第41話 水源
「この辺で川が地図から消えますね。」
エリスが地図を確認しながら解説する。
うっそうとした森が広がっていた、川沿いに移動すれば良いだけなので道には迷わないが、沼以降道が無いので歩みが遅い。
ゴブリン村で手に入れた鉈でやぶこぎしていたが、切れ味が今一なので例の剣で切り払っている、ある意味草薙の剱だ・・
エリスと灯は既にペースが遅れてきているので段差が有る度に俺が引っ張り上げている。
「いったん休憩にしておこう。」
「そうですね。」
「休みましょう。」
瓢箪から水を飲みつつ果物をかじって休憩する。水はすぐ近くで流れているが、もう一度試薬で確認してもまだまだ鮮やかな紫だ、浄化するにしても結構怖いので水の補給はエリス頼りだ。
「和尚さん、疲労回復のツボとかあります?」
手を出してきたので軽く揉んでおく。
「この間の足じゃなく?」
「あれ痛いじゃないですか・・」
「痛くないのもできるぞ?」
「何で痛い方にしたんですか・・・」
灯が恨みがましい目を向けてくる。
「指圧系は痛い方が良く効く気がするってんで評判だからな。それと純粋な力加減。これもそうだし。」
軽く力を籠める
「いだだだだ。」
「こんな風に。」
「個人的な趣向も入ってませんか?」
「反応してくた方が楽しいのは事実だが、お好みに合わせるさ。」
「もしかして針もできます?」
「出来るし、針なら痛くないけど、消毒するのに火種ほしいから外では出来ないぞ、針もないな。」
医療用の針は見かけなかったので普通の縫い針を蝋燭等で炙って消毒して使う事に成るので、帰ってから改めて準備する事に成る。
「エリスも。」
「ありがとうございます。」
灯の手を揉み終えてやって欲しそうにしていたエリスの手も揉んでおく。
平等に扱っておかないと後が怖い。
それからしばらく歩いて飯休憩や小休憩を繰り返して原因らしい所に到着した。
「あれって?」
遠めに見てもおかしな物が見えたので思わずつぶやく。
「ドラゴンですよね・・・」
灯もおかしな物を見たという様子で呟く。
さっき見たようなサラマンダー系ではなく明らかにトカゲと言うより純粋なファンタジー系の羽のあるドラゴンだった。
死体だが・・・
周囲には大量の動物やらゴブリンの死体が転がっている。
明らかに腐っているらしく、ハエや蛆や昆虫、酷い匂いが充満している。思わず手前で揃って足を止める。
「何がどうなってこうなってるんだ?」
「私にも何が何やら・・・」
エリスもよく解って居ないようだ。
「純粋なドラゴン何て見たことないのが普通です、この辺で見かけたなんて話も聞いた事無いです。」
そりゃあなあ。
「さっきの沼ドラゴンは?」
「でっかいのはドラゴン級って意味で言ってるだけなんで正式な意味じゃないです・・」
「まあ、毒物の原因らしいものが目に見えるこれで良かった、これ全部浄化すれば良い訳だな。」
解りやすく腐った死体が水源を汚染して毒になっているらしい、水質汚染の理由としては良くある事だ。
一先ず中心であるらしい竜の死体を確認しようと一歩歩を進める。
ぐるるる
そんな唸り声が聞こえた。どこからだ?と、槍を構えて周囲を見渡す。
竜の死体が動いた・・・
突然身を起こした竜からは腐った肉やら血液やらが零れ落ちる。
「死んでたんじゃないのか?」
「ドラゴンゾンビです!」
エリスが叫ぶ、ゾンビ何て存在するのか?
そんな事を考えているうちに問題のドラゴンゾンビが動き出す、身体は重量を感じさせる重い動きだが、体が大きいようなのでそこそこ早い。だが、間に合うな。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
何時もの早九字ではなく、正式に一文字ずつ印を汲んで発動した。丁度ドラゴンゾンビが到達する前に間に合い、そのままぶつかってドラゴンゾンビが動きを止める。
結界に触れた部分が焼けたようにぼろぼろと崩れる。
ドラゴンゾンビは痛みを感じていないように、そのまま力ずくで突破しようと動いている。どうやら迂回する知能は無いらしい、思わず安心して観察していると後ろの動物の死体が動き出した。
「早く浄化してください!」
エリスが叫ぶ。
「摩訶般若波羅蜜多心経・観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経」
居住まいを正している余裕はなさそうなので右手で槍を持ったまま左手だけで祈る。
それだけでも効果自体は十分だったらしく、腐った肉がぼろぼろと崩れ、土に還って行き、骨だけになっていく。
肉が無くなったと思ったがどうやら骨に黒い物が纏わり付いて居る。
肉が無くなって動かなくなったのかと思ったが、黒い物が筋肉の役目を果たしているらしく、筋肉の代わりに収集して動いている。未だ九字切り結界は生きているので、もう一度般若心経を唱えてみるが、これ以上の効果は無いらしい。しょうがない。
「オンケンバヤケンバヤウンバッタソワカ」
荒神真言を二人にかける。
「ノウボウ アキャシャ ギャラバヤ オン アリキャ マリ ボリ ソワカ」
虚空の蔵から鉄の棒を取り出す。
「結果解除して叩き折って来る。ちょっと離れて、ヤバくなったら呼んでくれ。」
「はい・・」
「気を付けて下さいね・・」
灯とエリスが不安そうな顔で離れる。さあ、行くか。
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