第121話 後始末2 負傷者
「お前らに頼みたいことがあってな、戦場に転がってるゴブリンの死体の浄化処理と、負傷者の浄化治療、それと、結局何匹仕留めたのか、何をどう仕込んで何をやったのか、どうやって生き残ったのか。その辺の報告も聞きたくてな。」
確かに、そこら辺の報告は必要だろう。
「それなりに長くなりますけど・・・」
お約束の前フリをする。
「ああ、そっちの報告は後回しで良い、むしろ明日で良い。俺の仕事を今増やされても困る。負傷者の浄化治療を最優先で頼む、教会の神父、クルアの浄化では毒が抜けきらん。その後でゴブリン共の死体の浄化と後片付けの手伝いを頼む、手が空いてる冒険者をかき集めて手伝わせてるが、数が多すぎて手が足りない、一旦収納に収めて、別の場所に穴掘ってあるから、其処まで運んでくれれば良い。」
死体をまとめて埋めるのならば、どうせなら糞尿も混ぜて硝石丘にでもしてしまおうかと思うが、今言うと仕事を増やしてしまいそうなので、後にして置こう。
「了解しました、負傷者は何処に?」
「教会の療養部屋に纏めて運んで放り込んである、今は昔の俺みたいに毒による高熱で唸ってる所だ、早目に頼む。」
「了解。」
「浄化なら私たち出番無さそうですから、先に門の方に行って後片付け手伝って来ます。」
灯が出番が無いと判断して別行動を申し出る、少し珍しいが、力仕事なら丁度良いだろう。
「任せた。こっちも終わったらそっちに行く。」
「任されました。」
灯とエリスが揃って頷く。
「そんな訳で行って来ます。」
「ああ、頼んだ。報告は明日で良い、こっち終わったらいい加減帰るから。」
そんな事を言う義父上に送り出されて、依頼の場所に向かった。
教会に行くと、無事を喜ばれ歓迎されて療養部屋に案内された、20人ほど野戦病院の感覚で床にも寝ている、寝台が足りないらしい。熱にうなされた様子でうめき声が部屋中に響いて居る。
「見ての通りです、私の浄化では、最初の即死を防ぐのが精一杯の様で、その後の傷口が腐るのと、この高熱が防げませんでした。」
神父さんが額に汗を浮かべて寝ている手近な患者の包帯を解いて傷口を見せて来る。傷が炎症を起こして治りが悪いらしく、傷の周囲が張れていた。
「傷は洗ったんですよね?」
念の為治療法を確認する。
「はい、良く洗って浄化をもう一度かけて包帯を巻いて居ます。治療魔法を使って傷を塞ぐと中で余計に腐ってしまうので、この傷は塞げません。」
元の世界の知識と照らし合わせても特に間違ってはいないらしい。そうか、腐る傷は治療使えないのか。元の世界でも動物に引っ掛れた傷や噛み傷等の雑菌多めの汚れた傷は化膿してしまい、縫合出来ず、仮止めだけで様子見するので同じ様な物らしい。魔法が有ってもこれは変わらないのか。意外と世知辛い。
「それでは。」
居住まいを正して、何時もの様に般若心経を唱え始める。
「摩訶般若波羅蜜多心経・観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経。」
何時もの様に唱え終わり、目を開けて効果を確かめる。
「どんなもんでしょう?」
先程まで苦悶の表情を浮かべて居た負傷者の方々の様子が、大分落ち着いて居る。
「大分落ち着きましたね、傷の腫れも治まって来ています。」
神父さんが効果を確認して、感心した様子で言って来る。
先程まで真っ赤でパンパンに腫れ上がって居た傷口周辺から赤味がひいて腫れも治まって来ている、どうやら効果は有ったらしい。
「治療も出来ますけど、どうします?」
薬師如来の真言を使えば治療も出来るので、提案して見る。
「完全に毒が抜けて安定したのか、少し様子を見たいので、私の方で後日やっておきます、でも、時間をおいた分だけ治りが悪くなって傷跡残りますので、この人の分だけ貴方に治療お願いして良いですか?」
この人だけ先に頼むと案内される、一人だけ少し離れた場所に寝かされていた。
ああ、成程と、その患者を診て納得した。顔、頬の辺りに盛大に切られてしまった傷が有る、しかも女の人だ。顔は包帯で判別できないが、性別ぐらいは骨格で判る。
「女性の顔の傷は、当人にとっては死活問題ですから。奇麗に治らなければ、その後が暗くなります。」
此方にもこう言った物を気にする文化は有るらしい。リスクが有っても奇麗に治す事を優先したいと。
「オンコロコロセンダリマトウギソワカ。」
薬師如来の真言で傷の治療をする、痛々しかった傷が、繋がり塞がり、傍目には奇麗に治る、近距離で見ると流石にバレるかもしれないが、遠目には判らないと・・思う・・・
「奇麗に直ってる・・・と、思いますけど、どんなものでしょう?」
神父さんに判定を頼む。
「私が治療するより奇麗です、十分ですよ。」
褒められた、なら大丈夫だろう。
「治療したのは私なので、文句が有ったら此方に言うように言って置いて下さい。」
「大丈夫ですよ、あの傷をそのまま貴方が治療せずに、私の未熟で腐らせて、周りの肉を抉り取ってもう一度繋げた結果と比べて考えれば、文句を言う方が烏滸がましいと言う物です。」
「なら良いんですがね。後は大丈夫ですか?」
「ギル殿の様に処置が遅れて腐りきってしまった訳では無いので、歩けなくなるような事も無い筈です、男の冒険者の傷跡なら勲章ですから。」
其処はあまり気にしないらしい。少し男には厳しいのか。
「・・・関節部と顔の傷は治しておきますね。」
一応、治療して置こう。男といえど、あまりにひどい傷では気の毒だ。
結局、追加で数人治療して、教会を後にした、さて、次は死体処理か・・・
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