第122話 後始末3 死体の処理
門の辺りに来ると、名状しがたい臭いが周囲に立ち込めていた、具体的には生き物が腐り始めた臭いだ。
「大分臭いな・・・」
思わず呟く。
「臭いんです、どうにかしてください。」
探すまでも無く、灯とエリスは見つかったと言うか、先にこっちが見つかった。
二人の後ろにはゴブリンの死体を山と積んだ台車が惹かれて居る、明らかに他の冒険者の方々が牽いて居る台車より大きく、大盛りだった。尚且つ、涼しい顔で軽々と牽いて居る、こう言う重量物を扱う時は、力が強いと言うのは其れだけで活躍できるので、便利だ。においがきついと言う事で、申し訳程度にハンカチを口の部分に巻いている、気休め程度だろうが、無いよりはましだろう。
「この前みたいにお経で浄化してください。このゴブリンが成仏してるかどうかはさておいて、このままだと片づける前に色々腐って病気に成ります、絶対に間に合いません。」
灯が断言する、エリスも同感らしい、こくこくと頷いて居る。未だハエが沸く段階では無いのが救いだが、既に臭いので、時間の問題である
「其れは確かになあ・・・」
明らかに数が多い、何万単位の死体が転がって居る、
「殆ど賽の河原の石積とかの気分です。」
と、灯が。何気に例えが仏教系になってきている。
「幾ら運んでも終わりが見えませんね・・・」
エリスもげんなりした様子だ。
「解った、やってみる。」
何時もの様に居住まいを正して、般若心経を唱え始める。
「摩訶般若波羅蜜多心経・観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪、即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶、般若心経。」
目を開けて、居住まいを崩す。
「せっかく数が多いのに、出来れば日が沈んでから見たかったですね・・・」
灯が少し残念そうに呟く。前回同様、ゴブリンの魂が蛍の様に空に昇っていくが、夜では無いので太陽の光に負けている為、良く見ないと判らなくなって居る。
「残念です・・・」
エリスも残念そうだ。
「しょうがないだろう、早目にしておかないと腐って雑菌大量繁殖でエライ事に成る。」
夜まで待つとすると菌類の増殖は乗数計算なので時間経過で色々酷いことになりかねないので、夜まで待つわけにもいかなかったのだ。消毒薬として扱われる坊主と言うのも謎だが、その方向で頼られるのなら、その通りに応えるだけである。
「後は、この山を虚空収納か・・・」
ゴブリンの死体の山、一番大きい山に手を触れて、虚空菩薩の真言で虚空収納に収める。
「ノウボウ アキャシャ ギャラバヤ オン アリキャ マリ ボリ ソワカ」
一塊、連続して繋がっている分が纏めて虚空収納に収まる。完全に全て収まるまで都合良くは行かないらしいが、台車に乗せて一回ずつ運ぶよりはマシだが。
「思ったより地味ですね。」
灯が少し残念そうに呟く。
「すまんね。」
「全て纏めて収納した挙句に何かしましたか?ってやって欲しかったのです。」
「どこの孫様だ・・・」
「私たちの今までの苦労は何だったんだってやった挙句に、仕事無くなったから、さあ帰るかってやってのんびりする流れにして欲しかったのですけど。」
「運ぶ作業に早くも飽きたと。」
「そんな訳です。しょうがないのでまた地味に運びます。」
灯は諦めて運び始める体勢を取る。エリスは一足先に運び始めている。ごねても無意味な自覚は有るらしい。
「最終運搬地点って何処?」
現状何処に運ぶのかすら分からないので、聞いて置く。
「この村の防壁、それぞれ両脇です、近い方に順次運ぶ感じで、でっかい穴掘ってあるので、係の人に満載の台車預けて空の台車回収して以下エンドレスって感じです。」
灯が説明する。
「ある程度先に集めている場所に付けて、台車満載まで乗せてもらって、私達は運ぶだけです。」
エリスが補足説明を入れる。分業はされて居るらしい。
よく見ると、ある程度集まったボタ山状態にゴブリンの死体が積み上げられている。
「和尚さんは、あの山に成ったゴブリンを順次虚空収納に収めて行くだけで良いです、其れだけで私たちの負担も減りますから。」
エリスが具体的な指示を出す、大分分かり易くなった、
「了解、収められるだけ収めて置く。」
「よろしくお願いします。」
ある程度隠して置きたかったが、今回の活躍で既に目一杯目立って居るので、もう開き直る方向で良いだろう。
その後は、各々が無心で集め、運び、埋めて、収納して行った。
それぞれの場所に積み上げられているゴブリンの死体を只管虚空収納に収めて行った、夜に成る頃には、浜の真砂(まさご)の様に周囲を埋め尽くして居たゴブリンの死体は、大分片付いた。
収納したゴブリンは其のまま収納したままである、虚空収納の収納限界は今の所感じないので、虚空の概念は恐らく無限に近い物なのだろう。
「お疲れ様です。」
「暗くなったから今日は此処までです。」
「お疲れ様。」
周囲が暗くなったため、二人も作業を終えて引き揚げて来た、他の作業員もそれぞれ受付のギルド職員に一声かけて引き揚げて行く。自分達も同じ様に引き上げる事を伝えると名前をチェックされているようだ。
「今は報酬出せる状態じゃないので、ちゃんと後で払いますので、急ぎじゃ無ければ請求は後日お願いします。」
ギルド職員が申し訳無さそうに説明する。
義父上の書類の量は知って居るので、此処で無理を言ってもしょうがないだろう。
「大丈夫です、それまでは待ってますから。」
取り合えず待っておこう、現状財政的には困って居ない。
帰った後は、改めて酒を飲んで潰れ義理の義父上に散々礼を言われながら愚痴を聞かされ、当の義父上は言うだけ言って其のまま潰れて眠ってしまった。よっぽど溜って居たらしい、お疲れ様でした・・
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