決めて、裸身を晒した。

「よく見て判定をお願いします」

 和尚さんは、一瞬躊躇した様子を見せたが、躊躇したのは一瞬で、改めて私の身体に目を向けた。

「女だと思いますが?奇麗な身体だと思います」

 特に嫌悪感が湧いた様子も無く、只奇麗だと発した、一瞬その言葉を疑い、和尚さんの顔を見る、若干照れたのか、少しだけ赤くなっているが、その眼には嘘を言って居る様子は一切無かった。

「子供産めないとしても?」

 追い打ちをかけて見る。

「問題は其処では無いでしょう?本人と周囲の認識次第であって、少なくとも女と見ますが?」

 特に迷った様子も無い、どうやら本気だ。

「初対面では?」

 咄嗟に変な事を言って見る。

「うちの二人が初対面で女と認識したので女だと思いますが。」

 愚問だった・・・・

「成程、理性的なお答え有り難うございます。」

 そういう対象として見られると言う事に。今更羞恥心が湧いて来て、寒さの分も有って、改めてお湯の中に身を沈めた。

「結局これはどういう流れだったんだ?」

 状況説明が足りなかったらしい和尚さんが、呆然と言った様子で呟いた。


 用事が済んでしまったが、何とも言えない空気が流れる、此処で用は済んだのであっち行ってくださいは余りにも不義理な気もする。

 自分から見せたのだから叫んで恥かしがる流れでも無い。

「じゃあ、一緒に入っても?」

 思ったよりこの人は積極的だった。

「果てしなく狭いですね・・・」

 揃ってお湯に身を沈める、灯さんとエリスさんは元から妻なのだから拒否する流れも無い、私が開き直れば八方丸く収まるのだから、特に問題は無い。

 実際問題、この人を真ん中に入れて私がすぐ横に居ても手を出して来る様子は無い、まったく手を出されないと言うのも有る意味寂しいが、そもそも私はこの人の妻と言う訳じゃ無いのだし。当然なのだが。

 其れはそうと、自然な様子でペタペタとくっ付いて居るこの3人が正直羨ましい。


 其れはそうと、実際に戦っているのを始めて見て、今裸を見て居るけど、見事な身体だ、伊達や酔狂で冒険者をやって居ないらしい。

 贅肉も無く、しっかりと付いた筋肉が主張している、ある意味理想的な身体だった。

 どうせだから少しぐらい触れても良いだろうか?


「所で、エリスさんと会った時、ゴブリンに襲われているのが私だった場合、同じ様に助けてくれました?」

 お湯の中で脱力しているせいか、次から次に変な事が口をついて出て来る。

「仮定の話は無意味ですが、ほぼ間違いなく助けたでしょうね。」

 分り切っていた答えを聞く、もう過ぎている事なので、無意味なのだが・・・

「もっと早く会いたかったです・・・」

 思わずそう呟く、私が立てた浄化の仮説を別の人が先に証明して、あの時其れで助かって居れば、もしくは、この人がエリスさんみたいに助かるタイミングで・・・そうすれば、私も結婚出来て、子供が産めて、更にこの人の知識を研究のダシに使って、色々と論文が書けて・・・

 この論文は私のライフワークだ、例え私から全部抜いたとしても之だけは残った。

「そうですね・・」

 そんな私の内面の葛藤は何処吹く風と言った様子で。和尚さんが答える、

 ゴブリンネタは何処まで行っても暗くなるので困った物だ。


 夜は、同じテントで寝させてもらった、裸の付き合いをした仲だ。今更恥かしがる物でも無いと言うか、純粋にこの場所、夜は寒いのだ、4人で入ったテント(ツエルトと言うらしいが)は狭いが、とても暖かかった。

 そして、見張りも立てずに皆一緒に寝ると言うのは少し不安でも有ったが、鳴子はしっかり仕掛けて居るので、イザと言う時は起き上がれると言う事らしい。

 そんな状況に安心したのか、意外と良く眠れた。


 明け方にゴブリンの死体を漁って居る物が現れた、しっぽを含めて5m程の蜥蜴と言うか、小型のドラゴンだった、鰐とも違う、当然だがサラマンダーとも構造が違う。

 少なくとも私が初めて遭遇する生き物、出来る限りこのまま観察して生け捕りに・・・

 と、言いたい所なのだが、生け捕りで運ぶ方法が無い

 泣く泣く仕留めて持って帰らせてくださいと言ったら、危なげ無く仕留めてくれた、頭が潰れてしまったのは残念だが、それでも貴重なサンプルなのは変わらない、有難く研究させてもらおう。


 流石にこの餌場を放置するのは危険だと言う事で、和尚さんが炎を出して、腐った死体の山を一掃した。

 どんな大魔法ですか・・・・

 正直、この餌場が無くなるのは残念だと思ったのは秘密だ・・・


 そして、後日、今回の出来事の結果として、灯さんに言い負け、和尚さんに目一杯可愛がられて、結婚する事に成るとは思わなかった。

 アレ?何でこんなとんとん拍子に?

 そして気が付いたら、この時に思い浮かべた妄想が子供以外は実現する事に成って居た。

 その結果は、思ったより、幸せでした・・・

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