第141話 番外 スライム

時系列は合ってますけど、別に話は進みません。

面白生物話です。

ついでに、本体のタイトル変えてみました、シンプルイズベストなら良いんですけど、激しく地味です。



「スライムの時期ですけど・・・やります?」

 ファンタジー生物の名前が唐突に出て来た、此方でも聞いた事も無い、どうせなら初めて見る物ならやって見たいが。

 提案してきたのはエリスだが、口ぶりが嫌そうだ、どうやらあまり気が進まない様子。

 だが、貼り出して有る依頼書を見ると。

「緊急、スライム大発生中、人数制限無し、人手求む、受付で装備を受け取る事。」(要約)

 灯が声を出して読み上げる。

「夏のこの時期に出る生き物なのか?」

「スライムは、夏のこの時期、水温が高くなると川や池の淀みに時々大発生するんです、去年は出なかったんですけど、今年は当たり年らしいです・・・」

 エリスが何時も通りに説明する、かなり嫌そうだが・・・

 秋に大量発生するオオマリコケムシの類だろうか?

「大分嫌そうだけど?」

「この暑い時期に、水辺なのに水に入れる訳じゃ無いし、張り付かれた時の傷と、感触が凄く嫌なんです・・・」

 エリスは遠い目で説明する。

「でもこれ、緊急付いてますよ?」

 灯が突っ込んだ。

「村の中でも、子供とか家畜とか襲われるんです、毒は無いんですけど、うっかり助けるの遅れると、実際助からないんで・・・しょうがないです、請けます。」

 どうやら覚悟を決めた様子だが、エリスには悪いが、どんな面白生物なのかと楽しみだったりする。

 何時もの様に受付を済ませると、道具を裏口で配って居るので借りて行けと指示を受けた、受け取った道具は、目の細かい網と、鍋、それと、携帯用の魔石コンロ?


「絶対に水に入らないで下さい、食われます、と言うか、吸われます・・」

 水辺には他の冒険者の姿も有った、対岸に居た冒険者が、水辺に近づきすぎたらしく、泥濘に足を取られて立ち往生している。

「ああ成ります・・・」

 足を取られた冒険者の足元から、半透明の細かい物体が登って行く、服の露出部分に張り付いた半透明の物体が赤く色づいて行く。吸血生物?と言うか蛭?

 近くに居たらしい仲間の冒険者が投げ縄で足を足られている冒険者を引っかけ、周囲の冒険者の助けで引っ張られて救助されて行く。

「何ですアレ?」

 灯が嫌な物を見たと言う様子で呟いた。

「アレが依頼の駆除対象、スライムと言うか、水棲の群蛭(むれひる)です。」

「確かにアレは色々嫌だな・・・」

 思わず同意する。

「基本的にスライム、水棲の群蛭は水の中に居る生き物なんですけど、ああ言う感じに獲物が射程距離に入ると、何処からともなく寄って来ます。打撃斬撃の類は効かないと言うか、効果が薄くて効率悪いんで、水からこの網で掬って、お湯沸かした鍋に放り込むか、沸かしたお湯をぶっかけるのがお約束の駆除法です。」

「前の骨蛭みたいに燃やすのは?」

「水気が多すぎて全然燃えませんので、あの方法では無理ですね。」

 そう言いながら、鍋をコンロにかけてお湯を沸かし始める。ちなみにこのコンロ、携帯するにはそこそこ大きく一抱えほどあるので、村の中なら兎も角、普通の冒険者が外に持って行くのは辛そうだ。

「水の中だけなら、水辺を立ち入り禁止にしたら?」

「生息数が少ない内だと、水の中から出て来ないから安全なんですけど、数が多くなると群体化して、あんな風に、お互いの粘液で乾燥を防いで陸上に上がってきます・・・」

 半透明の塊が陸上を這い回って居る。

「こっちお願いします!」

 エリスが大声で他の冒険者を呼ぶ、その声に反応して冒険者が飛んで来て、お湯をかけて駆除する、成程、そういう流れなのか。

「有り難うございます!」

「気にするな!金は出てるからな!」

 どうやら良くある事らしい、当然の風景として連携している。

 お湯をかけられたスライムは、固まった状態から崩れて単体状態にばらけている。

 熱に負けて死んだり、たんぱく質が熱で変質して変透明の身体が白く濁っている。

 一塊30センチ程、一匹単位だと5センチ程、形は蛭だが、口の部分が大分ごつい。

「気を付けて下さい、一回かけただけだと、生き残ってたりするんで・・・」

 その言葉と同時に、生き残って居た蛭が跳ねた、咄嗟に下がるが、腕に一匹張り付いた。咄嗟に掴んで引っ張ると、自分の皮膚を巻き込んで剥がれた、丸い口の噛み跡が残っている。

「うわ・・・」

「こうなるんです、だから気を付けて下さいって言ったんです。」

 少し呆れ気味にエリスが回復魔法を使って治療してくれる。

 無事痕も無く治った。

「回復出来ないPTだと、この傷が残ります、さっきみたいに盛大に張り付かれると全身にです、嫌ですよね?」

「納得です・・・」

 灯も同調する、誰でも嫌だと思う。

「それと、水の中を覗き込まないで下さい、陸上だと半透明でそれなりに目立つんですけど、水の中だと殆ど見えなくなります、こんな風に。」

 何も居ない様子の澄んだ水の中にエリスが網を入れで、軽く掬って網を引き上げる。

 網の中には先程の蛭が入って居た。1匹2匹ではなく沢山・・・

「見えなくても居るんで・・・」

「数が多過ぎません?」

 思わずと言った様子で灯が呟いた。

「この時期に大量発生すると、こんな感じで水の中が埋まります、水の温度が大事なんだとか。温い水温が生育に重要なんだそうです。」

「去年のワサひっこ抜いて来た泉は?」

「あそこは水が冷たすぎて、生育条件に合わないそうです。」

 網の中の蛭を鍋に放り込んで駆除する。

「数が多すぎると群体を形成して、乾燥耐性つけて半陸生に成るんで、せめて数をある程度減らせればって感じですね。」

 陸に上がってきた分に沸かしたお湯をかける。

「秋冬に成れば勝手に居無くなるんすけど、この時期雨降るんで、うっかりしてると地面濡れてるとここぞとばかりに変な所に移動して、家の中に入られたとか、水たまりにみっしり居て襲われるとか、冗談じゃないんで、結構怖いです。」

 水の中に網を入れると幾らでも採れる・・・ゼリーの塊の様な蛭がいっぱい入っている・・・

「もしかして陸生の群蛭も居る?」

「居ますけど、之よりは大分マシですね、群の規模小さいですし、明確に対策在りますし。」

「対策?」

「煙の匂いを凄く嫌うんです、和尚さんも魔の森に居る時に焚火焚いて煙浴びてますから、アレが一番の対策なんです、知ってた訳じゃなかったんです?」

「故郷の虫とダニ、蛭対策だからな、習慣的に、合ってたなら良かった。」


 最終的に、虚空の蔵に収めて居たゴブリンの死体を餌にして蛭をおびき寄せたのだが、参加した冒険者がげんなりするほど集まったとだけ・・・


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