第246話 危ない飲み方

「故郷ではもっと冷やして、凍る直前のエクストラコールドって言う飲み方もあって、雑味が消えてもっと美味しく……」

 ピキッピキピキパキッ

 既に寒い酒蔵の中で、更に寒そうな音が響いた。

 音源を探すと、カナデの手元のグラスがみるみる内に凍り付いて行く。どうやら魔法の類らしい。

 説明を聞いた直後に試したく成ったらしいが、何処かで見たような行動パターンだ、血の繋がりは無いらしいが、やっぱり姉妹だ、よく似ている。

「寒いんだから程々にな?」

 思わず目をむきつつ、そうつっこみを入れる。

 当人のカナデは、冷やすのに気が済んだのか、ワクワクした様子で悠々とグラスに口を付け。

 ギシリと音がしそうな感じに固まった。

 無音の静寂が辺りを包み込む。

「もしかして、くっつきました?」

 灯が状況を確認する。

 唇が冷やし過ぎたグラスに張り付いて動けなく成ったらしく、動きにくそうに小さく肯いた。

「どうしましょう、お湯でも持ってきましょうか?」

 灯が手助け案を出すが。

「うーう」

 小さく唸りながら首を横に振るので、どうするのかと観察すると、微妙に苦しそうな変な体制でグラスの中のビールを飲み干した。

「ふぃぃ」

 と言った感じに満足そうな吐息を漏らすが、唇がグラスに張り付いたままで有る。

 当人は満足げなのだが、唇が段々と紫色になって来ているし、小さく震えている、ついでにグラスを掴んでいる手も冷えて来たのか何時も以上に真っ白だ。

「ああもう、見てられん」

 思わず凍り付いたグラスを抱えるカナデの手事自分の手で包みこんだ。

 グラスと言わず手の方まで冷え切っていて、凍傷が心配に成る程に冷たかった。

「冷やし過ぎだな?」

 驚いた様子で目をむくカナデの顔が直ぐ近くに有る、自力で冷やしたのだから、自力で温める事も出来そうな物だが、咄嗟で混乱して居るのか、未だ冷たいままだ。

「あう」

 相変わらず唇が張り付いたままで、母音しか発声出来無い様子だ。

「下手に動くと剥がれて血が出るから落ち着け」

 凍傷系の傷は何気に深くて怖いので、あまり見たく無い。魔法や真言で治療出来るにしても、だから怪我して良い何て言う思考には馴れないのだ。

「ちょっとじっとしてて下さい」

 灯が断りを入れる。

 ポ

 不意にグラスの中に熱源、炎が生まれた、又魔法らしい。

 ほんの少しの間、ゆらゆらと炎が揺れ動いて消え、グラスが温まり、カナデの唇がグラスから離れる。

「まったく、何でお酒の試飲だけでこんな騒ぎに……」

 灯が呆れ気味につぶやいた。

 アピールなのか、灯の指先に炎が一瞬点って消える、そう言えば着火は出来る様に成っていたなと思い出す。

 結局自分はこの世界の魔法に馴染めて居ないので、真言系しか使えないのだ。

「あひが……」

 未だ冷えてるんだから無理しないで下さい

 お礼が途中で止まり、カナデが顔をしかめる。未だ口が上手く動かないらしい。

 しばらく口を閉じてモゴモゴと動かしていた。

「で、どうでした?」

 しばらく待ってやっと大丈夫になったのか、安心した様子で息を吐いた。

「美味しかったです」

 カナデ本人は満足げに笑みを浮かべた。

「それは何よりです」

 思わず返す。カナデが此方の言葉に反応したのか、目線がこっちに来た瞬間、何故か赤くなった。

「では、仕事に戻りますね?」

 そう言って手を離し、パタパタと酒蔵から出て行った。



「あれ?」

 カナデが消えた蔵で、灯が変な声を上げた。

「どした?」

「カナデちゃんも目線変わりました、落ちました?」

「俺に聞いても無駄だろう?」

 女心がひと目で分かるのなら苦労はしない。

「と言うか、多分ちょっと口の辺り怪我してる筈何で、後で治療してあげて下さいね?」

 私の仕事はここまでだと言う調子だ。

「そういや治療して無かったな」

 治療する前に逃げるように行ってしまった。

「そんな訳で、とっとといってらっしゃい」

 無責任気味に、背中を盛大に押されたので、リアクションとして大げさに飛び出した。


 追伸

 実は温めるより冷やす方が高等技術。

 でも酒が絡むとポンコツなので。飲んだ後は気が抜けて、次の行動に移るまでのタイムラグが長すぎて、思わず手を出されたと言った感じ。

 因みに、魔法と治療は別系統だったりするので、実はカナデは治療が使えない。

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